流れる時間
浅田は僕のアンダーシャツを引っ張って無理やりに立たせる。
強い力で引っ張られたシャツは伸びきって、そして破れた。
「腑抜けた顔をしているな」
そういって庭に連れ出され、バケツで頭から水をかけられた。
冷たい。
僕は泣きそうになってしまった。
この状態で走るのは無理だと、そういう弱音が、頭をもたげて来た。
「軟弱者がぁああああああ!!!!」
浅田はそんな僕をまた刀で浅く斬りつけて走らせる。
そして走り終わると優しい言葉を掛ける。
そんな事が何日も何日も、延々と続いた。
気が付けば3ヶ月の月日が流れていた。
季節は寒い冬になっている。
庭で浅田に薪割りを仕込まれていると、山の方から地響きが聞こえた。
浅田はすぐに頭だけを動かしてそちらを見る。
「来たか」
その声には恐れと緊張と、そして期待のような感情が篭もっていた。
浅田は僕と薪を放って、家の中に入って行った。
そして作務衣を着て、腰に刀を差して出てくる。
「悔いる事何も無し。心を晴らすはお前の光。求めて参ったここが場所。今こそ立って、背を見せる時なり」
浅田は朗らかな声をいつも以上に朗らかにして、そう唱えてから走り出す。
僕はその様子から尋常ではない雰囲気を感じ取った。
「ちょ、ちょっと!! どこ行くの!!?」
「今こそ立ち上がる時。私の背中を見ろ」




