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第19話

 学園祭の片付けも佳境を迎えている。まあ、要するに校庭もだいぶ片付けられてきたところである。午後六時を過ぎた頃だ。

 校庭に出されていた模擬店や案内などのテントも撤去され、ごく一部の燃えるゴミを除いて、ゴミもまとめられている。後日、業者が引き取ってくれる手筈になっているらしい。詳しくは知らない。まあ、仕方ないだろう。うちの学校には燃やせるモノは何でも燃やす“焼却炉の魔術師”は存在しないのだから。……それより、焼却炉って有ったかな?

 片づけが進む中、校庭にいきなり大型トラックが入り込んできた。……確かにうちの学校、校門は少し広めだけど、よく入って来られたな。凄い運転テクだ。

 運転席から黒髪のスタイルの良い女性が降りてきた。大型トラックなど運転しそうもない女性だが、それがギャップとなって凄いイイ、とは岡野談。校庭で片づけを手伝っていた僕らにとっては迷惑な存在である……と言いたいところだったけど、悲しいかな、僕や井川達の知り合いだった。


「よ、お待たせ。持ってきてやったぞ」


「サンキュー、美和姉。待ってました。よし、直斗、やるぞ」


「マジかよ……」


 計画を聞かされた時は驚いたものだが、冗談だと思っていたんだ。だけど、事ここに至り、井川達が本気であったとようやく気付いた。

 周りで唖然としている岩月さん(まだ、袴を着替える事を許されていない)達から離れ、教室で着替え(執事服からようやく解放だ。僕的には似合わなかったから大助かりだ)、再度校庭に戻った。

 校庭では何が行われようとしているのか、疑問に思った生徒たちが集合していた。ま、流石に全員はいないけど。

 近藤先生が美和さん(井川の姉で、音大生だ)と話をしていた。しかし、未だ袴姿である為――職員会議でも何故か着替える事を許されなかったらしい――、近くで見るだけだったらどちらが年上か分かったものではない。

 許可はとっているのか、校長に許可は貰ってますよ、のやりとりをしり目に、僕らはいきなり開いた後部のコンテナ――こう言うのかな? 正式名称は知らない――に乗り込んでいく。オープンした場所には、ドラムやらベースやらがセットアップされた状態で置かれている。よく見ればキーボードまである。僕らのバンドにキーボードはいないから、うん、美和さんが飛び入りするつもりなんだろう。

 この大型トラック、よくゲリラライブの映像で見る大型トラックと似ている。いったいいくらかけたんだろう、このトラックに。おのれ、ブルジョワめ。まあ、凄い事は認めるよ。実際、井川の家でこれで練習した事もあるし。しかし、学校で実際にコレに乗る事になるとは……。


「ちーっす。これからゲリラライブしまーす。三十分くらいだから、許してね、近藤先生」


 さっきから、中止させようと息巻いていた近藤先生だけど、檀上――トラック上?――からこう言われて、集まった女子生徒たちから「中止になんてしませんよね?」と言う無言のプレッシャーを受け取り、動きを止めていた。恐るべきは、女子生徒のパワーか、それとも、そうさせたイケメンパワーか。僕が呼びかけても絶対にこうならないというのが、よく分かる。

 うん、やはり組む相手を間違えたな。これでは、僕がどれだけギターの腕が上達していても、女の子にモテる筈がない。まあ、こんなステージを真面目に音楽やっているワケでもないのに経験できるのは、嬉しい事だけど。




 そして、約三十分のゲリラライブが幕を開けた。

 恐るべきはイケメンパワー。全校生徒の半数以上が見に来たと思うけど、その大半――七割以上か?――は、女性だった。そして、その視線の九割九分が、僕には向けられていない事を感じ取る事が出来た。まあ、そのおかげで多少ミスしたところで、何事もなかったかのように続けられたのだけど。




 やがて、ゲリラライブも終わった。井川達はまだ余裕そうだったけど、僕はもう限界寸前だった。

 これ以上、弾けない。汗ダラダラ。


「今の曲でラストね。流石にこれ以上演奏()るのは危険だから。でも、あと一曲やりてえ。ホントのラストだから」


 おい、僕はもうこれ以上弾けねえよ? 勘弁してくれ!!


「皆、生徒会長の歌声、聞きたくねえか?」


 だけど、その井川の声を聞き、僕は盛大に頷いていた。うん、聞きたい。とても、聞きたい。

 その場に集っていた男子生徒も、僕同様に考えたのだろう。野獣の如きどよめきが広がり、終いには「会長!! 会長!!」のシュプレヒコールが巻き起こった。……こういうの、シュプレヒコールって言うのか? まあいいか。


「おっし、じゃ、生徒会長にラストの曲を歌ってもらって、今日は解散だ!!」


 そう言って、井川達がトラックから降りていく。ああ、そうか、僕たちがいたら岩月さんが目立たないもんな。

 僕も続いて降りていこうとしたら、


「ばぁか、直斗はここに居ろよ」


 と松本に居続けられる事を命じられた。何故に?




