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第18話

 ライブが、終わった。僕らはステージ脇で息を整えていた。


「そう言えば俺達、何で執事服のままライブしたんだ……? 一応、ステージ衣装みたいなの、なかったっけ?」


「何でだろうな……」


 岡野の声に松本が答えた。井川が「知っているか?」というような目で見てきた為、僕は首を横に振った。分かるわけないだろ、そんな事。


「きっと、着替えるのがめんどくさかったんだろうな……」


 とりあえず、考えつく事を言っておいた。と、言うよりはそれ以外考えられなかっただけだけど。


「しっかし、まあ、一応は成功だな。結構盛り上がったし」


「ほとんどカップリング曲で構成したセトリで、あれだけ盛り上がったのが、不思議でならねえ」


「ま、それだけ宣伝はしていたし、当然だろう」


「……盛り上がっていたのは女の子ばっかりだったけどな」


 井川達が宣伝していた、というのは一応ライブで演奏する曲を決めた後、CDを学校に持ってきて井川達のファンに聞かせまくっていただけの事だ。ま、それでも曲を知っているのと全く知らないのでは、全然差があるんだけど。

 他のステージ出演者が何かやっているけど(バンド形式のライブかな?)、僕の目にも、耳にも入ってこなかった。

 心地いい脱力感が体を支配していた。


「そろそろ、出るか」


「だな」


 僕らは拳をぶつけ合い、ステージ脇から降りた。まだ、少し気分は高揚していた。




 体育館のフロアー(正式名称は、これで合っていたかな? コート? まあ、どうでもいい事だ)に出てきた僕らを熱狂的な声が出迎えた。

 やがて、もみくちゃにされた。……僕以外が。


「…………」


 殺意や憎しみだけで人を殺せるのなら、僕は世界中のイケメンを殺そう。少なくとも、今の僕なら大多数のイケメンを殺せるだろう。


「うわッ!?」


 そんな視線でイケメンを殺せないだろうかと、殺意を込めて女子たちにもみくちゃにされている井川達を睨みつけていたら、左頬に冷たい感触。

 何だろう? と思い、左側を見てみると、スポーツドリンクを押し付ける岩月さん。まだ袴姿だ。学園祭の間中、そのカッコでいてくれないかな? 

僕に体ごと向けるその顔に浮かぶ笑顔は、僕の中にどす黒く渦巻いた殺意という名の、嫉妬という名の闇を希望という名の光で溶かしてくれる、僕にとって、世界さえ変える笑顔だ。


「あ、ありがと……」


 お礼さえ上手く言えない、ヘタレな僕をぶん殴りたい。


「カッコ良かったよ、神代君」


「そ、そう? みんなには負けるけどね……」

 客観的に見れば、やっぱり見た目大した事ないヤツがギターやったくらいで女の子に簡単にモテるワケないんだよね。そりゃ、もうとても技術を磨けば話は別だけど。元々イケメンなあいつらが凄い頑張ってんだもん。僕なんて、単なるオマケさ。


「そんな事ないよ。私的には神代君が一番カッコ良かったよ」


 …………………………ハッ? 今、岩月さんは何を言ったんだろう?







――――※※※※――――


「……って言うか、神代君しか見てなかったというか……」


 ちょっと、言うのは凄く恥ずかしいな。確かに、バンドのメンバーの中ではたぶん、一番下手だとは思うし、他の女の子たちは全員神代君の事を見ていなかった気がするし。何だか、言葉を文字にしたら、告白まがいの事を言っているような気が……。

 うん、恥ずかしくてちょっと神代君の顔をまともに見られないな。どうしよう? 何か言ってくれないかな?

 少しの間、無言の時間が流れていく。なんで、何も言ってくれないのだろう?


「何を期待しているんだ、岩月? 今の神代に何かを期待しても、無駄だと思うぞ?」


 私の肩に手をかけながら語りかけてくる声。近藤先生だ。

 後ろを振り向くと、ホレ、見てみろと言わんばかりにある一点を指さした。神代君のいる方向だ。つられて見てみたら、ポカーンとした顔の神代君がいた。何だか、神代君の周りだけ、時が止まっているみたいだ。


「おーい……」


 あれだけ勇気を振り絞って言ったのに……。少しだけ恨みがましい気持ちになりながら、神代君の前で手を振ってみた。


「……ハッ? 僕は何を?」


 時々よく分からなくなるなあ、神代君は。


「……ケッ、青春しやがってよ」


 近藤先生、私達と十も違わないじゃないですか。


「お、直斗じゃないか。一応、お前に頼まれていたステージ写真、撮っておいたぞ。何が哀しくて俺がイケメンとお前の写真を撮らないといけないんだ? 三次元には興味ないと、常日頃言っているだろうが」


 神代君の友だちのナベ君が毒づきながらも、神代君にデジカメを渡す。……ナベ君って、クラスメイト、だよね? 本名は渡辺だよね……? もう、皆からナベって言われ続けているから、私もナベ君としか、覚えていないんだ。


「……あ、そうだ、スマン、ナベ。もう一つ頼まれてくれ」


「何だよ?」


「岩月さんとのツーショット写真を、撮ってくれ!! いいかな?」


 最後の「いいかな?」は、私に向けられた言葉だ。もちろん、断る理由はないから、OKをしたけど。


「そうか、じゃ、そこに並べ。……よし、行くぞ、はい、バター」


 ……そのかけ声は、どうかと思うよ? まあ、上手く笑顔を作れたかな?


