制限器
浅田は少し考えてから言った。
「制限器として使え」
「制限器?」
「そうだ、普段はその刀を使う事によって、あえて戦闘を不自由にして、本気を出す時に刀を手放すんだ」
「……そういう事か……」
手入れを怠って錆び始めている刀を眺める。
刀は綺麗に手入れをしておく事が望ましいという事は分かっている。
しかし、実際に使う刀を綺麗に保っておくのは現実的に不可能だった。
僕は刀を手にして早々にこれを綺麗に保とうという考えを失った。
浅田から受け継いだその時に、すでに、小さな錆があったからだ。
浅田ですら錆びさせている刀を僕が綺麗に保つ必要なない。
なによりそんな事を気にしていては一番重要な僕自身の修行に集中ができなかった。
実用刀であるこの刀は切れ味が鈍れば自分で研ぐ事になる。
一々研ぎになど出していられるはずもない。
そうなると必然的に研ぎは荒くなり、研ぎが荒くなれば錆びも起こり易くなる。
美術品として考えるならばそれは致命的な欠陥だが、実用刀としては錆びていても研ぎが荒くても刃が付いていれば何ら問題がなかった。
僕の聞きたい事が終わった事を察した浅田は何気ないようにまた口を開く。
「私は死にそうだったんだ」
僕は刀から目を離して浅田の方を見る。
背筋の伸びた後姿が綺麗だった。
「白鬼はやはり、一筋縄では行かなくて」
「あと少しで、奴の脊髄を粉砕分割せしめられると言う所で、お前の顔が頭に浮かんだ」
「お前の笑っている顔を思い浮かべると、何か、自分で自分を律しているような箍が外れてな」
「全力を出し切る事ができたんだ」
段々下がっていく浅田の頭を後ろから見つめながら、浅田の言葉に共感していた。
僕も浅田の笑っている顔を思い浮かべると、何か靄がかかっていたような心が晴れて、自分の全力を出し切る事ができる。
「それでな、白鬼を倒した後も、私は結構な傷を負ってしまった」
「もう死ぬのかも知れないと、正直思った」




