猟果
浅田の見つめる先には動く物があった。
体毛が茶色く、落ち葉に紛れてよくは見えないが、イノシシらしい。
浅田はゆっくりと刀を抜いて、後ろ足を地面に踏ん張った。
そして驚くほどの力強い跳躍をして、一気にイノシシとの間合いを詰める。
一直線に進む途中の邪魔になる木は、強化された手で受け止めてその腕力で自分の体の方向を転換し、木を避ける。
そしてその木に引っ掛けた手で木を後ろに押して、元の軌道に戻り、勢いを弱める所か、さらに勢いを付けてイノシシに迫って行く。
何にも例えられない、浅田独自の進行手段だった。
イノシシが浅田の存在に気付いた時にはすでに浅田の体はイノシシの眼前にあって、目にも留まらぬ速さと正確な太刀筋、そして強靭な力でイノシシの首を落としていた。
イノシシは叩きつけられたように一瞬で地に伏す。
浅田はイノシシが絶命した事をしっかり確認してから、獲物に背を向けて僕に手を振った。
「獲れたぞ!! 今日は鍋だぞ!!」
とても嬉しそうな声で僕に言ってくる。
その声に、僕もなぜだか笑っていた。
「すっごいな!!」
「そうか?」
浅田は褒められた事が素直に嬉しいようで、少し頬を紅潮させる。
「帰るぞ、そんなには疲れなかっただろ」
実際の所、僕は疲れていた。
驚異的な身体能力を持つ浅田の登山に付き合わされて、体力は尽きていた。
しかし、浅田の流れるような狩猟を見て、浅田の心底嬉しそうな言葉を聞いて、僕の疲れは軽くなっていた。
「うん……疲れなかったよ!」
少し悩んでから発したその言葉に、浅田は間を置いてから嬉しそうに答える。
「そうか! そうか!!」
その後、浅田は強化した腕力でイノシシを逆さまに持って、血抜きをしながら歩き出した。




