15 地下空間
「くそ! なんてこった!」
タダノバは悪態を吐きながら駐車場の奥に向かった。
鉄の扉を開けようとするが、鍵がかかっているのかびくともしない。
パパン!
と銃で鍵のあたりを撃つ。
‥‥が、やはり扉は動かなかった。
「くそ! なんでだ?」
いまいましげに扉を蹴飛ばしてから崩れ落ちた入口の方を見る。とても人力では取り除けそうにない。
「くそ!」
もう一度鉄扉を足で蹴飛ばす。
「攻撃で枠が歪んじゃったんだと思います‥‥。」
タクーマがおどおどしながらも初めて口を開いた。
タダノバがタクーマをじろりと睨む。
タクーマはびくっとして視線を床に落とした。
「新兵。おまえ頭いいな。」
タダノバは人質の方に銃を向けた。
「おい! おまえら。1人1つずつ石を持ってきてこの扉を叩いて壊せ。この先に上に出られる階段がある。」
石というのは、崩れ落ちた建物の瓦礫のことだろう。
そんなもので叩いたところで、この鉄の扉が壊れるとは思えなかった。その先の階段だって、爆撃を受けたのなら崩れているかもしれない。
パン!
という脅しの銃声で、人質たちは小さな悲鳴をあげながらも動き出した。
ほとんどが女性だから、そんな力で壊せるわけがない。アクバルはそう思ったが、黙っている。
こいつは、普段から威張り散らすだけで頭が悪い。
「アクバル! 新兵! おまえらもだ!」
タダノバはタクーマの名前すら、ちゃんと覚えていないらしい。
アクバルとタクーマは互いに顔を見合わせ、その指示に大人しく従った。
こいつは怒らせると何をやらかすかわかったもんじゃない。
アクバルはAJU☆の隣へ行き、小声の英語で話しかける。
「AJU☆さん。叩いているフリだけでいいです。あなたの華奢な手が壊れてしまう。音は俺が出しますから。」
AJU☆は怪訝な顔でアクバルを見てくる。
アクバルは恥ずかしさで目を合わせられず、手元の石だけを見てガンガンと扉を叩き続けた。
皆でさんざん叩いたが、扉は凹みができるだけで開きはしなかった。
よけい歪むから当たり前だ。
とアクバルは思うが、口には出さない。
「くそ!」
ボコボコになった鉄扉をまた蹴飛ばして、タダノバがいまいましげに悪態を吐いた。
「大人しく救助を待った方がいいと思います。上ではたぶん瓦礫の撤去をやってるはずですから。」
アクバルがそう言うと、またタダノバはじろりとアクバルを睨んだ。
が、それだけで「ふん!」と鼻を鳴らして壁にもたれて座り込む。
「おい、新兵。エンジンをかけろ。バッテリーが上がったら真っ暗になる。」
「それはダメです!」
アクバルは慌ててタクーマを止める。
「閉じられた空間でエンジンなんかかけたら、みんな排ガスで死んでしまいます! この状態では空気は貴重です。」
タダノバは見るからに機嫌を損ねた、という感じでアクバルを睨んだ。
「ふん。そうか。」
タダノバはしばらく黙って座っていたが、やがてつと立ち上がった。
「空気が貴重なら、少し人数を減らした方がいいな。必要なのはミア・イーダだけだ。」
片手に銃を持ったまま、つかつかと人質たちの方の歩み寄り、むんずとAJU☆の髪の毛をつかんだ。
「ひっ!」
とAJU☆が悲鳴をあげる。
パァン!
と地下駐車場に銃声が響いて、血しぶきが飛び散った。