恋愛経験皆無の僕が元ヤン女子と意気投合して恋に落ちていく話
序章
僕の名前は『楢崎 哲平』二十歳、どこにでもいるごく普通の大学二年生
趣味は映画鑑賞とカフェ巡り、彼女いない歴イコール年齢…昔から女性と話すことが苦手で話そうとすると過剰に緊張してしまい上手く話せなくなってしまうのが悩み…そのせいでずっと人並みに彼女が欲しいと思ってはいるものの、できた試しがない。
そんなある日、僕は大学の友人に『合コン』に誘われた
…と言っても急に一人来られなくなったのでその数合わせの為に仕方なく来たという感じだ
でも、よく考えればこれももしかしたらチャンスかも知れない…この合コンで女の子とできればお近づきになってゆくゆくは交際に発展して…とにかくここは頑張ろう!
そして、都内の個室の居酒屋にて女性陣が来るのを待つ
「いやぁ、悪かったな楢崎…急遽来てもらっちゃってさぁ」
「ううん、全然いいよ…でも合コンとか初めてだ、き、緊張する」
「あーまぁ、楢崎は無理に女の子と話そうとしなくても大丈夫だからさ!そこら辺は俺らに任せてよ!」
「あ、ありがとう…」
「…おっ?今メッセージきて、女の子達もうお店ついたってさ」
「おっ?マジで?」
「こんばんはー!今日はヨロシクー!」
今日の合コンの相手は僕らとは別の大学の女子大生、みんな派手目な髪色にメイクと強めなギャルばかり
「おー、ヨロシクー!あれ?そっち一人少なくない?」
「あーゴメン、ちょっと遅れてくるって」
と、そうこう言っている間にもう一人が到着した模様
「わりぃ、遅れた」
「もう、遅いよー『一華』ぁ」
遅れてやってきたのはギャルというよりもヤンキーといった風格の女性、金髪の長い髪に耳には大量にピアスをつけており虎のような鋭い目つきをしている
「…っ!?」
彼女が登場するや否や思わず固まってしまう男性陣、無論僕も固まってしまった。
「じ、じゃあメンバーもそろったところで始めちゃいましょうか!」
とまぁ、なんやかんやでありつつも合コンはスタートした。
各々自己紹介をし、食事したりお酒を飲んだり男女隣同士になって話したりとそれなりに盛り上がった
…僕達を除いて
「……っ」
「………」
みんながワイワイ盛り上がる中、僕と金髪ヤンキー…基、『井本 一華』さんはお互いに無言のままただ黙々と食事していた…正直滅茶苦茶気まずい、ただでさえ女の子と話すのが苦手なのにこんな如何にもなヤンキー女性の相手なんて務まるはずもなしに…でも、ヤンキーなんだけどよくよく見たら井本さんって滅茶苦茶美人だな…目つきは少々鋭いけどよく見たらまつ毛が長くて瞳の色はカラコンなのか自前なのか不明だけど綺麗な茶色をしていた。
唇も程よくぷるんとしていてセクシーな口元をしており、僕はいつの間にか彼女に視線を釘付けにされていた。
「…あのさ」
「っ!?、ひ、ひゃい!?」
「さっきからアタシの顔ばっか見て何なの?」
「す、すみません!あまりにも綺麗で美しいお顔だったのでつい…あっ!?」
「…っ!?」
「ご、ごめんなさい…キモいですよね、いきなり綺麗だなんて」
「別に…綺麗なんて言われて嫌な女なんていないっしょ?つか、面と向かってそんなバカ正直に言っちゃうんだ?ウケるんだけど」
「す、すみません…僕、どうも昔から嘘がつけないみたいで思ったことバカ正直に言っちゃうところがあって…」
「へぇ、そうなんだ…ちょっと面白いじゃん、もっと話そうよ」
「は、はい…」
それから、井本さんと色々と話した…井本さんは僕の一つ年上の三年生で、僕と同じで今日は急遽数合わせで参加したこと、実は井本さんも趣味が映画鑑賞という意外な共通点も見つかり話が盛り上がった。
「へぇ、いいじゃん…アタシも子供の頃から好きだよ、デズィニー作品」
「ですよね、イイ作品だとサブスクとかで何回も見ちゃいます」
「それな!やっぱイイ作品は何回も繰り返して見てこそ真の映画好きだよな!」
「ですよねぇ!ちなみに井本さんって一番好きなデズィニー作品なんですか?」
「んー、一番かぁ…決めかねるなぁ~!やっぱ定番なとこで『トイ・ワールド』かな?」
「おー、いいですね!僕も1から最近のまで全部見てますよ!ちなみに1だけでももう百回以上は見てますかね?」
「すっげ、じゃあセリフとかも全部覚えてたりする?」
