変化
自嘲を込めるその言葉。
「けん兄、変わっちゃったんだ」
あきらは呟くように言葉を漏らす。
「けん兄は変わらないと思ってたのになぁ……」
あきらは空を見上げて、涙を流す。
「私、変わっちゃう人って嫌なんだ、ずっと変わらない人が、好きで、それで、けん兄は、変わらなくて、それで、それで、」
僕はあきらを抱きしめる。
「僕は何も変わってない。ずっと、メイドカフェの事だって忘れなかったでしょ」
「……ホントに?」
「変わってない、いつもどおり気持ち悪い顔してるでしょ」
僕がそういうと、あきらは体を離して僕の顔を見つめる。
あきらの目は涙で真っ赤になっていた。
「ホント、だ、気持ち悪い……」
あきらは笑顔を作りながら涙をさらに溢れさせる。
「僕は変わってないよ……」
その実、僕は変わっていた。
浅田との過激な日々の中で、精神を矯正されてしまっている。
なにより、今ではあきらよりも浅田への想いの方が強い。
しかし、それは僕からすれば“変化”ではなく“成長”だった。
でもそれはあきらにしてみれば「変わってしまった」事に他ならない。
僕は成長した自分を隠して行くしかないのだろうか。
「うん……」
あきらは僕の胸に顔を埋め、涙をこすり付けている。
浅田と出会う前は、僕の大切な人と言えばあきらだった。
僕は年の離れたあきらがとても可愛く、我侭でもなんでも聞いてあげたいと思っていた。
しかし、あきらの為を思うとある程度の厳しさは必要で、僕はその匙加減に四苦八苦していた。




