表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

花火みたいなアナタ

写真は、時間を止める装置だと思っていた。

でも本当は、

止まった時間に取り残されるのは、

いつも撮る側だった。

美しいものは短命だからこそ、

その一瞬が脳に残る

この花火もそうだ大きな音を立てて、

大きく咲き、消えてしまう

短命だから美しく見えるんだ


「はーい笑って」

とカメラマンが横並びの僕らに言う


今日は中学の卒業式だ

俺はこういうのがあまり好きではない、

その瞬間から思い出として過去になってしまうから嫌いだ。

思い出は忘れてしまったら、

もう二度と手に入らない

だから人間は写真にしてこの世に残すんだ


ビデオレター用に

「裕二くんは何になりたいのかな?」

と夢の話を先生が問う


俺は夢なんて特にはなかった


強いて言うならば、

小さい頃から触れてきたカメラ

これぐらいだろう


「カメラマンになりたいです」

なんて適当に返すことにした


「カメラマン!いい夢だね!」

と在り来りな言葉で先生が言う


あの時の適当な一言が、後で自分を縛るなんて思ってはいなかった。


高校入学後、俺は写真部に入ることにした、

そしたら高校も長く続くであろうと思ったからだ。


学校の何気ない日常を撮っては、

誰かの過去を残せるこの瞬間に喜びを感じていた。


しかしある時、俺はふと思う


写真を撮ってるその瞬間の自分は

思い出として残せているのだろうか。

誰かの思い出を残すために、

俺は今を失っているのでは無いのか。


そう思い写真から一時期、距離を置いていた、

置いていたと言ってもカメラはいつも

身から離さず持ってはいるけれど。


そんなある日のこと。

俺はいつも通り部室へ、戻る途中だった。

俺は素で美しいと思ってしまう人に出会ってしまった

その場にいる全員を巻き込むような笑顔に、

考える隙も与えずに一枚、また一枚と写真を撮った。


俺はその時、思い出になれたと心からそう思った


今は消えてなくなる、だからこそ

みんなのために…いや自分のためかもしれない

残す、消える前にここに残すんだと

俺はその時、思い出をそこに刻んだ


その時、後ろから俺の右肩をつつかれた、


「おいおい、ちゃんと被写体に許可は貰ってんのか?」

そう性格は雑なのに顔面だけ神様の本気の幼なじみ

まーちゃんだった


「な、何言ってんだよ!」

と俺は図星を突かれ震える唇で抵抗した。


「あの子かなー?」

と、まーちゃんは揶揄うように言う


さすが小さい頃からの友人だ、びしゃりと当ててくる


彼女はまだ気づいていない。

俺たちの方を見ることもなく、

友達と笑っている。


その横顔が、やけに遠かった。


「…でもさ」

とまーちゃんが少し真面目な声でいった。

「撮るならちゃんと許可もらえよ? 泣かれたらお前 立ち直れないだろ。」


俺はこういう時に真剣になってくれる、

まーちゃんが大好きだ。


俺は思い切って声をかけて見ることにした、

思い出になってしまう前に。

そんなこと直接は言えないが


「あ、あの!き…君のこと被写体にしても大丈夫ですか?」

なんて変な言葉を使うんだ俺ってやつは、


あはははっ、と大きな笑い声が跳ねる。

裏庭の空気まで明るくなる気がした。


ほら言ったこっちゃない笑われたじゃないか。


「私でいいならいいですよ?」

花音はそう言って、また笑った。


俺はその言葉に思わずシャッターを切る指が軽くなった。

何枚撮ったかなんて、もう覚えていない。


「ちょ、まだ撮ってるでしょ!」


「動かないで、ブレる」


「ブレてもいいじゃん、今なんだから」


今…か、確かにそうだなと

ブレブレの彼女も何枚か撮った


ピースじゃなくて、両手でハートを作るでもなく、

片足を上げて変なバランスを取る。

「これが一番可愛いの!」と胸を張るが、

これがどうしても意味が分からない。


「やっぱりアイツは馬鹿だけど可愛いやつだな」

と俺には聞こえないギリギリの声量でまーちゃんが言う


「あーあ楽しかったありがとうね! 君名前なんて言うの?」

そう花音が幸せそうな顔で俺に言う。


「裕二です、突然すみませんでしたー!!」

俺はかけ足で室内へ逃げ込むように戻った


「頑張ったじゃん?裕二」

そう何故か誇らしそうにまーちゃんが言う。


「う、うるせぇ!」


その時ふと俺はこう思った、

さっきの数十枚じゃ足りない。

俺は、もっと残さなきゃいけない気がする。と


放課後、俺は靴箱の前で彼女を待っていた、

すると奥から馴染みのある声が聞こえた。


「マジでわかる!あそこのカフェ行きたいよね〜」

友達となんでもない会話をしている彼女だ。


その笑い声に、足が止まる。

でも視線を向けることはできなかった。


俺はそのまま踵を返す。

靴箱の鉄の匂いだけが、やけに残った。


翌日。


「ゆうじくん!」

