絶園のテンペスト
十一品目は《絶園のテンペスト》になります。
※ダブル主人公、ダブルヒローインの作品になります。
※ジャンルはファンタジー、ミステリーアニメになります。
※ファンタジー要素は少なめで、話の大筋は復讐譚なので、ダークファンタジー要素があります。
《ある日、一人の少女が唐突に殺された》
『真広には妹がいましたから、あいつは愛花ちゃんを何より大事にしてましたから』
『大事にしてた?どうして過去形?』
『彼女は今、その(お墓)下です』吉野が答えます。
吉野はお墓での、真広との会話を思い出します。それは不破真広の義妹、不破愛花が死んで、十ヶ月の月日が流れたある日のこと。
『吉野、どうして愛花は殺された?』真広が問います。
『警察の言う通りだろ?金銭目的の何者かに、家に……』吉野はお墓の下にいる愛花に手を合わせて呟く。
『そう言うことを聞いてるんじゃない。愛花は普通に生活してた、あの日まで。なのにどうしてこんな風に死ぬと決められたんだ。その上、いまだに犯人は捕まってない』
『まだ分からない』諦めていないともとれる返事。
『事件から十ヶ月、手掛かり一つ掴めていない。遺留物はない。目撃者もない。犯人が単独か、複数かも割り出せてない』真広は事実を淡々と呟く。
『だから、まだ!』少し語彙が強くなる吉野。
しかし、吉野の言葉を遮る様に話を続ける真広。
『捜査本部もほとんど動かなくなった。これから先、事件が進展する可能性は無い。不合理だろ!辻褄が合わない!』激昂する真広。
『そこか?人の世の奥ゆかしさというやつじゃないか?』冷静な吉野。
『他人事か!?まぁ……お前は愛花に相当嫌われてたからなぁ』真広から見た吉野は、嫌われている様に写っていた。
『で。その不合理をお前はどうするんだ?』警察が調べても進展が無いのに、どうしたいんだ?と心意を問う吉野。『犯人を自力で見つけて、自力で裁くのか?』
『あぁ……そうだな。どんな手を使っても、辻褄を合わせてやる!!』
《ある日、魔法使いの姫君が、樽に詰められ、島流にされた》
始まりの木を倒す為に、絶縁の木の復活を目論む、魔法使いの一族。その一族の総意に反対し続ける姫宮である葉風。
『おのれ左門、計ったな』
鎖部の一族は文明を供物として、魔法を行使します。故に、姫宮である葉風を供物のない孤島に、安物のサンダルとワンピースだけで置き去りに。
『まさに、絶界の孤島か……だが、左門!安心するなよ!私は鎖部 葉風。一族史上最強の魔法使い!』腹ペコの魔法使いは鎖部一族の長である、左門に裏切られ、孤島へ排除されてしまいます。
《一人の少女の殺人事件、姫君の島流。全ての物語はここかり始まり、ここに収束する。全ての事には意味がある。あぁ、なんと呪われた因果か》
その因果は義妹である愛花を殺した犯人に復讐したい真広と、絶園の木の復活を阻止したい最強の魔法使いである葉風とを結び付けます。
孤島に漂流した瓶に、音声会話(魔法道具)ができる人形と、板切れ(手紙)を添えて海に流した。
板切れ(手紙)の内容
『魔法を信じ、魂と引き換えでも叶えたい願いがあるなら、この人形に釘を打て!』
漂流した瓶はのちに真広へと渡ります。
『サモン!パンツ一丁でも手強いぞ!』薄着の葉風は魚を頬張りながらドヤ顔。
『孤島の魔法使いと話せる魔法が発動した。そして、俺たちは取り引きをした。俺が手を貸す、その代わり、愛花を殺した犯人を魔法とやらで見つけて見せろ!と』真広は吉野に魔法使いとの経緯を話す。
『愛花が殺されたのは不合理だ。魔法も不合理だ。なら、二つをぶつければ辻褄が合う。愛花を殺した奴をこの手で殺してやれる』
政府が秘密裏に調べている病、黒鉄病。その原因は絶園の木の復活で起こる果実の出現。その絶園の木、復活を推し進めているのは鎖部一族。
《絶園の果実の出現、その光景は世界の終わりを予感させる。世の中の関節は外れてしまった》
『こんな、もうとっくに世界はおかしくなってるんじゃないか?』
『この世がバラバラになろうと、構いやしない。だが吉野、俺が世界を救ってやるよ!』
吉野は真広と共に行動する事を決め、真広は葉風と組む事を選択し、世界を崩壊させかねない絶園の木、復活を阻止する代わり、葉風の魔法で愛花を殺した犯人を調べてもらいます。
『犯人は鎖部一族の誰かだ』真広は魔法で突き止めた事実を語る。
『まさか……』滅多に動揺を表情に出さない吉野が驚く。
『間違いない。当時、一族を治めていた身として申し訳がたたんが、犯人は一族の者だ』
吉野
(なんだ、この繋がりは?こんな偶然があるのか?それとも、これは何かの必然?)
