少女の強さ
考えてみれば、そうだ。
僕は、今、最強の人間だ。
事を荒立てずに済まそうと、こんな辺鄙な場所まで付いて来たが、相手が、一切、僕の気持ちを考慮しないとなれば
全力を尽くして抗うしかない。
僕は掌を上に向けて、小さな重力の塊を出現させた。
それを見た少女は、素早く膝立ちになり、横においてあった刀を左手に握った。
僕は、僕とその周辺以外に高重力の影響を及ばせる。
しかし、やはり少女は、高重力の影響も、その二次的な効果によって生じる時間遅滞の影響も、受けている様子がなかった。
「やめろ、お前では私に勝てない」
少女は済ました顔で僕に諭すように言う。
「馬鹿が、お前が僕に勝てないんだよ」
僕は掌に持った高重力の中心を、少女のそばへと突きつけた。
重力に吸い寄せられて、皮膚が抉れ、肉も抉れるはずだ。
しかし、少女は平然と僕の掌の上の、重力の塊を、抜刀斬りで横一線に切り払った。
僕は驚きからしばらくそのまま固まっていた。
少女は納刀の音を響かせてから、畳みに正座する。
「破魔の一太刀」
少女は瞼を落として、呟くように言った。
「簡単に言えば、能力で能力を打ち消す基本的な技術だ」
「薄々は気付いてると思うが、私もお前と同じく、力を目覚めさせた」
少女は木像のように微動だにせず、目を瞑り、口だけを動かして、言葉を紡ぐ。
悲しみの感情を押し殺しているようだった。
「私もお前と同じなんだ」