突然の名指しで肩がピクリと動く

振り向くと、あの彼女が走ってくる。


「昨日撮った写真!みせてみせて!」


「え?わ、わかった、で…でもどうして?」


「どんなふうに私、映ってたかなって!」


俺は動揺し慌ててカバンを探る


「お、落ち着いて!ゆうじくん!」

と彼女は心配そうに言った


震える指で画面を開き、彼女の方へ差し出した。


「あはは!!この写真もうちょっと足あげればよかった!」

そう別校舎まで届きそうな声量で笑った。


画面の中の花音は、少しだけ静かだった。

なのに目の前の彼女は、今も笑いながら俺の肩を叩いている。


「待って!!私!この写真が1番好き!」

彼女はブレブレの写真に指を指した。


「よりによってなんでこの写真?」

と思わずツッコんでしまった。


「だってさ!なんか今日を生きてる!って感じしない?」

彼女は無邪気な笑顔で真剣そうに答える。


俺はこの瞬間も写真に残したい、

そう心から思った。


「この写真あとで送ってよ!はいこれ連絡先!」

彼女はそう言った。


「わ、わかった!」

俺はその一言で胸がいっぱいだった。


画面に表示された名前。

『花音』

その二文字が、やけに眩しかった。


夜。


【花音】

今日の写真ありがとー!!

あのブレてるやつ最高!笑笑


【花音】

あ!てかさ

裕二くんて写真を撮ってない時、何をしてるの?


送られてきていたメッセージに、俺は返信に迷っていた

既読すらつけないまま。


数十分後。

【裕二】

大丈夫だよ。

日頃は幼なじみとゲームかな。


そんな会話を繰り返していると、

気づけば時計は日付を跨ぎそうになっていた。


【花音】

やべ!!もうこんな時間だ!!

私寝なきゃ!!おやすみ!!


【裕二】

うん、おやすみ。


俺はその後、一睡もできず

画面を閉じても、

『花音』の二文字だけが、暗闇に浮かんでいた。


翌日の夜。


【花音】

ねえきいて!!

今日帰ってる時、おばあちゃんが犬を6匹?いや7匹だったっけ!忘れた!!

そのくらい連れて散歩してた!


【裕二】

そうなの笑笑

おもしろいね。


数日後の夜。


【花音】

今日ね!先生のカツラがズレてて思わずお茶吹いちゃったよ笑笑


俺はそれに既読をつけなかった、

画面を開いたまま、指が止まる。

既読の文字がついた瞬間、

何かが決まってしまう気がした。


そしてある日、

珍しく連絡が来ない。


まああの子はモテるし、

こういう日もあるか。


と今日は眠ることにした。


しかし次の日も連絡は無かった、


学校中を探してみても彼女はいない。


教室。

屋上。

裏庭。


いつも笑い声が響いていた場所を、

何度も往復した。


でも、どこにもいなかった。


どこにもいなかった。


放課後。


「裕二くんちょっといいかい?」

俺は先生に呼ばれる


それは彼女の事だった、

3日前の夜、交通事故に遭ったこと。

搬送先の病院で、息を引き取ったこと。


へえ。

そうなんですか。


それだけ言って、教室に戻った。

自分の声が、やけに遠かった。


家に帰り俺は思わずスマホを開いた、

そこには花音との連絡が映っていた。


【花音】

今日ね!先生のカツラがズレてて思わずお茶吹いちゃったよ笑笑


既読をつけた、

返信なんてもう意味が無いのに


【裕二】

そーなの!どんな表情してた?!!

送信。

既読はつかない。


そのまま画面を上にスクロールする、

そこにはブレブレの彼女の写真があった


あの日花音が言った

「今日を生きてるって感じしない?」

その一言が俺の涙腺を壊した。


裕二は気づく、

画面の中で、

花音は笑っていた。


ずっと、今日を生きたまま。


翌日。


何も言わずに隣に座る、まーちゃん


「…写真、残ってるんだろ? お前言ってたじゃねーか、思い出は忘れたらもう二度と手に入らない だから写真に残すんだって」


「…うん」

俺は声を細く頷いた


「その写真、大切にしろよ? その日の花音ちゃんを写真として今、生きさせるんだ」

まーちゃんは本当にお節介なやつだ。


数年後、俺はプロのカメラマンになった。


「はーい、笑って」


シャッターを切る。


光が弾ける。


一瞬だけ、

世界が止まる。


その日の夜。


花火大会に来ていた。


夜空に咲いた光が、

一瞬だけ、世界を白く染めた。


そして、消えた。


液晶画面の中で、

誰かが笑っている。


ブレてもいい。

今を生きているなら。


俺は、もう迷わない。


俺は、シャッターを切った


—— 花火のようなアナタ

写真は、時間を止めることはできても、戻すことはできません。

それでも私たちは、シャッターを切ります。

忘れたくない「今」があるからです。


誰かの今日が、どうか美しくありますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