『気にするな、これも何かの因果さ』魔法使いの一族に犯人探しを依頼したら、犯人は一族の中にいると告げれてなお、飄々(ひょうひょう)とした態度の真広。
(飄々 特に気にした様子も無さそう。という意味で、使用しています)
『何かって……なんだよ?』吉野が納得するには情報量が少な過ぎる様子。
《鎖部一族の幹部》
『儀式を手伝わせてすまんなぁ』長髪に赤髪、片手を剣の柄に添え、椅子に座る鎖部 左門。
儀式とは、鎖部一族が行なっている絶園の木復活の事。それを部下である鎖部 夏村に頼んでいた。
『いえ、ただ……』夏村は言い淀む。
『あの二人の動向が気になる……か?』吉野と真広。葉風の魔具を持つ、二人を意識する夏村。
『はい。望んだアイテムを探す術があれば、すぐ、捕えられるのですが……』
『我らが魔法は理を守り、正す力だ。人を殺すと言った世の理を犯したものなら、それを正す為に探せるが、でなければ無理だ……』左門は淡々と答える。
『ただ、同様にあの二人も、この場所を容易くは見つけられないでしょう。結界で守られ、この異変さえ外からは見えないのですから』
『だが、手がかりが残る。空に上がった果実はほぼ一直線で、絶園の木へ向かって飛ぶ。様々な場所から飛んだ、複数の果実の方向を測れば、その軌道は必然的に一点で交わる。この地でな。
そして、果実はすでに五つ以上、飛んでいる』
『では、姫様は……』もう、絶園の木の場所に気づいている?夏村は予感します。
『間違いなく絞り込んでいよう。姫様の手は、こちらの喉元にかかったも同じだ』左門はここに居ない筈の葉風を、すぐ近くに感じています。
《孤島にいながらも、絶園の木復活を阻止する算段を付けた鎖部 葉風》
『既に拠点は絞れた。貴様らが私に従えば、あと数手で左門を詰められる。いいか、魔法使いとしては私が最強だ。一族の力を全て合わせてもとるに足らん。私が敵対すれば、その時点で左門の負けは決まる』
『だから、ろくに魔法を使えないそこに、貴女を放り出したんでしょう?』吉野が問う。
『そうだ。だが、左門は私を殺さなかった。殺してしまえば後の憂もないと言うのに……敢えて孤島に閉じ込める面倒を選んだ。何故だと思う?』葉風が問う。
『もし、絶園の木が狂乱となれば、左門ごときが百人いても、その力を抑えられん。それを抑えられるのは私だけだ』自身で答える。
『つまり、左門がお前を生かしておいたのは万が一の保険。ってわけか?』真広が問う。
『そう。左門は堅実な男だ。常に最悪を考え、その対策を用意する。だから、まさかの時、いつでも私を日本に戻せる用意をしている。必ずな。
もとより困難な絶園の木復活を、わずか四ヶ月ばかりの準備で行なっているのだ。外部からの妨害で、呆気なく崩れるぞ。左門は剣の下に立っているよ』葉風は孤島にいながら、自身の勝ちを確信している。
『自信満々じゃねぇか、姫様は……』真広がぼやく。
『始まりの木に庇護されている。って思いが、葉風さんの根底にあるから』吉野が自信の理由を語る。
『はぁ……よくわからねぇ根拠だがなぁ……』
真広は本来、魔法や神頼みの様な非合理的ものをよしとしない。
吉野
(この世の理を作り、守る、始まりの木。そして、この世の理を断ち、砕く、絶園の木。この世を破壊しようとした絶園の木は始まりの木に敗れ、その身をバラバラにされ封じられた。一方で、始まりの木も深く傷つき、なんとか世界を支えてながらも、今は再生の為に眠っている。
