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第16話

 やはり、美少女と言うのは集客力がよろしい。特に男の。味なんてどうでもいいのだ。美少女をガン見出来るのだから。

 あと、イケメンもそろっていれば女性の集客力も高い。僕のバンド仲間など、見た目だけなら文句なしだ。

 美少女とイケメンが揃っている――美少女と呼ぶには年がいっているのが一人いるが――ので、うちのクラスの模擬店は調子が良かった。斉藤さんの親戚の貸衣装店からタダで衣装を借りているので、出費は基本的にケーキとコーヒー、紅茶の材料代くらいだ。後は、食器代くらいだけど、これはクラスメイトの家から持ち寄ったものだ。おかげで食器代もタダなのだ。高校生なのだから、金はかけられない。本当はちゃんとしたので統一できれば良かったのかもしれないけれど。

 ちなみに、斉藤さんの親戚は岩月さんや近藤先生、あとはバンドメンバーの写真を見せられ、これなら宣伝にもなる、と快諾したとの事。

 なので、売り上げが良ければ後日打ち上げをしようと言う話になっていた。もちろん、僕は参加予定だ。岩月さんも参加予定だと言うのだから、僕が参加しないワケがないのだ。




 しかし、はっきり言って予想外だった。これ程客が来るとは正直思っていなかった。美少女と美女とイケメンのおかげだな。そんな中、僕はちらりちらりと横目で教室の中を窺いながら、客の整理に汗を流していた。まあ、主に冷や汗だけど。

 僕が冷や汗を流している最大の理由は、岩月さんにやたらと声をかける男どもだ。携帯番号を聞き出そうとしたり、一緒に写真を撮ろうとしたりしている。もちろん、そうした行為は禁止であると教室の壁に貼ったりしているのだが、聞く耳持たない連中は何処にでもいるものだ。

 ちなみに近藤先生に声をかける者も大勢いたが、井川と岡野が接客などせずにガードしていた。お前たち、何やってんの?




「なあ、いいじゃんかよ。どうせこの後休憩に入るんだろう? 俺たちと一緒に学際周ろうぜ?」

「いやいや、ここでポッ●ーゲームやろうぜ? なんてったってお客様は神様だからな。神様の言う事は聞かんといかんだろうぜ?」

 

 岩月さんにからむチャラ男集団がいた。髪を染めてところどころピアスの穴を開けているような連中だった。


「困ります。他のお客様の迷惑にもなりますので」


 なんとか事を穏便に済ませようとしているのだろう。岩月さんは出来るだけ相手にしないようにしていた。

 井川、岡野、松本、お前ら接客担当だろう? 何やってんだよ、岩月さんを助けろよ……、そう思いながら視線を向けたが、井川と岡野は近藤先生へのナンパを繰り返す連中に対処していて動けず、松本は女性客からナンパされていた。

 なんだ、この独自の世界は?


「いいからさ、俺達の相手しろって。そうだな、まずは『いらっしゃいませ、ご主人様』トカ言ってもらおうかね」

「バーカ、それじゃメイド喫茶じゃんかよ!!」

「それが嫌ならポッ●ーゲームだな!!」


 四人掛けのテーブルに三人で座っているそいつらは、誰も止めに来ないのをこれ幸いと言わんばかりに岩月さんへの態度をエスカレートさせていた。

 女性陣の助けは期待できない。そして、頼りになりそうな井川、岡野、松本はまったくの役立たずだ、今は。

 ならば、今回は僕が動くしかあるまい。




「ほらほら、早くしろって。他のお客様の迷惑になっちまうだろ?」

「ポッ●ーゲームもしない、ご主人様とも呼ばないなんて、客舐めてんの?」

「いい加減にしねえと、この場でお持ち帰りしちまうぜ?」


 どんどん行為をエスカレートさせていく連中。困り果てておろおろしだした岩月さんと彼らの間に僕は身を滑り込ませた。


「お客様、他のお客様への迷惑にもなりますので、お引き取りください。代金はお返ししますので」


 僕ははっきり言ってハラワタが煮えくり返っていた。喧嘩に自信があれば殴り飛ばしていたのかもしれない。

 それでも、僕は頭を下げた。穏便に、穏便に。


「おい、何だてめえは? 俺たちゃカワイ子ちゃんとお喋りしているの」

「てめえみたいな衣装を着こなしているんじゃなくて、衣装に負けている奴はお呼びじゃねえの」

「すっこんでろよ、カスが」


 僕を嘲笑するような笑い声が響く。その時、ようやく周りの人間たちが視線を向けてくるのを感じた。遅いよ、お前ら。


「誠に申し訳ありませんが、本日はお引き取りください」


 全く気にくわないが、僕は頭を下げ続けた。これで引き取ってくれるのなら、何の問題もない。


「ふうん」


 頭を下げ続けたのが災いしたのかもしれない。テーブル席から一人立ち上がったのに気付いたが、帰ってくれると思ってしまったのがいけなかったのかもしれない。

 気が付けば僕は頭の上からコーヒーをぶっかけられていた。しかも、三人分。


「オラ、コーヒーがなくなっちまったよ。おかわりもってこいや。お客様は神様だろう? 神様の言う事には従わなきゃならんぞ?」


 テーブル席では爆笑が起こっていた。しかも、嘲笑だ。少し冷めていたから良かったものの、熱かったらどうするつもりだったんだ、こいつら。


「だ、大丈夫、神代君……?」


 岩月さんが慌ててタオルをとって来てくれたけど、今は無視。後でお礼を言っておこう。


「お客様は神様……ですか……」


 少し冷めたコーヒーとは違い、僕の心は冷えきっていた。「お客様は神様です」なんて言葉を何か勘違いしている連中が近頃多い気がする。こういうバカが店員に土下座させたりして大喜びしているに違いない。死ねばいい。