「あ、そうだ、近藤先生とも撮りたいな。イイっすか?」


「うん? まあ、いいが……」


 そうして、次に近藤先生ともツーショット写真を撮ってもらう神代君。む、ちょっとイラつく。

 近藤先生とのツーショット写真も撮り終え、何だか満足げな神代君。まあ、今の近藤先生はいつものスーツ姿じゃないし、少し年上の美人なお姉さんくらいな印象しかないけど。一緒に写真を撮りたいのは分かるけど……。


「あ、てめえ、直斗、近藤先生と一緒に写真何て撮りやがって。おい、ナベ、俺も近藤先生とツーショット写真撮りてえ。お願い」


 言い終わる前に近藤先生の隣に並ぶ井川君。苦笑しながらも許可を出す近藤先生。まあ、神代君だけOKを出すわけにはいかないのだろうけど。そして、先程から撮影係になっているナベ君。可哀相に。

 最終的に、神代君のバンドメンバーと、私、近藤先生での写真も撮る事になった。私の左隣に近藤先生、右隣に神代君。近藤先生の左隣に、当然のように井川君が陣取っているけど、何でだろうね?








――――※※※※――――


 盛況のうちに、学園祭も終わりを迎えようとしていた。

 一応、後夜祭というのがある。強制参加ではなく、希望者のみの参加だけど。

 この後夜祭は今時珍しいかどうか知らないけど、火を囲んで、ダンスパーティーみたいなモノだ。まあ、学生たちが参加しやすいようにフォークダンスを踊るだけだけど。ただ、ここでもカップルの発生率が高い。僕も出来れば今年は参加したい。そして、あわよくば岩月さんと踊りたいものだ。

 しかし、その事はいったん置こう。

 今僕がいるのは、学園祭では使われていない教室だった。何故か暗幕が張られていて、室内は薄暗い。


「諸君、よく集まったな」


 眼鏡をかけた生徒がそこに集まった人間を見まわすように言う。


「さて、今年のミス東桜が決まった」


 集まった学生たちから、おお、という声が聞こえてきた。まあ、別にそこで驚く必要性は実は何処にもないのだが、様式美と言ったモノだろう。


「まあ、皆が予想していたと思うが、今年のミス東桜は、生徒会長、岩月雪菜だ」


 いったいどれだけの数の生徒たちからアンケートをとったのかは分からないが、膨大な票を集めているのが、岩月さんであった。うん、我が事のように嬉しい。そして、僕はもちろん岩月さんに投票している。当然だな。


「当然の結果よのう!!」


 五月蝿いぞ、鬼瓦先輩。あんたの声は太すぎるんだ。そして、こんな場所にあんたはミスマッチだ。空手部員と一緒に夕陽に向かってダッシュしてきてくれないか?


「混戦が予想されていた準ミスであったが……」


 もったいぶる眼鏡。まあ、準ミス候補は沢山いるからな。ちなみに、去年の準ミスが岩月さんだった。去年の卒業生に一人、ずば抜けていたのがいたので、仕方なかったと言える。


「…………近藤遙夏(はるか)、だ」


 ……誰?


「マジで!?」


 お前何でいるの、井川? そして、何でそんなに嬉しさと驚きが入り混じっているの?


「そっか……、いや、今日のあの人なら確かに準ミスに食い込んでもおかしくねえな。マジで綺麗だったモンな」


 うんうん頷いている井川。納得せざるを得ないのだろう。


「なあ、近藤遙夏って、誰だ?」


 僕には見当もつかない。そんな名前の準ミス候補、いたか?


「……お前、副担の名前くらい覚えておけよ」


 小バカにされてしまった。そう言えば、そんな名前だったような気がする。ま、僕にとって岩月さん以外は投票対象ではなかったからな。近藤先生の名前を覚えていなかったとしても、仕方ないだろう。だいたい、あの女性ひとは僕をからかいすぎなんだ。美人なのは認めるけど、少し苦手なんだよな。嫌いじゃないよ。


「ライバルが増えそうだぜ……」


 井川の声だけが、僕の記憶に残った。こいつはもしかして、本気で年上の女教師を狙っているのだろうか? 







 学園祭も、もう少しで終わりを迎える。

 後夜祭、僕は岩月さんをダンスに誘えるだろうか? それだけが問題だ。


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