鎖部一族の役目は始まりの木が再生する時まで、絶園の木が果実となった身を集め、復活するのを抑えること。その為、一族の者は、始まりの木の理を借り受ける事ができるという。そして、その始まりの木に守られている一族の姫。
何もかも彼女の思い通り進むのは、当然という事になるのかも知れないけど……でも、どうも引っかかる)
吉野の思考が深くなり始めた頃、真広と吉野は魔具が隠されている水族館に到着。
《かつて、吉野が愛花と訪れた思い出の場所》
『吉野さん、全ての事に訳があるんです。日々起こる悲劇も不幸も、いつか起こる最良の結末の為の価値ある出来事なんです。その意味では只の不幸なんて、無いのかもしれません』愛花が告げる。
『それぐらい人生が上手くいってくれるといいんだけどねーー』吉野は答える。
『ふっ。そうでも思わないと、真広みたいのが兄だなんて、やってられませんから』
『でも、アイツは愛花ちゃんを大事にしてるよ?』
『そのせいで、吉野さんとこうしているのを真広に隠さないといけませんね?』
『そりゃ、バレたら、生き埋めにでもされかねないからね……』
『ふふ。それでも、全ての事には訳があります。これもいつかは美しい結末の、伏線になるでしょう。ホレイショー、この天地の間には人間の学問などの夢にも思い及ばぬことが、いくらでもあるのだ』
ハムレットを愛読している愛花は作中の言葉を引用する。
『僕はホレイショーじゃないよ。それに、こういう時、ハムレットのセリフを引用しなくても』悲劇の作品から引用しなくても……
吉野
(愛花ちゃん。君は本当にそう思っていたのか?本当に、全ての事には訳があるって……)
ペンギンのペンダントが砕ける瞬間を見て、また思い返す。
『だから、いいよ。こういうのあまり付けないし、それに、ちょっと子供っぽ過ぎる様な』
水族館のお見上げコーナーで、吉野のペンダントを選ぶ愛花。
『人がプレゼントしようというのに文句を言うものではありません。それに、こういう平凡なものの方が、吉野さんには似合います。どんなものだろうと、贈り物一つで、そこに物語が芽生えたりするものです』
愛花は吉野にペンギンのペンダントを付ける。
『美しい結末の……』
『さぁ……それはどうでしょう?やっぱり変かも。くふふふうふ』
吉野
(動揺する事なんて何も無い。どこの水族館で売っていてもおかしくない、平凡なネックレス。たまたま繋がっただけの偶然)
『それでも、全ての事には……』愛花の過去のセリフが蘇る。偶然ではないと。意味があると。
回想を終えた吉野は真広と葉風の話に耳を傾ける。
『お前に言わせりゃ、俺と知り合ったことも只の偶然じゃねぇ。って事になる』真広が葉風へ告げる。
『そうだ。それさえも導かれた運命。理が理によって定義できぬというのは皮肉な話かもしれん。だが、それでも全ての事には理が働いているのだ』葉風は言い切る。
『違う!』聞いていただけのはずが、つい口に出てしまう。
『何故だ?何故、違うと断言できる?』葉風は自らを否定されて、語調が強くなる。
『あ……いや、なんでも……』吉野は口にした事を後悔する。そして、吉野は想う。
吉野
(全ての事に訳があるなら、君(愛花ちゃん)が無惨に殺されたのは、真広に世界を救わせる為だったとでも言うのかい?)
