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第1話:バーテンダーの夜

 私はバーテンダー。


 来る日も来る日も自分のお店でカクテルやドリンクを客の好みに合わせて作っている。しかし、よく誤解されるが、単にお酒を出すのが我々の仕事ではない。


私の仕事は、自分のお店を居心地よい空間にするというものだ。単にお酒を提供するだけでなく、お客さんとの会話を通じて、その日の気分や要望に合ったドリンクを提供し、くつろぎの時間を提供することがバーテンダーの役割だ。


 私の名前を出しても、知っている人間は、それほど多くはないだろう。


 けれど、業界に少しでも首を突っ込んでいる人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれない。――首都圏バーテンダーコンクール。その課題部門で、私はかつて優勝したこともある。あの時は、審査員に「テキストのように正確で繊細」と評していただけた。そのことは今でも私のささやかなプライドを形作っている。


 もっとも、そんな肩書きやプライドは普段のサービスにおいてはほとんど意味をなさない。グラスの中で輝くのは技術でも経歴でもプライドなく、ただ一夜を過ごす人々の吐息と、グラスを傾けるに足るだけのお酒だけだからだ。


 私の店は、有楽町駅にほど近い雑居ビルの二階にある。


 ネオンサインは出していない。階段を上がり、木製の扉を押せば、そこに25坪の空間が広がる。バーで理想体なスペースは、大体10坪程度と言われている。従って私の店はバーとしてはやや広すぎると同業者から言われることもあるが、不思議と私の店はいつも客で埋まる。


今日は週末土曜日。オフィスにも近いこのエリアでは土日は店を閉じる場合も多い。しかし私の店は違う。常連たちがゴルフ帰りに寄り、週末でも平日と同じようにボトルを傾ける。その「安定感」こそ、この店の特色といえるかもしれない。


 ただし、それも最近は少し事情が変わってきてしまった。


 ――雑誌『港区カレンダー』。


 どこの誰が編集部に話を持ち込んだのか、私の店が「大人の隠れ家バー」として紹介されてしまった。おかげで、ナンパ目的のエセ紳士や、ナンパ待ちの自称港区女子が雪崩れ込むように増えてしまったのだ。彼らはグラスに残った酒の味よりも、テーブルに残る名刺の数を誇りにしている。こちらとしては正直、頭が痛い。


 こうしたナンパ目的のエセ紳士や、ナンパ待ちの自称港区女子は、カウンターに座るだけで店の格が下がるような気がしてならない。


 とはいえ、来店客を選別するような時代でもない。「大人の隠れ家バー」として一時のお酒と会話を楽しんでくれる方が多いのも事実。私も自分の仕事を果たすだけだ。


※本編はカクヨムにも掲載しています。

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