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序章(裏)

「やった、やった、一曲何とか弾ききる事が出来た……!!」

 

 有頂天になっていたのかもしれない。まあ、まだ上手いとはとても言えないけれど、何とか一曲弾ききる事が出来た。

 それで、嬉しくてつい、大きな声を出してしまったんだ。

 そして、拍手が聞こえてきた事に気付いた。 


「だ、誰かいるの……?」


 うわ、めっちゃ恥ずかしいんですけど。もしかして、こんな下手くそなギターを聞いてくれていた人がいたのだろうか? 幽霊じゃないよね……? だとしたら怖いんですけど。


「あはは、ごめん、でも、上手くなったよね。二週間前はほとんど弾けない状態だったのにさ」


 そう言いながら教室の扉の影から顔を出してきた女生徒がいた。


「岩月……生徒会長……?」


「クラスメイトなんだからさ、出来れば生徒会長の肩書では呼んで欲しくない、かな? 神代直斗君」


 微笑みながら顔を見せたのは、我が校、S県立東桜高校の生徒会長でもある岩月雪菜(せつな)生徒会長だった。

 たぶん、まともな会話をしたのは初めてだろう。挨拶くらいは今までした事もあったけれど。





――――※※※――――




 クラスに一人、いや、学校に一人はマドンナとかアイドルとかいわれる存在がいると思うが、僕の通う高校では、彼女がそうだった。

 クラスメイトの岩月雪菜。

 腰のあたりまで伸びる艶のある黒髪。スタイルも抜群で、運動神経もいい。弓道部に所属し、彼女が生徒会長に就任した事で忙しくなり、弓道部の部長を退いたとも言われている。

 彼女に恋をする男は多い。ついでに言えば彼女に憧れている女生徒もまた多い。ついでに言えばファンクラブがあるという噂だ。もちろん非公式だけれど。

 僕も、彼女に憧れている一人だ。もっとも、挨拶くらいしかした事がないけど、クラスメイトなのに。きっと、ああ、こんな顔の奴がクラスにいるな、くらいにしか認識されていないだろう。念の為断っておくが、ファンクラブには入っていない。

 さらに言えば、彼女に告白して撃沈する男も多い。そして、未だ誰かと付き合っているという噂を耳にした事がない。


 まあ、彼女の事は今どうでもいい。

 バンドの練習も欠かしていないが、個人の練習も出来ればしたい。家に帰ると練習は出来ない。

 副担任の近藤こんどう先生に頼み込んで、夕方教室を解放してもらえる事になった。バンドの課題曲は今のところスムーズに出来ている。だいたい八時過ぎにボーカルの井川いがわ(ボーカルになっただけあり、もちろん、イケメンだ)の家で練習開始だ。それまでは、個人で弾きたい曲を学校で練習させてもらっている。どうでもいいが、僕以外のバンドメンバーは皆イケメンだ。何故だ? 女の子にモテたいと思って始めたのだが、これではモテそうもない。まあいいさ。ゼロでない可能性にかけてもいいじゃない。


 まだ二年生という事もあり、夕方遅くまで残っている生徒はいない。

 下手くそな曲を聞かれ、バカにされたら立ち直れないかもしれない。壊れやすいメンタルなのだ、僕は。

 練習初日、キョロキョロしながら教室に入った。近くで見れば挙動不審に見えてもおかしくはないだろう。

 窓際の自分の席に座り、アコースティックギターをとりだし、簡単にチューニングを済ませた後、弾きだした。

 ベースの岡野おかのに頼んで作ってもらった楽譜に従い、少しずつ先に進めるように弾いていこう。何故ベースの岡野がギターの楽譜を書けるのかと言うと、彼が絶対音感の持ち主だからだ。イケメンの上に絶対音感の持ち主だなんて、羨ましすぎる。何で音楽関係の学校に進まなかったのだろう? まあ、別にどうでもいいけどさ。

 神様は不公平だと気付いたのは、いつだろう? 幼稚園の頃には気付いていた気もするな。

 少し弾きはじめた時に、教室の外から少し足音のような音が聞こえてきた。

 まさか、誰かいるのか……? そして、見られてしまった?

 大慌てで廊下に飛び出した。


「誰?」


 ちょっとビビっていたのは否めない。


「誰もいない、か……。練習しているのを見られるのは恥ずかしいんだよな……」


 ひとり言を呟いているのもちょっと、恥ずかしいけどね。

 

 少しずつ、少しずつでいい。一曲一曲弾けるようになろう。

 バンドの練習も並行してしないといけないけど、どうにかなるだろう。

 運動も勉強もまったく自信がない僕だけど、学園祭で上手くできれば、女の子にモテる事が出来るかもしれないな。

 そして、もし、自分に自信をつける事が出来れば、彼女に――。


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