愛花が死んだから、真広が世界を間接的に救う事になった。吉野からすれば、愛花は世界の犠牲になった。と同義になる。そんな事は認めない。認めたくない。それ故に『違う!』と口をついた。
《絶園の木を破壊できるほどの強力な魔具を受け取った、真広と吉野。しかし、葉風は死んでいると告げられる二人》
葉風の死の真相は明らかにならなかったが、ついに鎖部一族が復活の儀を行っている富士に辿り着く。
目の前には絶園の木、大きな樽。そして、赤い長髪と刀を持った男が行手を遮る様に立つ。
『左門で間違いなかろ』葉風が左門だと断言する。
『よく来た、少年。我が名は鎖部 左門、古き一族、鎖部に連なる者を代表して、今ここに立っている。少年、お前達に名乗る名はあるか?』左門は淀みなく告げる。
『少年Aと他一名でいいさ。話があるのは俺らじゃないからなぁ……』真広が適当に自己紹介を済ませ。
『久しいな、左門。四ヶ月ぶりになるか?変わりなくやっているようだな』
『姫様こそ、遠く隔たっていてもお変わりなく』
『左門、すでにわかっていよう。この者に持たせてある魔具は、すでに我が魔法の効果範囲だ。使用すれば、すぐさま絶園の木の制御が狂い、結界は破れ、私で無ければ収拾できぬ破壊の嵐が、その一帯に発生しよう。
そうなれば貴様は、私をそこに戻すしかなくなる。降伏しろ左門。魔具を発動させる前に、大人しく私をそこに戻せ。私が、私の魔具を持つ者をそこに送り込めた時点で、勝負は決した。貴様はよくやった。なのに往生際も悪く、要らぬ被害をだしても仕方あるまい』
勝ちを確信した葉風は強気で左門に告げる。
『降伏するのはプライドが許さねぇ。って言うなら、すぐにコイツを引いてやるぜ?』真広が問う。
魔具はライフルの様な形をしている。つまり、発動させるには、ライフルの引き金を引けばいい。
『引いて、世界を滅ぼすのか?絶園の木無くして、この世は守れんぞ?』左門は子供を諭す様に言う。
『世界を滅ぼすのは、あの絶園の木の力でしょ?現にどれだけの物が壊れ、どれだけの人が死んだと思ってるんです?』吉野が見聞きした現状を語る。
『聞いて無いのか?それらの現象は、始まりの木が絶園の木を復活させぬ為、果実を集めようとすれば大きな被害が出る様、仕組んだものだ。
この世界を滅ぼすのは……絶園の木の復活ではない。始まりの木の覚醒だ!それを防ぎ、この世界を救えるのは、ただ絶園の木のみ!あの大樹こそが、我らにとってたった一つ、希望の剣なのだ。
始まりの木が、その力を発するのに何が必要か?知っていよう。力の代償に捧げるもの』
『高度な文明の産物』吉野が左門の問いに答える。
『そう、この世界を完全に作り直す為に必要とされる文明の産物は、想像を絶する量にのぼる。始まりの木が目覚めれば、今、地球上にある文明という文明を食い尽くすぞ!そうなれば人類は一億と生き残れまい。その上、生物の在り方そのものが書き換えられ、現存する全ての種族は、滅びる可能性もある』
吉野
(魔法の説明を聞いた時、何か違和感があった。そうだ、鎖部の魔法は理を守るかも知れない。でも、引き換えに文明をリセットする。恐ろしい力でもあるんだ)
鎖部一族の目的、それは始まりの木が目醒める前に、絶園の木を復活させ、もう一度深いダメージを与えて、再び長い眠りにつかせる事。
『左門、それは幾度となく一族で論じた。いくらこの世が不完全といえ、始まりの木は、世界を丸ごと書き換えはせん。問題点のみを修正するだけだ。そこへ絶園の木で深い衝撃を与えてしまっては、それによって、私でも制御出来ない暴走が起こりかねん。それこそ、あらゆる生物が死に絶える』
『姫様、貴方だけがそう主張された。ですが、もはや一族で答えは出ているのです。どの様な犠牲を払おうと、我々は務めを全うしなければならない』
その務めに唯一反対する葉風。故に孤島に島流にされたのです。
『驕るな!始まりの木の従者たる鎖部の民が、その主に背いてなんとする!』