「もちろんですよ、中でも僕の好きなシーンで…」
と、そんな感じでお互いに好きな映画について延々と語り合った
僕の人生においてこんなにも長い時間女性と普通に話したのなんて初めてかもしれない…もう時間なんて忘れるくらい井本さんと楽しく語り合った。
…そして、宴もたけなわとなり合コンは終了した。
僕ら以外のメンバーは二次会のカラオケに行くというので僕はそっちにはついていかず失礼することにした
お店を後にして帰路につこうとしたその時だった…。
「ねぇ!」
「??」
帰り際になって井本さんに呼び止められた
「もう帰るの?」
「え、ええそうですけど…井本さんは?」
「んー、もう帰ってもいいんだけどさぁ…まだまだ楢崎君と話足りないなぁって…」
「えっ…」
「ねぇ、もし良かったら今からウチ来ない?アタシの秘蔵の映画コレクション見せちゃるよ!」
「い、いいんですか…ホントに?」
「全然いいよ!何ならウチで飲み直してもいいし!飲みながら朝まで映画談義だぁ!」
「それならまぁ、お言葉に甘えて…」
「よし決まり!じゃあレッツらゴー!」
なんと、生まれて初めて参加した合コンで初めて会った女性と意気投合してあまつさえ家にまでお邪魔できるなんて…この僕に想像できただろうか?
第一章
「まぁ遠慮せず上がって上がって!」
「お邪魔します…」
初めて上がる女子の部屋…心なしかすごくいいニオイがした
「さ、じゃあまずはとりあえず乾杯しようか!」
「そうですね」
冷蔵庫から缶チューハイを二本取り出して片方を僕に渡す
「んじゃ、カンパーイ!」
「乾杯」
チューハイをぐいっと一口飲む井本さん、すると次の瞬間…
「うへへぇ~、おしゃけおいちい~」
「なっ!?」
一口飲んだだけなのにもうすごい酔っぱらってらっしゃる!
…今思えば、居酒屋で一緒に飲んでた時も彼女はウーロン茶とかソフトドリンクしか飲んでなかったような気がする
「い、井本さん?大丈夫ですか?」
「あー、ごめぇん…あーしぃ、おしゃけ滅茶苦茶弱くってぇ、一口飲んらだけれこの有様よ!ウケるっしょ?うひひひ!」
「は、はぁ…」
「おしゃけ弱いのは分かってんらけどさぁ、おしゃけ飲むのはしゅきらから人にメーワクかけないようにおしゃけ飲むのはなるべくウチだけって決めてんの、エライっしょ?」
「は、はい…エライですね」
「でしょ~?もっと褒めて褒めてぇ」
と、僕の膝の上にすり寄っていく
「ちょ、井本さん!?」
「うへへぇ~、ねぇもっと飲もうよぉ!そんでもっとお話しよ!」
「は、はい…」
それから、井本さんとサシで飲み続けたり井本さんの秘蔵映画コレクションを見たり過ごした。
『…好きだ、マルシア!結婚しよう!』
『アンドレ…嬉しい、私も好きよ!』
と、濃厚なキスシーンを目の当たりにした
「…わぁ、チューしたぁ!チューしたねぇ~」
「し、しましたね…」
「はぁ、なんか興奮してきた…あっつい」
と、着ていた上着を脱いでタンクトップ姿になる井本さん、その際に上着を脱いだ勢いでモロに下着が見えてしまい僕は慌てて目を逸らした…。
「ん?どしたん?」
「い、いえ…何でもありません」
「ん~?あ、いけね…ブラ見えちゃった?まぁいいやブラぐらい」
「よ、よくないですって!上着てくださいよ…」
「え~?何々?ドキドキしてんの?可愛い~!もしかして楢崎君って童貞?」
「そ、そうですけど…」
「へぇ、そっかぁ…童貞なんだぁ」
ニヤニヤといたずらっぽい笑顔を浮かべる井本さん
「もっと見たい?素直に見たいって言ったらもっと見せてあげるよ?どうする?」
と、タンクトップを下着が見えるギリギリのラインまで捲ってピラピラと煽って誘惑してくる
「み、見ませんよ!しまってください!」
「顔真っ赤っか!マジでウケる!オモロォ~!」
お、落ち着け僕…きっと酔っぱらった勢いでただからかってるだけだ、本気で見せるわけがあるわけない
「ホレホレぇ~、女子大生の生おっぱいはもうすぐそこだぞぉ~!こちとらFカップだぞぉ~、ホントに見なくていいのぉ~?」
「も、もういいかげんからかうのもやめてください!」
「照れんなって…可愛いなぁもう、おろ?」
するとその時だった…井本さんは誤って床に置いてあった空き缶を踏んづけてしまいバランスを崩して倒れてしまった。
「あ、危ない!」
“ドガシャーンッ!”
