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必然の邂逅

僕は、重力を操る能力を持っていた。

それは、ほんの小さな力だった。

落ちて行くピンポン玉の落下速度を、ほんの少し遅くするとか、ほんの少し早くするとか、その程度の力。

僕は生まれてからの23年間、この力を人に信じて貰えた事がなかった。

真剣に観察しなければ気が付かないような、小さな変化しか起こせない、小さな力だから、仕方が無いのかも知れない。

 「この超能力、鍛える事とかできないのかな」

僕は大学を中退し、実家でのんびりと暮らしていた。

何もする事の無い日々は、かなり退屈な物だった。

そんな退屈さから、超能力を鍛えよう、と考え始める。

 最初は、ペンを落として、その落下速度を限界まで遅くする事から始まった。

一日に2、3度、ペンを落として、速度を遅くする事に神経を集中させる。

1ヶ月くらいすると、能力に変化があった。

落下速度を以前よりもさらに遅くする事ができた。

僕は充実感とか、達成感に満たされて「これからも訓練を続けよう」と心に誓った。

能力の訓練を始めてから、僕の能力は鮮やかに花開いた。

まるで眠っていた力が呼び覚まされたかのように、加速度的に能力は発達していった。

 3年の月日が流れ、僕は、時間を操れるようになっていた。

強い重力は、時間も歪ませる事が出来る。

ブラックホールなどが良い例だが、高重力の空間の中では時間は遅く流れる。

浦島太郎の竜宮城などはブラックホールの中にあるのではないかと過程する者がいるほどだ。

逆に極めて重力の弱い空間を作り出せば時間を早める事ができる。

僕はその境地に達していた。

しかし、一方向にだけ強い重力をかければ、当然、物や人は押し潰されて、スクラップになってしまう。

そこで僕は上と下、両方に、微粒子レベルで重力をかけてその問題を解決した。

 僕は、今、世界で最強の人間なんじゃないだろうか。

ベッドに寝そべり、掌の中に作った微細な重力の歪みを眺めながらそんな事を考えている。

 突然、窓ガラスが割れた。

粉のようになった破片が僕の顔に降り注ぐ。

僕は咄嗟に重力を操った。

世界に重力をかけ、そして僕の体の周辺にだけ重力をかけず、世界の時間の流れだけを遅くした。

周りの世界の動きを遅くした、はずなのに

「お前はもうこの世の者ではない」

と、聞こえるはずのない、はっきりと聞き取る事のできる言葉が聞こえた。

しゃがれていて、それでいて朗らかな、若々しい、少女の声だった。

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