始まりの木から恩恵を受けて魔法を使う一族にとって、始まりの木に敵対する行為は裏切りと言える。
『この世界を守る為です。従者たれど、我らは木の奴隷ではありません』左門の意見は変わらない。
『だから、それでは世界は守れん!』世界を守りたいという気持ちは一緒でも、二人の守る方法は違う。
『どうする少年?これを聞いても、まだ姫様の見方をするか?判断を誤れば、お前たちがこの世界を滅ぼすぞ?』
葉風と話しても意見は合わない。そう考えた左門は魔具を持つ真広に揺さぶりをかける。葉風を説得するより、真広を説得する方が容易だと考えたのかも知れない。
『まぁ、どっちが正しくてもいいや、俺には関係ねぇし。それに、お前らの方が正しいかもって話は、遠に葉風から聞いてる。もう一回聞かされても何も変わらねぇよ』真広は爽やかに答える。
『いや、そんな話、僕は聞いて無いって!』吉野は真広に抗議する。
『そりゃあ、聞かせてねぇから。お前が聞いたらグダグダ迷って面倒そうだしな』真広が突き放す。
『お前は、姫様の言葉を疑わなかったのか?』左門は真広に問う。
『別にお前の言葉も疑ってねぇよ?説得力はどっちもどっちだろう?』真広の意見は中立。
『つーー。人間的にどうかと思うが?その者はこの世の事など気にしておらん。故に左門、貴様の負けだ』
真広
(俺は……ドン底に降り立っている。この世もあの世もあるものか。知ったことか、どうともなれ。ただ、ただ復讐さえすればいいのだ)
『世界の心配は後だ。さぁ、葉風を戻せよ!俺はアイツに見つけてもらう奴がいる』孤島にいる葉風を、戻す様に要求する真広。
左門
(世界の命運を気にかけぬ者、そんな者が姫様と繋がるとは……いや、そんな者の存在自体、世の理が姫様に味方している証か?)
『お前の望みはなんだ?世界を滅ぼす危険を顧みず、誰を求める?』左門は冷静に問う。
『葉風がここに戻ればわかるさ、お前はまだ、知る必要ねぇよ』
『姫様が戻れば……か、ならばやむを得ん』
『これで詰みだ。左門、終わったな』
吉野
(これでいいのか?葉風さんが世界を救うならいい。でも左門って男の言う通りだったら、葉風さんはこの世界を滅ぼしてしまう。それを真広個人の望みで決めていいのか?)
『真広、お前は世界を救ってやるって言ったろ?下手すれば、その逆になるかも知れないんだぞ?それは理に叶ってるのか?』
『この世界が概ねでも正しいなら、葉風を戻しても滅びやしねぇよ。でも、どうしようもなく間違ってれば、一度滅んで作り直した方がよっぽど正しくねぇか?』真広に吉野の声は響かない。
吉野
(そうか……真広にとって、愛花ちゃんを殺したこの世界は、とにかく気に入らないんだ。どんな形であれ修正されるなら、筋が通ってる。って考えてるんだ。
無理だ。僕が真広をどうこう出来る訳がない……愛花ちゃんの為に何が出来るか?僕には分かりもしないのに……)
『ほら、鎖部 左門。さっさと葉風を戻せよ』喧嘩越しに命令する。
しかし、左門から告げられるのは姫様の死。そして、樽の中から現れたのは葉風の全身骨格。
今まで葉風と通信できていたのは魔法の力であり、時間を超えて会話が成立していると左門は告げる。
葉風が口にした西暦……それは二年前の西暦。魔法による通信方法で、二年前の葉風と話せているだけで、現在の葉風は死んで全身骨格となっている。
『馬鹿な、ありえん!左門、堅実が信条の貴様が、私を殺すなどという危険を冒すはずがない。私が居なければ、絶園の木の復活に失敗した時、どうする気だ!』声を荒げる。
『姫様、堅実な私とて、貴方が相手となれば、大きな賭けも打ちます。おそらく姫様には四ヶ月程度にしか思われていないのでしょうが……堅実故に、準備に二年以上も掛けたのです』左門は対象的に冷静。
葉風
(二年くらい過ぎていると、なぜ思わなかった……自分の強運に自惚れたのか?では……やはり私は死んでいるのか……ここは貴様達にとって、二年前の時と、場所なのか?)
