第11話
刻一刻と、学園祭が近付いてきていた。
校内は、お祭りモードへと突入しつつあった。
そんな中、我がクラスはというと……。
「何で、食材の購入が進んでいないの?」
「って言うか、誰が担当?」
学園祭実行委員が全く役に立たず、いつの間にか岩月さんが先頭に立って物事が進んでいっていた。
生徒会長の仕事とも並行して進めているのだから、本気を出した時の岩月さんはそれは凄いモノがある。食材の購入先の選定や、当日の係の分担(調理や接客の班分け)などもどんどん進んでいく。まあ、それ以前に本当は学園祭実行委員がちゃんとやっておかないといけない仕事なんだけどね。一応断っておくけど、我がクラスの学園祭実行委員は、僕じゃない。もし、僕が実行委員なら、これを機に岩月さんとお近づきになる為に、必死こいて頑張るところだ。
火曜日の帰りのHRの時間を使い、学園祭の大正喫茶で何の料理を出そうか、という話になった。
「メニューは、何にしましょうか? 意見のある人」
「ザリガニケーキ」
誰も意見を言わないのもどうかと思ったので、とりあえず意見を言ってみた。まあ、これで他の人も意見を言いやすくなるだろう。しかし、何だろう? 自分が口走っておいて、それがいったいどんな料理なのかも、皆目見当がつかない。ただ、嫌な予感がする。遠い将来、僕の身に降り注ぐ災厄を示しているのかもしれない。
「却下。まともな意見を下さい」
当然だよね。まともな意見以前に、ザリガニケーキとは、料理なのだろうか? ザリガニ、食べる事は出来るらしいが、食べている人は見た事がない。そんな食材を売っているお店も見た事ないけどね。
「うーん、やっぱり簡単な軽食か、スイーツがいいんじゃないかしら?」
と、女子生徒A。
「スイーツ(笑)か」
よく、そんな事をはっきり言えるな、ナベ。嘲笑しているように聞こえるのは、僕だけなのだろうか?
「じゃあ、接客担当の女の子とポッキ●ゲームは、どう? 出す料理は、ポ●キーと、水」
松本、お前は何を言っているのだ? しかも、ポ●キーって、料理じゃねえだろ?
「それで、一食あたり、いくらだ?」
「千円」
女の子とポ●キーゲームしなければ、単なるボッタクリじゃねえか。……岩月さんとポッ●ーゲームが出来るなら、僕はいくらまでなら出せるだろう? 売り払ってもいいアイテムって、何があるかな? 金を工面しな……
「そ、そういう恥ずかしいのは、却下です!!」
真っ赤になって却下する岩月さん。こういう話には慣れていないのかもしれないな。……こう、顔を真っ赤にする岩月さんも可愛いなあ。無性にポッキ●ゲームがしたくなってきた。岩月さん相手なら、最後まで突き進む自信が、僕にはあるね。他の女の子? 興味ないね。まあ、岩月さんが僕とポッ●ーゲームしてくれるとは、思わないけれど。
「なんで、神代君は鼻の下伸びまくっているのかな?」
「仕方ないだろう、ムッツリなんだから」
おま、何岩月さんに吹き込んでいるんだよ、ナベ!?
「え、え……? まあ、それはこの際どうでもいいとして」
どうでもよくないよ? 僕はムッツリじゃないよ? どちらかと言えばオープンな方だよ? でも、口には出せなかった。出したくなかった。今は、妄想の中で岩月さんとポッキ●ゲームをするのに、忙しいからだ。唇が触れ合いそうな距離になって顔を真っ赤にしてそらす岩月さん……、ああ、萌える。
……僕は、人間としてどうかしているかもしれないな。
「まあ、ポッキ●ゲームは却下として、何にしましょう?」
「お好み焼き」
「もんじゃ焼き」
「はし巻き」
「富士宮焼きそば」
「海の家で出てくるラーメン」
男子の提案する料理は、何というか、濃かった。大正喫茶などという名前で、こんな料理を出されたら、僕は責任者を呼ぶ自信がある。
「杏仁豆腐」
「ティラミス」
「ナタデココ」
「ガ●ガ●君」
女子の出すアイディアもヒドイな。最後のガ●ガ●君なんて、松本が出したポッキ●ゲームと、大差ないんじゃないか?