「では、神様同士で話をしてもらいましょうか」


 僕の声のトーンが少し下がったのが奇妙に思ったのか、後ろの岩月さんが首を傾げているような感じがした。まあ、見えていないから想像だけど。


「センセー、お願いします」


 僕は時代劇でよく出てくる悪徳商人が用心棒に声をかけるような感じで教室の外へと声をかけた。

 その時教室に入ってきたのは、空手着の上に何故か学ランを背負い(うちの制服は学ランじゃないのだが)、下駄を履いていた男であった。


「元空手部部長の鬼瓦じゃ!!」


 その男は、太かった。腕も足も、ついでに言えば声も太かった。やたらと響く。


「貴様らが長居するせいで我らの順番が回ってこないんでなあ。ちょっとお話ししようか?」


「な、なんだテメエは? 空手部が俺らをどうにかしようって言うのか?」


 僕にコーヒー三人分をぶっかけてきた男が半ばビビりながらも鬼瓦元部長に声をかける。


「神様なら神様同士、力でケリをつけようかねえ」


 そう言いながら、鬼瓦元部長はチャラ男Aの顔面をつかみ、己の目の高さまでチャラ男Aの目線をあげさせた。……初めて見たよ、アイアンクロー一つで椅子に座っている男を宙に浮かせる人間。メキメキなんて音が聞こえてきた。

 チャラ男Aは悲鳴をあげていた。声にならない声が聞こえてきたが、鬼瓦元部長は残りの二人に声をかけ、何処かへと歩み去った。チャラ男B・Cは逃れられないと思ったのか、フラフラと鬼瓦元部長と未だ宙に浮いているチャラ男Aの後を追って行った。




「だ、大丈夫? 熱くない?」


 女性陣の更衣室で僕は今、岩月さんに頭を拭かれていた。もっとも、更衣室と言っても隣の教室だし、女性陣の衣服はそこらへんに脱ぎ散らかされているわけではない。なので、何の感慨もわかない。


「大丈夫、冷めてたし」


 まあ、コーヒーぶっかけられた瞬間は少し熱かったけど、火傷する程ではなかった。


「で、でも……」


「岩月さんが変な目に遭わずにすんで良かったよ」

 それは、僕の本心からの思いだった。それに、こういう事もあろうかと、事前に鬼瓦元部長や石清水とも話をつけておいて正解だった。岩月さんの、と言うよりは僕のピンチに鬼瓦元部長が助けに来てくれたのは、正直ありがたかった。まあ、列に並んでいたので呼んだら来てください、とは言っておいたのだけど。


「そ、その……、ありがとう……」


 少し顔を赤くして、僕にお礼を言ってくる岩月さん。凄く、恥ずかしいけれど、嬉しかった。よし、今なら言える。


「あ、あのさ、良ければ、午後のライブ、良ければ見に来てよ」


 本当は午後、一緒に学際をまわりたいところだけど、予定は埋まっているみたいだ。江藤さんとかと一緒に学際をまわる約束をしているらしい。無念……。


「もちろん、見に行くよ」


 ああ、その僕にとって世界に彩りを与えてくれる笑顔よ。よし、言うぞ、さあ、今!!


「そのカッコで」


 世界が、凍りついた気がした。






「何でお前、頬が腫れてんの?」


「あのカッコでライブ見に来てくれって言ったら、一発はたかれた」


 教室に戻った僕を見つけた松本が声をかけてきた。僕の左頬は少し赤く腫れていた。岩月さんの手形が見えたかもしれない。


「お前、勇者だわ、敬礼してやろうか?」


「やめて、お願いだから……」


 松本の後ろで井川と岡野が僕に対して敬礼していた。お前らは近藤先生でもナンパしておけよ。

 午後からはライブだ。さあ、午前中はこっちの模擬店を手伝おう。




 頬の腫れている男に客の整列などさせられん、と言われて午前中はお役御免になった。

 一人で学際をまわるなんて、凄く寂しい思い出が出来た。













 小気味いい音が僕の左頬で鳴った。ビンタくらったと気付いた時には、岩月さんは教室に戻ろうとしていた。


「あの、ゴメン……」


 流石に謝らないといけないだろうと考えた僕は、何とか声を絞り出していた。


「私が、このカッコでライブ見に来た方が、嬉しい?」


 少し俯き加減で、僕に背を向けたまま声をかけてきた。


「嫌なら、別に……。でも、今日はずっとそのカッコの岩月さんを見ていたい、かな……」


 何とか絞り出すように声を発した僕に振り向いた岩月さんの顔には、少し恥ずかしそうな、それでも嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。


「そっか……。期待せず待っていてね!!」


 更衣室がわりの教室を出ていく岩月さんの後ろ姿は、少し嬉しそうだった。そんな気がした。




 その笑顔に心奪われた僕は、少しだけ教室に戻るのが遅れて、松本たちにからかわれる事になったのだった。


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