虚無
あきらは刀を見て驚き、動きを止める。
「それ、け、剣だよね?」
「そうだよ、大切な刀なんだ」
僕は言葉を出す際に、涙が流れそうになってしまった。
“大切”という自分が発した言葉に、勇ましく立つ浅田の後ろ姿を思い浮かべてしまう。
強く、優しかった浅田。
今まで会った誰よりも正直で、自分とも僕とも真正面から向き合っていた浅田。
優しい浅田。笑った表情。決めた心を秘めた瞳。
浅田の事を思い出すと、唇が震えて、瞳が潤んでしまう。
もう、浅田は居ないのだ。
また、あの浅田との日々を過ごす事は、もう二度とできないのだ。
あきらはすぐに涙を堪える僕に気が付いた。
しかし、あきらは何も言わず、聞かず、黙って僕が次の動作に移るのを待っている。
僕は気を持ち直して、立ち直り、刀を抜いた。
浅田の荒々しさによって擦れた刀身に、能力を込める。
重力を極めて軽くする事によって、刀の時間の流れを早くする。
その刀を、軽く振り、汚れを払ってから、立木に向かって身を構える。
そして、一線に切り払った。
斜め左上に掲げられていた刀は、気が付けば斜め右下に下りている。
何の抵抗も無いように、鮮やかに立木を斜めに両断する。
すぐに木はずれ落ちて、自重で土の地面へと刺さった。
異能によって木を切断するその技は、明らかに人間技ではない事が一目見れば分かる。
僕はあきらの方を見た。
「僕は超能力を持ってるんだ」
あきらは反応をせず、驚いたまま立っている。
「僕は、もう、普通の人間じゃないんだ」




