恋慕
しかし、僕は浅田の言っている事の意味が分からない。
「良い人?」
「そ、そうだ」
浅田は胡坐をかいて、できた足の隙間に手を入れて恥かしそうに下を向く。
「良い人って何? 僕は良い人?」
「ば、馬鹿かお前は!!」
浅田は勢い良く立ち上がり、僕を怒鳴りつける。
「え?」
「もう良い! 風呂に入る! 罐焚きをしろ!!」
浅田は床を強く踏み鳴らしながら風呂へ行ってしまった。
次の日、僕は温泉に誘われた。
もちろん浅田にだ。
浅田は思いつめたような顔で仕度をする。
棚からタオルを出して、掛けてあった浴衣を着る。
準備ができると「おい」と僕を呼んで、山の中に湧いた温泉に二人で歩いて行った。
温泉は湧き出るお湯が岩の窪みに溜まった所だった。
浅田は僕に背を向けて一気に浴衣を脱いで、それから僕の方に向き直る。
鬼と戦った時にできたと思われる傷が塞がって痕にになっていた。
タオルを持った右手と何も持たない左手で胸と股間を隠している。
肌は傷や傷跡だらけであるにも関わらず、健康的な独特の美しさを持っていて、少し紅潮しているように見えた。
女らしい体のラインを補強するように付いた筋肉も凛々しく張り詰めていて、色気があった。
「お前も脱げ」
「こ、ここって混浴なの?」
「当たり前だ! 見れば分かるだろ! 早くしろ!」
裏返った声でそういうと背中を向けて、桶にお湯を入れに行ってしまった。
僕は戸惑いながらも服を脱いで全裸になり股間をタオルで隠す。
足音をならして温泉に近付くと、浅田が僕の様子を横目で窺がった。
「さ、先に入れ」
「体洗わなくていいの?」




