衒いの真実
いつの間にかその少女は僕の部屋の中に立っている。
僕が重力をかけている空間に、何事もないように悠然と立っている。
「私と一緒に来てもらう」
僕は驚きと恐怖から何も声が出せなかった。
少女は黒髪のショートヘアで、ブレザーのような物を着ている。
顔は凜として綺麗で、背は低い。
背中には日本刀のような物を背負っている。
僕は、能力の通用しない相手の様子を窺がうために、とりあえず少女の言葉に従う事にした。
僕が連れて来られたのは、人気の無い山の中に、突如としてある、隠れ里のような所だった。
上は一体に木の葉が茂らせてあり、外からは何も見えないようになっている。
かなり鄙びていて、人は少ないようだった。
僕はその中にある建物の一つの、広々とした日本家屋に通された。
縁側には穏やかに陽が降り注ぎ、季節を大きく外れた風鈴が綺麗に音を鳴らしていた。
「さて、何から説明しようか」
畳に僕を座らせた少女は、お茶を淹れながら話始めた。
「……まず、お前はもう、俗世には帰れない」
少女は、真っ直ぐに僕の目を見つめた。
「お前の力は、もう、俗の物であって良い物ではない」
僕は“帰れない”という言葉を聞いて、妹の顔が頭に浮かんだ。
今年で中学2年生になった妹のあきら。
僕によく懐いていて、「けん兄、けん兄」と慕ってくる。
そういえば今度いっしょにメイドカフェに行くという約束をしていた。
僕は少女に言い返していた。
「僕はお前のいう事なんか聞きたくない」