雪解けの刻
僕はしばらく庭を眺めていた。
物干し竿をかける辺りだけ草の背が低く、すぐ後ろは生えっぱなしの藪になっている。
僕が欠伸を大きく一つすると、少女が「おい」と僕を呼んだ。
僕は立ち上がって台所に行く。
「これ、向こうに運んでくれ」
ご飯が装われている茶碗を渡される。
少女は僕に茶碗を渡してすぐにまた背を向けて、何か準備を始めた。
卓に夕飯が並べられる。
大根下ろしが添えられた焼き秋刀魚に、大根の味噌汁、それに茶碗一杯のご飯と、お茶が置かれて、少女と僕が二人とも卓に付く。
少女は手を合わせた。
「いただきます」
僕もそれに習って手を合わせる。
「頂きます」
僕はご飯を食べながら、少女に聞きたかった事を聞いた。
「あのさ」
少女は湯飲みに入った熱いお茶をどこかの親父のように啜ってから答える。
「なんだ?」
「僕の能力ってもっと強くなるの?」
少女は少し、動きを止める。
物を噛む口だけは動いていた。
「なるが」
呟くように言う。
「じゃあ、僕もあの、能力を能力で打ち消す奴やりたいんだけど」
少女は黙って聞いている。
「あ、そういえば君の能力ってなんなの? そういえば名前は?」
少女はいっそう音を響かせて茶を啜ったあと、それを勢い良く卓に叩きつけて言った。
「ええい、一度にうるさいな」
「あ、ご、ごめん」
僕は少し悪い事をした気分になった。