休戦の懐柔
僕は少しの間、呆けてから、畳の上に寝そべった。
乾燥したイグサの香りが、違う土地でも僕の心を落ち着かせてくれる。
今、少女はいない。
逃げ出そうと思えば逃げ出せる事だろう。
しかし、僕は負けたのだ。
今、一時的に逃げ出して、家に戻った所で、また連れ戻されるのが目に見えている。
それに僕は少し気になる事があった。
それは少女の言葉。
少女の言い振りだと、僕も鍛錬を積めば、能力で能力を打ち消す能力を得られるようだ。
考えてみれば、能力は極めたと思っていたが、心のどこかで、限界を感じていた気もする。
僕よりも強い少女と一緒に暮らせるのは、能力を鍛える良い機会だ。
少女に従って、能力を鍛えて貰おう。
少女も悪い人間では無いようだし、鍛えてくれそうだ。
しばらくは大人しく、ここで少女と一緒に過ごそう。
そんな事を考えていると、少女が帰ってきた。
「良い大根があったんだ、今日は大根の味噌汁に、大根を下ろして、秋刀魚を焼いてだな」
少女は口を休めずに夕飯の献立を並べ立てる。
さっきの話がまた生し帰って、気まずい雰囲気になる事を恐れているようだ。
僕もそれは恐ろしいから、素直に少女の言動を受け入れた。
少女は言葉を切らさずに、買い物袋を置いて、手際よく前掛けを締める。
「腹減っただろ、今から飯だ、ちょっと待ってろ」
しゃもじを僕の方に向けてそう言ってから、暖簾を潜って台所に入っていった。