危機一髪のところを僕が身を挺して井本さんを守って事なきを得た
「…イテテ」
「大丈夫?」
「僕は平気です、井本さんこそ怪我は?」
「全然平気、てか守ってくれたんだ…」
「そ、そりゃあまぁ…体が勝手に動いたというか…」
「へぇ、カッコイイとこもあんじゃん…ありがと♡」
すると次の瞬間、突然井本さんが僕にキスをしてきた。
「っ!?」
「んちゅ…じゅるじゅる、ちゅば、じゅるじゅるじゅる…れろれろ、はむはむ」
なんとただキスをするだけでは飽き足らず、僕の顔を両手でガッチリホールドしながら僕の口の中に舌をねじ込んでディープなキスもしてきた
僕は驚きのあまり身動きできずにいた。
「…んぱぁ、へへへ、チューしちゃった♡」
「あ、ああ…」
「ファーストキスだね、フフフ…」
…そこからの記憶はあまりはっきりと覚えていない、その後また井本さんにディープキスされ気づけばそのまま二人ともそのまま寝落ちしていた。
【翌朝】
「…その、昨夜はホンっトにごめんなさい」
と、ただひたすらに僕に頭を下げる井本さん
「あ、頭上げてください!そこまで気にしてませんから!」
「でも、酔ってた勢いとはいえあんなことしちゃうなんて…もう申し訳ないし恥ずかしいし、複雑な気持ちでいっぱいで」
「井本さん…」
「だからアタシ、ちゃんと責任はとるよ!楢崎君の彼女になる!」
「ふえぇっ!?」
突然の彼女になる宣言で目が飛び出そうなほどびっくりする。
「というわけだから、アタシと付き合ってください!」
「ま、待って!落ち着いてください!」
「アタシは冷静だよ、アンタこそ落ち着きなよ…」
「いやだって、つ、付き合うだなんて…本来は好きになった者同士で初めて成立することであって…」
「…ひょっとして、アタシじゃ嫌?」
「いや、そんな…滅相もない!井本さんみたいなとびきり美人と付き合えたらどんなに誇らしいことか…」
「と、とびきり美人とか…お前」
「あ、すみません!また余計なことを…ホントすみません!」
「いいよ、言ったろ?美人とか綺麗とか言われて嫌だって言う女はいないって」
「は、はぁ…」
「あのさ、なら提案があるんだけど…」
「提案?」
「うん、一ヶ月…いや、二ヶ月ちょうだい!それまでにアンタにアタシのこと好きだって言わせてみせる!それでダメだったらもう諦める」
「え、えっ?」
「だから、これから二ヶ月はお互い『彼氏・彼女(仮)』ってことでどう?お試し期間ってやつ…」
「お、お試し期間…ですか?」
「そそっ、あー安心して!これからはアンタからちゃんと返事もらうまではチューは我慢するから」
「は、はい…」
「というわけだから…いいよね?」
「あ、はい!」
「うん、決まり!じゃあ今日からよろしくね!アタシの彼氏(仮)!」
…というわけで、彼女いない歴イコール年齢の僕に人生初の彼女(仮)ができた。
・・・・・
あれから数日、僕は井本さんと毎日のようにメッセージや電話のやりとりをしている
そして今度の日曜日に二人でデートに行く約束をした。
…デートかぁ、仮とはいえ初めてできた彼女との初デート…想像するだけでも緊張してきた
そんなこんなで迎えた日曜日、僕は今日の日の為に新調した小綺麗な服装に身を包んで待ち合わせ場所で彼女が来るのを待つ
「哲平!お待たせ!」
待ち合わせ場所に現れた井本さん、レザージャケットとスキニージーンズを粋に着こなしたなんとも彼女らしいファッションだ。
「ごめん待った?」
「いえ、全然…それにしても、やっぱり井本さんはお綺麗ですね」
「…もう、よくもそう恥ずかし気もなくそういうこと言えるよな」
「あ、嫌…ですか?」
「ううん、ただちょっとそんな素直に褒められるとなんか恥ずかしい…」
頬を赤らめてもじもじする井本さん、今までのヤンキーっぽい印象からしてすっごいギャップだ…美しいのに可愛いとか最強かよ!
