マーメイド
幼なじみの彼女は人魚だった。両足が一本に繋がった少女。小さい頃から車椅子で過ごしていた。
ある時彼女は言った。
「私の足はどうしてみんなと違うの?どうして歩けないの?」
僕は答えた。
「それは君が人魚だからだよ」
それ以来、僕の中で彼女は人魚になった。
彼女は泳ぐのが上手かった。足をくねらせ華麗に水中を踊った。僕はその時彼女の足が、まるで魚の尾のように見えたんだ。
水から揚がって人魚は言った。
「私、歩きたいの。自由にいろんなところに行ってみたい」
僕は答えた。
「それは無理だよ。君は人魚じゃないか」
それ以来、人魚は地上で歩く練習をした。彼女は跳ぶようにして地上を移動した。ある時人にぶつかって殴られてしまった。
人魚は倒れた。
「痛い。どうして私は殴られたの?」
僕は言った。
「わからないよ。その痛みもわからない」
彼女は涙を流してして言った。
「きっと私が人魚だからなのね」
僕は頷いた。
「きっとそうなんだろう」
震えた声で彼女は言った。
「私、泣いても良いかな?」
「いいよ。もう泣いてるじゃないか」
人魚は僕の胸に顔を押し付けた。冷たいものが肌を伝った。僕の着ている真っ白なYシャツは悲しい色に変わってしまった。
その中で、彼女は言った
「私、海を創るわ。自分だけの海。そこで精一杯泳ぐの」
僕は答える。
「その海で、君は浮き上がれないと思う」
「どうして?」
人魚は顔を上げた。そこには海が出来ていた。
「君は人魚だから、涙の中じゃ泳げないんだ」
「人魚にも泳げないところがあるの?」
「そうだよ」
彼女は俯いて言った。
「私、そこで沈んでいたい」
僕は笑って言った。
「いいよ。何度でも引き上げてあげるから」
彼女は震えた声で言った。
「ありがとう」
僕を見上げた彼女の海は干上がって、川が出来ていた。その川の下に、貝殻みたいな笑顔があった。
僕は彼女に言った。
「君は人魚で良いんだ。僕はそんな君を見ていたいから」
彼女は人魚だから、僕は海でいたい。
なんか本棚あさってたら人魚姫って絵本見つけて、それ読んでたら思い付いた話。