1.猫又語り:プロローグ
短期集中連載。
完結まで執筆済みです。
吾輩は猫又である。名前はたくさんある。
幼少の頃、すなわち母猫より生まれ、最初の飼い主に貰われた時に付けられた名前はタマ。
縄張り拡張の旅に家出した後、居ついた商家ではスズ。
その商家の主人が、破落戸に一家皆殺しにされた折に、化け猫に変化した。
無事、主人の仇を討ってからは、平凡な猫又として元禄の江戸の世から、平成の東京の世までを、ある時は野良猫として、ある時は飼猫として過ごしてきた。
吾輩が覚えているだけでも、口白、黒坊主、アシシロ、ノラ黒、ボス、ジョージ、ミオ・・・など吾輩の名は数多いのである。
ちなみに吾輩は、艶のある黒毛を基調にし、口元から胸元までと4歩の足の先が白毛という黒白のコントラスが美しい猫又である。もちろん尻尾は2本あるが、普段は一本に見せかけている。
吾輩は数軒の通い家をキープして優雅な半野良生活を行っていた。
そして、この日も巡回を終えて、郊外の公園の滑り台の上で昼寝をしている時、妖しい気配に目が醒めると、あっと言う間に光に包まれたのだ。
吾輩も妖しであるがゆえ、超自然的な現象には慣れていた。
しかし、周囲の景色が一変し見知らぬ場所に運ばれるなど、初体験。
これが名高い神隠しであろうかと、毛づくろいをしながら動揺を鎮めようとしていると少女の声が聞こえた。
「やったー、成功した! 可愛い猫!!
あたしは、ラズピリス。
あなたの名前は、えーと、そう、マタタマ。これからよろしくねっ!」
吾輩を上から覗き込む、ピンク色の髪をした少女が勝手に名乗り、勝手に他猫の名前を宣言する。
吾輩は猫又である。名前はマタタマというらしい。