『生きていても、死んでいる。その島は貴方にとって、時間の檻なんです!姫様、貴方の負けです』
嵐の中、孤島で一人、自分の死と敗北を知る葉風。始まりの木に肯定されてきた姫宮にとって、初めての壁、初めての挫折。
葉風が当てにならなくなった事で、真広は葉風を身限り、左門と交渉する事にした。魔具を差し出す代わり、義妹を殺した鎖部一族の者を生きたまま連れて来いと。
吉野
(葉風さんをこんな方で見捨ていいのか?
ああ、凄いよ真広。お前は凄いよ……たくさんの人が死んで、魔法と木が世界を揺るがして、時間さえ捻れる酷い有様の中で、お前だけはお前の理屈を押し切って、望みを叶えてしまうだな。
でも真広……これは悲劇だ。悲劇だよ……僕にそれを止める力も、資格もありはしないけど)
『葉風さん、吉野です。いま、真広と左門の取り引きが成立しました』
『そうか、これで私の方が、完全に詰されたという訳か……』
『そう簡単に諦めていいですか?葉風さんが正しいなら、絶園の木の復活で、世界は滅びるんでしょ?』
『だが、手がない。私はそちらの時間でもう死んでいる。一時的に復活を止められても、その後、左門を阻める者が居ないのだ。私がそちらに戻れないと決まった時、全ての道は消えた。真広が私を見捨ても文句は言えん。
ここで真広の様に、ハムレットのセリフでも引用出来れば、少しは格好が付くのだが……あいにく何も思い浮かばん』
『こんな時、あんな悲劇から引用するもんじゃありませんよ……僕もよく愛花ちゃんに……はっ!』
吉野は悲劇の引用をトリガーとして、愛花との会話を思い出す。
『またハムレット?それ止めようよ?あれ、復讐に拘るせいで、母親も、恋人も、そのお兄ちゃんも、みんな死んじゃう悲劇の話だよ?だいたいハムレット自身も、恋人のお兄ちゃんと決闘して死んじゃうし、縁起悪すぎるって』
吉野が愛花に告げた言葉。
『ハムレットからの引用がよくないと言うなら、同じ復讐の話でも、最後は皆が幸せになる物語から引用しましょうか?これも、シェイクスピアの作品で、孤島の魔法使いの物語です』
『孤島の魔法使い……復讐の話なのに皆が幸せになるって……それ、なんてタイトル?』
『そのタイトルは……テンペスト』愛花は答えた。
吉野
(なんだ?なんで急にこんな事を思い出す。復讐、孤島、魔法使い、これは偶然?
もしかして愛花ちゃん。これを悲劇じゃない物語にできるのか?僕はその為にここにいる。葉風さんを孤島からここに戻す道があるとでも?)
《真広は一生気付かないかもしれない。自分が愛花ちゃんに、ただ恋をしていたって事を……あの真広が、愛花ちゃんには触れるのさえ緊張していた。側に居ても、どうしていいか、戸惑っていた》
葉風を絶海の孤島から救い出すべく、吉野は真広と交渉する事に。
『メリットはある。真広、こちら側に付くと言うなら、お前に愛花ちゃんの彼氏が誰だったか、教えてやる!』
その言葉がトリガーとなり、絶望の状況にいる葉風を救い出す証明が始まります。
犯人が連れて来られる前に、葉風を時間の檻から救い出せるのでしょうか?
果たして、愛花を殺した真犯人とは?
騙し合い、駆け引き、白熱する心理戦!ご堪能ください。




