表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/21

第15話

 さて、あれから時間が経過し、遂に学園祭当日になった。何故公立高校なのに文化祭ではなく学園祭という名なのかは、謎だ。数年前から文化祭ではなく学園祭と名を変えたとの事ではある。まあ、謎というよりは今では誰もその事を気にしていないので、どうして名前が変わったのか知らないだけだ。

 とりあえず全校生徒が体育館に集まり、校長や生徒会長(岩月さんの事だ)の挨拶を聞いて、その後各自のクラスや出し物の場所などに散っていった。何の仕事も担当していない生徒は、好きな行動をしていた。

 学園祭ともなれば、他校との生徒との交流や地域住民との交流もあったりして、特にボッチ軍団は目の色を変えたりする。

 今までの僕なら他校の女子生徒をナンパしようとか考えたりしただろう。イイ餌がいるしな、近くに。


「心配するなよ、全部俺達が頂くから。お前にはおこぼれもないよ」


 悲しい事を言うんじゃないよ、松本イケメン。まあ、去年こいつら(バンドメンバー)と友人関係になってからというもの、何度かこいつらと一緒にナンパをした事がある。結果は全敗だ。何故なら、ナンパに成功しても、結局こいつらに全員持っていかれたからだ。おかしいな、友人にイケメンがいる意味が何一つ無いじゃないか。

 だが、悲しいかな。今年は学園祭で模擬店をやる為、学園祭の間はそこまで自由行動はない。

 隣のクラスは校庭で模擬店をやっている為、今日は我がクラスの女子生徒がそこを更衣室がわりに使っている。もっとも、教室中に暗幕が降りているので(どこから持ってきたんだろう?)、着替えシーンを覗く事は出来ない。

 さて、もうすぐ開店の時間だ。

 調理担当リーダーの宮下さんが先程からフル回転している。昨日、僕と岩月さんは「明日出すケーキだよ」と言われて、試食をさせてもらったが、なかなかに美味しかった。流石に専門店の味には及ばないが、学園祭の模擬店レベルならなかなかの味だと思う。

 そして、開店時間の十五分ほど前に、教室に岩月さんをはじめとした女子陣が入って来た。もちろん、袴姿で。着付けの担当は、斉藤さんがしていた。目が、あの細い目が、何故か凄く燃えていたように見えた。そして、「美少女の着付けをするなんて、たまらんでぇ」などと言っていた。色々とおかしかった。

 ちなみに、数日前にクラスの人気投票で決まったらしい(投票数がどう数えてもクラスの人数の数倍あったらしい……、謎である)③の衣装であった。

 

「洋服姿より、似合っているかもな」

「写真で見るより、綺麗だなあ……」


 との男子陣の声。


「うーん、せっかく着こなしても、雪菜には敵わないね」

「男子の言うとおり、和服系の方が似合うよね、雪菜は」


 などと女性陣は呟いていた。

 

 そして、僕は、声を出せなかった。

 袴姿の岩月さんに、目を奪われていたからだ。否、心奪われていたと言った方が正しいだろう。

 誰が言ったか、はっきりとは分からないが、いつもの制服姿より、今日の袴姿の方が似合っていると言ってもいいだろう。


「ね、ねえ、どうかな……? 似合っているかな……?」


 岩月さんがかけた声で、ようやく正気に戻った。僕? 僕の意見を聞いているのだろうか? 松本が肘で僕の腹を小突き、「何か言ってやれよ」とのアイコンタクトを寄こしてきた。アイコントの解釈はこれで正解だろう、たぶん。


「うん……、凄く、似合ってるよ。その、き、綺麗だよ」


 僕はきっと、顔を真っ赤にしていたに違いない。何とかそれだけ口に出す事は出来た。


「そ、そうなんだ……。か、神代君みたいに、本気で言ってくれるのは、嬉しいな」


 彼女はどんな表情をしていたのだろう? この時の僕は、言いたい事を何とか言い終えた事に安堵し、少し呆けていた為、彼女がどんな表情をしていたのか、よく分からなかった。


「おいコラ、見つめあって青春するのもいいけど、そろそろ開店しないといけないんだろう? 何で実行委員も生徒会長も、誰も声掛けしないんだ? ほれほれ、持ち場につけ、持ち場に!!」


 近藤先生の手を叩く音とはきはきした声に、皆が我にかえった。ちなみに、担任の三嶋先生は奥さんを連れて来て、校内を案内しているそうだ。担任でありながらクラスを放置するとは、いい度胸だ。まあ、今ではうちのクラスメイトは、担任は三嶋ではなく、近藤先生だと思っている節があるので、どうという事はないのだが。

