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温泉
「いいんだ、ここは私が見つけた風呂だ」
「そ、そうなんだ」
言われた通りに温泉に入る。
温度が少し高めで、泉質はただのお湯のような温泉だった。
何か効能とかあるんだろうか。
少しすると浅田も入ってきた。
恐る恐るといった感じでお湯の中を歩いて、僕の目の前に腰を下ろす。
「な、なんで? もっとそっちとかあるでしょ?」
僕が少し離れた所を指差すと、浅田はその手を弾いてどかした。
「な、なぁお前」
「何?」
「私の事をどう思う?」
浅田は珍しく僕と目を合わせようとしない。
「どう思うって、カッコ良いとか、そういう事?」
浅田は何も返事をしない。
「浅田はカッコ良いと思うよ」
「そうじゃない」
「じゃあ何?」
浅田はまた黙り込んでしまう。
慎ましやかな胸の膨らみが目に入り、僕は慌てて目を逸らす。
「ふん」
浅田はその様子に敏感に気が付いて鼻を鳴らした。
「な、なぁ、お前」
「何?」
僕はうんざりしながら返事をする。
「お前、好きな奴とか、いるのか」
「いないけど」