「皆、真面目にやってよ……」
嘆く岩月さんも可愛い。そして、そんな事ばっかり考えている僕は、やっぱりどうかしているのだろう。
結局はチーズケーキとチョコレートケーキ、それに紅茶かコーヒーのセットという簡単なメニューになった。もちろん、ポ●キーは、セットには入らなかった。
調理担当は、何と家が料理教室をやっているという、宮下さんがとりまとめ役になった。
接客担当は、岩月さん他、女子数名。男子は松本他数名。僕? もちろん、列整理とかの裏方。列整理なんているかな? とも考えたが、岩月さん目当ての男連中(一部、女子もか)と、松本目当ての女の子(男の追っかけはいないという話だが、どうだろうか?)が少なからず押し寄せてくる可能性がある。だからこそ、列整理とかも大切な役目なのだ。……岩月さん目当てで来る男どもをどうにかして、排除できないだろうか? 鬼瓦先輩にでも話をつけておこうか。
「じゃあ、後は各班ごとで話をつけておいてください」
そうして、HRは終了となった。
我がS県立東桜高校の学園祭は、十一月三日に行われる。なんと、翌日は通常授業である。振替休日など、存在しないのだ。
まあ、この日に行われるのは、保護者達も来やすいようにとの配慮もある。あるのだが……。
「マジ、祝日に学園祭とかやめて欲しいわ。せっかくの休日がなくなっちまうだろうが……」
そんな愚痴をこぼしているのは、愛すべき副担任、近藤先生である。
「妻とデートする時間が減るんだけどねえ……。まあ、デートする時間が少ないって拗ねる妻も可愛いもんだけれどねえ」
などと、生徒相手にのろけているのは、担任の三嶋だ。リア充め、滅んでください。
そんな十一月三日まで、二週間をきった水曜日の事。
「ケーキ店巡りをしたい?」
「そ、ね、雪菜、付き合ってよ」
そう言って岩月さんに拝み倒す仕草をしてみせるのは、宮下奏さん。肩まで伸びた茶色がかった黒髪の、どちらかと言えば大人しめの女の子だ。で、学園祭で我がクラスの大正喫茶の料理班だ。
「なんで、私?」
「やっぱり、作る以上、理想の味に近付けたいんだよね。で、出来ればいくつか、お店を巡って食べてみたいんだ。その中で気に入った味に近付けたいんだ。ね、いいでしょう? 本当は私が学園祭実行委員だったのに、サボって雪菜に仕事押しつけちゃったから、お詫びの意味も兼ねて、さ」
教室で岩月さんを拝み倒している宮下さん。
「ああ、そう言えば奏だったね、実行委員。そうだねえ、奢ってくれるなら付き合うよ」
今日は弓道部の練習も、生徒会の仕事も特にないし……、と言っている。
え、ケーキ店巡り、行っちゃうんだ? 僕としては、久しぶりに放課後のギター練習付き合ってくれると思っていたんだけどなあ……。まあ、別に僕らは付き合っているワケじゃないから、岩月さんに僕のギター練習に付き合って欲しいとは言えないんだけどね。
気になって岩月さんの方を見ていたら、岩月さんと視線がぶつかった。気まずかったのか、そらされた……と思ったら、何度かチラチラ僕の方を見てきた。うーん、何だろう?
そんな時、宮下さんがポン、と手を叩く。
「神代君もおいでよ。男子の意見も聞きたいからね」
「「え?」」
誘われるとは思っていなかった僕と、何故か分からないけれど岩月さんの声がハモッた。
そして、宮下さんが僕の席まで寄ってきて、耳打ちした。
「雪菜にケーキを奢ってよ。私が一軒分は奢るからさ。雪菜の事だから全部は奢らせないだろうけど、全部払うのは、結構キツイんだ。だから、残り全部とは言わないけれど、いくつかのお店の分、雪菜に奢ってよ。ここで、好感度を稼いじゃいなよ」
言い終わると同時に、僕の傍から離れる宮下さん。ムスッとした目で僕を離れた所から見ている岩月さん。なんでムスッとしているんだろう?
しかし、宮下さんもいいところがあるじゃないか。……僕が岩月さんを好きな事、知っているのだろうか? そして、その上で応援してくれているのだろうか?
だけど、チャンスだ。岩月さんを思いきって誘ってみよう。
「岩月さん、僕も一緒にいいかな? 岩月さんオススメのケーキ、食べてみたいんだ」
ケーキの良し悪しなんて分からないけどね。
「……そう、一緒に行くのは構わないよ」
やったね!! 好感度を稼ぐチャンス、到来!!
「マジ? 俺も一緒に行っていい?」
え?
「松本君? いいよ、うん、一緒に行こう!!」
笑顔で賛成する宮下さん。あれえ?
こうして、この日は四人でケーキ店巡りをする事になった。
お邪魔虫が二人……。
いつか、岩月さんを誘って、二人でケーキ店巡りをしよう……。僕は、密かに決意したのだった。