「じゃあ行こっか!今日はどこ連れていってくれるの?」
「今日は僕のオススメのカフェにいきたいと思います」
「へぇ、カフェかぁ…そう言えば映画の他にもカフェ巡りが趣味とかメッセージで言ってたもんね」
「はい、じゃあいきましょうか?」
「うん!…あ、ねぇ!手、繋いでいい?」
「て、手ですか!?」
「うん、まぁ一応仮とは言えアタシ達付き合ってるんだし…手繋ぐぐらいなら、いいよね?」
「あ、はい…」
そう言って井本さんとぎゅっと手を握り合った、しかも互いの指と指を絡め合う所謂『恋人つなぎ』だ。
「……っ」
「フフフ、哲平の手ェあっついね!緊張してんの?」
「…は、はい」
「可愛い、フフフ…」
それから二人でしばらく歩いてカフェに到着した
僕はカフェオレとミックスサンドのセットを注文し、井本さんはチョコレートパフェを頼んだ
「ん~!このパフェ美味しい~!」
ものすごく幸せそうな顔でパフェを頬張る井本さん
「井本さんって、甘いもの好きなんですね…」
「うん好き!三食甘いものでも全然ヨユー!」
「そ、それは流石に体に悪いのでは?」
「分かってるよ…あ、どうせ似合わないなぁとか思ってんでしょ?」
「え、ええ?そんなこと全然思ってな…」
「いいよ気なんか使ってくれなくても…こういうの似合わないって自分でも自覚してるし」
「お、思ってませんよ断じて!逆にギャップがあってすごく可愛らしいと思います!」
「ふーん、好きになっちゃうぐらい?」
「す、好き…か、どうかで言ったらまだ分かんないですけど」
「うーん、そっか…てかさ、哲平って今まで女の子好きになったことあるの?」
「…どうなんでしょう?好きとか言う以前に僕…今まで女の子とまともに話したことすらなくて」
「??」
「なんか、ダメなんですよ昔から…女の子と話そうとすると無意識に過剰に緊張しちゃってまともに話せなくなっちゃって…ずっと人並みには恋愛したいとは思ってましたけど、その半分で恋愛なんてできないんだろうなって、そんなことばっかり思ってました」
「そっか、そう言えばあの日合コンで最初に会って話した時だってずっとおどおどしてたもんね…」
「はい…」
「でも今はアタシとフツーに話せてんじゃん?」
「…なんででしょう?最初はたしかに緊張してましたけど今は割と…」
「まぁ、あれだけ自分達の好きなものの話で盛り上がったから無意識のうちに慣れちゃったのかな?」
「だと思います、他の女性とじゃまともに喋れる自信ありません…」
「そっか、それってさぁ哲平の中でアタシっていう存在がかなり“特別な存在”になってるってことだよね?」
「そう、なんですかね?」
「そうだよきっと…フフフ♪なんか嬉しいな、誰かの中で特別だって思ってもらえてるなんて…」
「…そうですね」
カフェを後にして次にやってきたのは映画館
「さて、今日は何にしようかな~?哲平は何か見たいのある?」
「そうですね、恋愛もの以外だったら何でも…」
「そう?恋愛もの好きじゃない?」
「まぁ嫌いではないんですけど…今見たらあの日の事思い出しそうで…」
「…あっ」
ほんの一瞬だけその場に気まずい雰囲気が流れた
「…あー、あの時はホントにごめん」
「いえ…」
なんやかんやあったけど何とか見る映画を決めて二人で楽しんだ。
「…あー面白かった!」
「そうですね、最近はずっとサブスクでばっかり見てたんですけどやっぱりいいですね、映画館も」
「それな!」
その後は二人で夕食を食べながら映画の感想を言い合ったりして過ごした
