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竜騎兵物語 ~ドラグーンクロニクル~  作者: AK
統一歴518年 ヴァルツヘイム
52/70

カリバーンの騎士 1

 貴方は何と戦うのですか?


 彼女は立ち並ぶ数人の男たちに向かって、静かにそう聞きました。


 白銀の鎧を(まと)ったある者が、一歩前へ進み出て答えます。

 それは竜にございます。

 必ずや憎き竜を討ち滅ぼし、貴女様に安寧(あんねい)をお約束いたしましょう。


 次に宝石で飾られた指輪をはめたある者が(ひざまず)いて答えます。

 それは敵にございます。

 外地に蔓延(はびこ)る賊どもから、必ずや貴女様を守ってみせましょう。


 さらに、精緻(せいち)な装飾を施された宝剣を携えた者が両腕を広げて答えます。

 それは悪にございます。

 内外問わずあらゆる悪を断罪し、貴女様の正義を世に示してみせましょう。


 そして最後に、前の三人とは比べ物にならないほどみすぼらしい、鳶色(とびいろ)の髪の青年が残りました。

 身に付けた鎧は一般兵と同じ武骨なもので、剣は二束三文で叩き売られている粗悪な鉄の塊です。

 彼はじっと腕を組んだまま、何も答えようとはしません。


 彼女はもう一度、残った青年に聞きます。

 貴方は何と戦うのですか?


 青年はひとしきり唸り、考えた後、こう答えました。


「僕そういうの苦手なんで、戦わずに済む方法を考えましょうよ。兵も弾もタダじゃないし、できれば誰も死にたくないでしょ?」


 *****


 オスタリカ軍と肢竜(ヒドラ)との戦闘、そのほぼ同刻。


『カークス隊、突出しすぎです戻ってください! アウロラ隊はそのまま援護射撃を継続!』

 無数に響き渡る火薬の炸裂音と金属音に混じって、張りのある女の声が(とどろ)く。

 山岳地帯の南西に陣取ったもうひとつの軍勢、アヴァロン王国軍の野営地は、まさに鉄火場と言うに相応しい状況となっていた。

 肢竜(ヒドラ)は山を攻略する先遣隊だけでなく、この本体にも襲撃をかけてきたのだ。


 山頂制圧と同時に谷間を進む予定のこの本隊は、アヴァロン王国全軍とオスタリカ皇国後続部隊の混成となった連合軍である。

 強襲戦闘となる先遣隊に攻撃力のほとんどを裂いたオスタリカ後続部隊は、主に補給部隊や補充要員で構成されており、戦闘能力は低い。

 これを自軍の部隊と同じく護衛するのがアヴァロン王国軍の役目でもある。


『各部隊は被害状況を報告してください! あとレオンはどこに行ったんですか!』

 女の声は段々と語気が荒くなってくる。

 声の出所は陣営の中央、輪転式のロングカノンを構えた竜騎兵だ。

 アヴァロン王国騎士団、その中でも守護騎士(パラディン)の称号を持つ者だけに与えられるワイバーン級竜騎兵の一騎、アロンダイト。

 やや青みがかった体毛を持つ狼のような素体に銀の装甲を乗せた美しい竜騎兵を駆るのは、若干二十六歳にしてアヴァロン軍の軍師となった天才、守護騎士(パラディン)カレンデュラである。

『うちの大将は気まぐれだからねぇ』

 カレン騎アロンダイトの(となり)で呑気な台詞を吐きつつ、慣れた手つきでヘヴィカノンに榴弾を装填するのは、同じく守護騎士(パラディン)の称号を持つアウロラの竜騎兵クレタナだ。

 こちらもアロンダイトと同じく獣竜を素体にしたワイバーン級竜騎兵なのだが、どちらかと言えばネコ科の猛獣に近い容姿をしている。

『この状況下で気まぐれも何もないでしょう! あの人は自分の立場を理解しているのですか!』

『あたしに怒らないでよカレン。それに、いつものことじゃない』

 と、言い終えると同時に、クレタナのヘヴィカノンが盛大な爆音と共に火を噴く。

 内部に火薬をぎっしり詰め込んだ砲弾は、斜め上方、星が輝く夜空に真っ直ぐに飛び行き、やがてある高度まで達すると何かにぶつかって爆発した。

『相変わらず出鱈目(でたらめ)な腕ですね……』

『夜目が利くからね、このクレタナちゃんは』

 やや呆れたように言うカレンに対し、何でもないことのようにアウロラは返す。

 装填レバーを引くと発射時の爆炎で高温になった薬莢(やっきょう)が排出され、ごとりと地面に落ちて白い湯気を上げた。


『おいカレン、前方はあらかた片付けたぞ』

 名を呼ばれて前方へ向き直ると、そこに黒い翼竜を担ぎ上げた竜騎兵の姿があった。

 大型のアクスバンカーを装備した、熊のような黒毛の素体の白兵騎。

 守護騎士(パラディン)カークスが操るワイバーン級竜騎兵ガラティーンだ。

『ちょっとカークス! そんなもの持ってこないでください!』

『いやいや、これはいっぺんバラして調べた方がいい』

 カークスはそう言って、黒い翼竜の死骸を地面に放り投げる。

『見ろよ、こいつ他の個体と融合しやがる』

 カレンは一瞬、カークスが何を言っているのか理解できなかったが、その死骸を見て意味を理解する。

 死骸には明らかに不自然な形で、無数の腕や足が生えていた。


「うわ、何だこれ気持ち悪いな」

 不意に若い男の声が聞こえて、カレンは周囲を見渡す。

 誰の声、などと考える前に、カレンの脳裏には能天気な笑みを浮かべるある男の顔が浮かんでいた。

 声のした方、自騎の脚元へとアロンダイトの視線を移す。

 そこには、武器も持たず鎧も着けない、鳶色(とびいろ)の髪の青年が立っていた。


 歳は二十四、五ほど。

 屈強な肉体を持つわけでもなく、達人の雰囲気を(まと)う感じでもない。

 顔立ちが整い過ぎて女性のようにも見える以外は、いたって普通の市民と大差ない青年。


 それが今回の遠征におけるアヴァロン軍の総指揮官にして、王国最強の竜騎兵である黄金の獅子、皇竜騎(アークドラグーン)カリバーンを与えられた守護騎士(パラディン)レオンハルトなのだった。

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