表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

5 潜入

「見つけました。」

 イオがウイルにそう言ったのは、JB から依頼を受けて1時間も経っていない時だった。


「ミアの居場所?」

 ウイルは思わず聞き返す。

 イオの能力はどんどん上がっているようだ。


「人質全員の監禁場所です。5ヶ所に分けられています。ソーニャとジェフにも報告しました。」


 ピロン。と小さな電子音が鳴って、ウイルのパソコンがジェフとの音声通話の許可を求めた。

 ウイルはすぐに許可する。

 パソコンのセキュリティなどJBチームなら簡単に突破できるだろうが、強引に押し入ってこないあたりにウイルはジェフの誠意を感じた。


「やあ。さすがはイオ。早いね。」

 聞き慣れた笑声が聞こえる。


「行くんですか?」

とウイルが聞くと、ジェフは「そのつもりだ。」と答えた。

「まあ、そうは言っても、いくらなんでも5ヶ所100人超の人質救出はJBチームだけでは無理だ。ミアのグループだけの救出になるだろう。」

 特殊部隊などの人数が要るだろうから、上層部と相談することになるとジェフは言った。


 通話が切れてから、イオはちょっと要領を得ない顔をしている。


「JB にもできないことがあるんですね‥‥。」


 ウイルは思わず苦笑いする。

 イオには JB が万能の魔術師のように見えているのだろう。

 ウイルたちが危機に陥ったとき、ジェフは常に鮮やかにそこに現れて2人を救ってくれたから。


「どんなにすごい人だって、1人ではできることは限られるよ。イオだってそうだろう?」

「うん。」

とにっこり笑ったイオは、誰のことを思い浮かべているだろう。


「とりあえず、JBの連絡を待つことにしよう。」


   *   *   *


 しかしその後ジェフから入った連絡は、イオをさらにがっかりさせるものだった。


「どうも‥‥政治的に難しいようだ。E国の特殊部隊がL国に入り込むのは、いろいろと問題を複雑にするということで‥‥。」

 珍しくジェフの歯切れが悪い。


「とりあえず、私とアイリーンとジャネットでL国へ潜入する。ミアのグループを最優先で救出するつもりだ。」

 ジェフの声が普段の笑声に戻ってきている。

「準備が整うまでの間、S国がL国にミサイルを撃ち込まないようソーニャと協力して妨害してほしいんだが。」


   *   *   *


 さまざまな色と形が流れたり転がったり分裂したりくっついたりしている世界で、イオの前に再び栗色の髪の少女が姿を現した。


「ソーニャ!」


「イオ!」


 ソーニャの青い瞳が嬉しそうに笑う。


「手伝ってほしいの。」

「もちろん! そのためにきたんですから。」

 イオが満面の笑顔になる。


 この子のこんな真っ直ぐさが好きだな——。

 ソーニャはイオを見ながら、電子世界のイオの魂の透明感のようなものに引き込まれるような思いを抱いた。


「ついてきて。」

 ソーニャがイオの手を取って、もう片方の手で空間に丸を描く。

 そこに穴が開き、その中へイオを引っ張って入っていく。

 また別の場所に丸を描き、空間に穴を開ける。


 そうやって何回かワープを繰り返したのち、ソーニャがイオを連れてきたのは白く高い壁の前だった。

 周りにたゆたう色とりどりの情報の断片は、あたかもそれが無いかのように壁の手前で向きを変えたりして漂っていく。

 まるで、手で捕まえようとするとふわりと逃げる綿虫のようだ。


「たぶん、この壁の向こうにミサイルを制御するシステムがあると思うんだけど‥‥」

 ソーニャは壁を見上げる。

「入り口が全くないのよ。」


「独立したシステムなんですね。でも、全く何もないということはないと思う。だって人が作ったものだから。」


 イオはソーニャを抱えて高い位置へと上ってゆく。

 飛んでいるのかと思ったらそうではなく、足が細く伸びて体を支えているのだった。


「飛ぶとエネルギーを使うから、感知される危険があるの。」


「そんなこと、わかるものなの?」

 目を丸くしたソーニャにイオが答える。

「ソーニャにはプログラム言語が見えてると思うんだけど、わたしにはマシン語の数列が見えてるの。動かしても修復できる場所と動かしてはいけない場所が。」

 イオは人間のソーニャに合わせてレスポンスしているが、イオの AI はナノセカンドの世界で活動している。


「上も完全に平らで何もないですね。」


 イオとソーニャは地上に戻った。


「イオにも無理?」

「ううん。無限に続く壁はないよ。人が作った以上は。」


 イオは今度は指先から不思議な透明な膜を出して、それで2人を包んだ。

 2人ともカプセルの中に入ったような感じだ。


 その膜から1本だけ突き出た指が鞭のように伸び、くるくると回転して灰色の地面に穴を開け始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