「もうすっかり夜だね…」
「そうですね、明日も大学で朝早いので今日はこの辺でお開きにしましょうか」
「うん、楽しかったなぁ今日…哲平は?楽しいって思ってくれた?」
「はい、楽しかったです」
「よかった…ねぇ、一個お願いがあるんだけどいい?」
「??」
「…ハグしてもいい?」
「ハ、ハグですか…」
「嫌…?」
「いや、まぁハグぐらいなら…」
「やった!じゃあ、えいっ!」
と、僕にぎゅーっと抱きつく井本さん…僕はその時手のやり場に困ってあたふたしてしまう
「…何してんの?哲平もちゃんと抱きしめてよ」
「…い、いいのかな?」
「いいよ、仮とは言え彼女だもん…」
「で、では…失礼します」
そう言って僕は彼女のことを優しく抱きしめた
あまりに緊張しすぎて手の先までブルブル震えているのが自分でも分かる
「フフフ、めっちゃ震えてんじゃん…マジで童貞かよ」
「童貞ですもん…そりゃ緊張しますよ」
「そりゃそうだ…フフフ」
こうして、その後十分ぐらい人目も憚らず抱き合っていてお互い満足して体を離す
「じゃあまたね!またデートしよう!」
「はい、それじゃあまた…」
僕の人生初デートはこうして無事に終了したのだった。
・・・・・
【翌日】
「ふぁ~…ねむ」
昨日は初デートの興奮が冷めやらずあまり寝付けなかった為少々寝不足気味だ…井本さんから朝メッセージもらってなんとかギリギリ起きれたけどあのままだったら確実に寝坊して遅刻してただろうなぁ…。
「楢崎ー!おはよう!」
「杉崎君、おはよう…」
彼は大学の友人の杉崎君…先日の合コンも彼からの誘いで行った、僕とは真反対の陽キャイケメンなのだが誰にでも分け隔てなく接するフレンドリーな性格で友達も沢山いる、こんな僕ですら仲良く接してくれる見た目に反して聖人のような人だ。
「なんかスゲー眠そうな顔してんじゃん、顔死んでるよ?」
「ああ、まぁ…ちょっとね」
「それよりさぁ、お前あの合コンの後どうだったんだよ?あの金髪ヤンキーと結構最後まで仲良く話してたみたいだったけど…」
「井本さんの事?あー、まぁね…」
「で、どうなの実際?どこまでイった?」
「ど、どこまでって…まぁ、ちょくちょく連絡取り合ったり…一緒に出かけてお茶したり映画見たり…」
「マジで!?一緒に出かけるって、結構イイとこまでいってんじゃん!」
まぁ、嘘は言っていない…仮とは言え付き合っていることを伏せてるだけで一緒にお茶したのも映画見に行ったのもホントのことだ。
「…つか、それってもしかしてもう付き合ってるってこと?」
「いや、付き合ってるっていうか…なんて説明したらいいのか?」
「まさかお前、その人の“舎弟”にされたとかじゃないだろうな?それで無理矢理連れ回されていたり…」
「そ、そんなことないよ!僕らは至って健全だよ!」
「あーなるほど分かった!もしかして『お友達から始めましょう』的なあれか?」
「んー、まぁそういうことでいいや…」
「そっか、まだ付き合ってなかったんだな…でもお前もよくやるよなぁ、あんないかにもな怖いヤンキー女を狙うなんて意外と勇者なのな!流石の俺もヤンキーは無理だわぁ」
「井本さんはそんな人じゃないよ!昔はどうだったかまではまだ知らないけど僕の知ってる井本さんはすっごく綺麗でイイ人なんだ!だからあまり彼女を悪く言うような発言はしないでほしい!」
「わ、分かったごめん!そうだよな、流石に好きな人の悪口言われたら誰だって嫌だよな…」
「好きな人、か…」
…その日の夜、井本さんと電話する
『…へぇ、そんなことがあったんだぁ』