 やがて、井川に手をひかれて岩月さんが檀上ならぬトラック上に上がって来た。


「え? あの? 私が、歌うの? 人前でまともに歌うたった事ないんだけど……」


 よく分からないうちに引っ張られてきたんだろう。まだ、テンパっている。


「大丈夫、落ち着きなさい。一曲歌うだけなんだから」


 そんな岩月さんの背中を優しく叩く美和さん。キーボードの所まで歩いていく。おいおい、ホントにやる気?


「で、何の曲やる? 直斗君が演奏できる曲なら、私も出来るよ。さ、選曲は雪菜ちゃんにお任せするから」


 いつの間に仲良くなったのだろう? 僕だってまだ、岩月さんを名前で呼んだ事ないのに。


「え? え?」


 未だ右往左往している。ここまで慌てている岩月さんも珍しいな。生徒会長として、体育館のステージ上でいつも生徒会長挨拶などしているのとは違うのかもしれないね。

 僕は、ようやく自分を取り戻す事が出来た。アタフタしている岩月さんを見ていたら、僕も落ち着いてきた。


「落ち着いて、岩月さん。どっちにしろ、一曲も歌わずに降りれないと思うよ。覚悟、決めちゃおう」


 校庭では、先程と観客構成が変わっていた。男子生徒が恐ろしい程増えていた。


「……分かりました」


 流石に、このまま降りるのは無理だと、覚悟を決めたのだろう。


「あの曲、弾ける? 神代君」


「あの曲?」


「私たちの出会いの曲……、かな?」


 その言葉で、僕は理解した。美和さんに演奏する曲を伝え、演奏を開始した。

 マイクを通して、岩月さんの玲瓏な歌声が、染み渡るように広がっていく。

 ……観客として楽しみたかった思いはあるけれど、こうして岩月さんと一緒にステージを作り上げるというのも、悪くないな。そう、考えてしまった。




 万雷の拍手が、僕らを、いや、岩月さんを包み込んだ。

 一礼して、岩月さんはステージから駆け下りていった。












 キャンプファイヤー(というのだろうか?)を囲んで、後夜祭が始まっていた。

 火の周りでは、陽気に踊っているカップルたちがいた。学園祭の準備段階から仲良くなった男女が、この後夜祭をきっかけに交際をスタートする事が多いのも頷ける話だ。……畜生、爆発しろよ、お前ら。

 美和さんも、トラックを何処にとめてきたのか、今では戻ってきて岡野と一緒に踊っている。井川は井川で、近藤先生(まだ、袴姿だ)と踊っていた。近藤先生も心なしか楽しそうに見えた。松本は、宮下さんと一緒に踊っていたな。なんだか、皆、とても嬉しそうだ。

 僕は、ボッチだった。おかしいな、せっかくギターはじめて、学園祭でライブに立ったのに、全然女の子にモテないぞ。顔か、顔なのか?

 思考がダークサイドに陥りかけていた時、背中をつつかれた。


「お独りですか?」


 振り向いた先には、未だ袴姿の岩月さん。彼女は冗談で「お一人ですか?」と聞いてきたのだろうが、思考がダークサイドに陥っていた僕には、「お独りですか?」と聞こえたのだ。ボッチ歴が長いと、恐ろしい事になるな。


「一人だよ」


「そっか、私も、今一人なんだ」


 苦笑しあう。岩月さんは、きっと先ほど歌ったのが恥ずかしすぎて今まで逃げ回っていたのだろう。


「僕と一緒に、踊っていただけますか?」


 ちょっとおどけて、僕は手をさしだした。真剣に申し込むのは、やっぱり、恥ずかしすぎるんだ。フラれた時のショックもデカいからね。ミス東桜にいきなりダンスを申し込むだなんて、初期装備で魔王に特攻するくらい恐ろしい。

 でも、岩月さんは僕に笑顔を向けてくれたんだ。キャンプファイヤーの火で少しだけ赤く染まった彼女の笑顔に、僕はまた、心を撃ち抜かれたんだ。もう、何度目か分からないな。


「喜んで」


 そう言って、僕の手をとってくれた。




 ぎこちないフォークダンスだったけど、今まで踊ったフォークダンスの中で、最高の思い出が出来た。

 長かった学園祭も終わり、明日からはまた、いつも通りの少しつまらない日常が戻ってくる。

 それでも、きっと、今日の出来事を僕は一生忘れないだろう。



ゲリラライブセットリスト

①サニー

②光の結晶

③奇跡

④コバルトブルー

⑤My life is My way

⑥Heart of Gold


※①~④はTHE BACK HORN ⑤・⑥はT-BOLAN



生徒会長の歌

世界中の誰よりきっと~Live Version~

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