 何人かの男子生徒(もちろん、僕も含めてだ)が岩月さんに見惚れていたり、何人かの女子生徒がケーキの試食をしていたりで、始動が遅れていたようだ。

 クラスの外には、もう既に数人が列を作っていた。

 しかし、僕が気にしていたのはそんな事ではなかった。多少、開店時間が遅れても気にしないのだよ、僕らは。


「近藤先生は、何で袴姿じゃないんですか?」


「何で私が袴姿にならないといけないんだ? アレはもう、大学の卒業式の時に着たから、いいんだよ」


 何故か女子生徒たちを眩しいモノを見る目つきで眺めていた近藤先生であった。

 きっと、もう一度くらい着てみたいと思っているのだろう。


「斉藤さん」


「ラジャ、任せておきたまえ」


 学園祭当日まで、僕だって何もしていなかったわけじゃない。いつもからかわれているから、たまには僕がからかう側にまわらないとな。

 そう、僕は斉藤さんと話を詰めていたのだ。「近藤先生も巻き込んでしまおうぜ」と。

 そして、どちらかと言えばイタズラ好きらしい斉藤さんも僕の提案に乗って来た。


「さ、行きまっせ、近藤先生」


 右腕をがっしりと斉藤さんにつかまれる近藤先生。


「何の真似だ、斉藤? この手を離せ」


「まあまあ、近藤先生。今日は祭り。そう、無礼講の日ですよ」


 今度は左腕を岩月さんにつかまれ、隣の教室へと引きヅラ……じゃなかった、連行されていった。岩月さんは岩月さんで、注目度を減らそうとの考えがあったのかもしれない。

 そして、それから数分間が経過した。途中で「あーれー」なんて声が聞こえてきた。近藤先生、案外ノリがいいからな。

 そして、数分後に、袴姿の近藤先生が教室に降臨なされた。


「な、何で私が女子生徒に混じってこんな恰好をしないといけないんだ?」


 それは、いつも僕をからかっているからだよ!! フハハハハ、復讐するは我にあり……!! 違うか。

 しかし、いつものスーツ姿の近藤先生とは、受ける印象が違うな。歳が近い分、社会人と言うよりは、大学生のお姉さんと言った感じだ。


「やべえ、何アレ? あの近藤先生なら、俺イケそうな気がする」


 僕の横では、井川が目を点にしていた。イケそうな気がする、って、お前何言っちゃってんの?


「いや、いつものビシッとした近藤先生もいいが、こっちの方がほんわかした感じがしていいな。俺もイケそうな気がする」


 岡野よ、お前もか。って言うか、何で井川と岡野は違うクラスなのに、執事服を着ているんだろう?


「ちくしょう、こんな事考えたの、神代だろう……!! 絶対にお前の内申点を下げてやるからな!!」


「違います、井川です」


 仲間を売る事など、何とも思わないね、僕は。


「神代のバンド仲間は、全員内申点を下げてやる!!」


 近藤先生の怒りは有頂天のようだ。これ以上からかうのは危険かもしれない。が、開店時間が実は既に過ぎていた事もあり、近藤先生の怒りは僕にはこれ以上向いてこなかった。






 模擬店が開店してからというもの、僕は列整理を担当していた。いやはや、人数だけは増える増える。

 ケーキは用意していたのがとりあえず、五十ずつ。そんなに売れるはずはない、客がそんなには来ないだろう、そう目論んでいてそれだけしか用意していなかったのだ。……クラスメイトが何人か試食した為、十くらいずつ減っていたのはご愛嬌、と言ったところだろうか。


「ヤバイ、マジでヤバいって。午前中でなくなるかもしれない!!」


 そんな宮下さんの叫び声が聞こえてくる。

 一人ワンセット限定、二十分以内の滞在にしているのだが、女子生徒プラス近藤先生の袴姿目当ての客か、接客担当の松本や井川、岡野(井川と岡野は違うクラスなのに、何故か接客担当のメンバーになっている)の執事服目当ての客か、そんな連中が何とか居座ろうとするのを追い出すのも一苦労だ。

 約十のテーブル席(テーブル席と言っても、教室の机と椅子をくっつけたモノだけれど)は、常時満席と言う状態が昼前まで続いていたそんな時だった。

 恐れていた事態が起こったのは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