「うん…で、その時僕友達につい怒っちゃったんだ…井本さんのこと悪く言うなって」
『そっか、アタシの為に怒ってくれたんだ…ありがと』
「いえ、そんな…井本さんのこと悪く言われたのがなんかムカついてつい…」
『…うん、まぁでもアタシが元ヤンだったことは変えようがない事実なんだけどねぇ…』
「えっ?そうだったんですか?」
『そそっ、自分で言うのもあれなんだけどさ…アタシの地元で多分アタシのこと知らないヤンキーはいないと思うよ?『ハマの女帝 一華』って聞いたらみんな震えあがってたね』
「それは、すごい…“ハマの”ってことは、井本さんって横浜出身なんですか?」
『うん、横浜の伊勢佐木ってところだよ、中華街とか有名な…高校卒業するまでずっと住んでた…東京出てきてからは全然帰ってないけどね』
「まぁ、帰り難いとは思いますが…」
『まぁね、面倒な連中に目ぇつけられるのも面倒だしねぇ…』
「有名なのも考えものですね…」
『そーね、じゃあアタシもうそろそろ寝るから…』
「ええ、おやすみなさい…」
『うん、おやすみ…チュッ♡』
「っ!?」
電話が切れる直前に井本さんが唇の音を鳴らしたのでちょっとドキッとした…一瞬ホントにキスされたかと思った。
…それから数日、今日は井本さんとの二回目のデートの日
前回と同じくカフェで軽くお茶した後、今日はショッピングモールに買い物にきた。
「…そろそろ夏も近いじゃんね、新しい夏服ほしいなぁ」
「そっか、もうそんな時期ですね…」
「あ、そうだ!折角だから哲平がアタシの服を選んでよ!」
「え、僕?」
「うん、折角一緒に来てるわけだし…特別にアタシの服を選ぶ権利を与えます!」
「…服かぁ、でも僕ホントにコーディネートなんててんで分かんないよ?ましてや女の子の服なんて尚更…」
「いいよ、もし分かんないならさ哲平が“彼女にしてほしいこんなコーデ”とかでもいいからさ」
「彼女にしてほしいコーデ…」
「よしじゃあ早速お店にレッツらゴー!」
と、お店に連れて来られて店内の服を色々と吟味して井本さんに似合いそうな服を探す
そこでふと目に止まったのは薄いピンク色のリボンとフリルがあしらわれた薄手のブラウスに同じくフリルがあしらわれた黒のスカートだった。
「…どう?決まった?」
「はい、これなんてどうでしょう?」
「…うわっ、たしかに可愛いけどさ…流石にアタシには可愛すぎない?絶対似合わないって、ましてやこんな短いスカートなんて…」
「そうですかね?僕は普通に可愛いと思いますけどね…」
「そ、そう?まぁ、哲平がそこまで言うんならちょっと試しに着るぐらいはしてやってもいいかな…」
「ホ、ホントですか!?」
「で、でも!絶対笑うなよ!」
「笑いませんって、絶対似合うはずです」
「わ、分かったよ…じゃあちょっと着てくる」
と、僕の選んだ服を持って試着室へ行く井本さん
…数分後
「…き、着換え終わったぞ」
「はい」
着換え終えて試着室から出てくる
「っ!?」
「ど、どう?」
僕の選んだ服を着て顔を赤らめてもじもじする井本さん、そのあまりの可愛らしさに度肝を抜かれて一瞬言葉を失ってしまった。
「…っ」
「お、おい!なんか言えよ!」
「…っは!?すみません、あまりに可愛すぎて一瞬意識がぶっ飛んでました」
「なっ、そんな…お、大袈裟だっつーの!」
僕が褒めると更に顔が赤くなる井本さん
「いや、冗談抜きで可愛いです!普段の大人っぽいクールな感じの服も素敵ですけどこういう甘めな服装もよくお似合いです!」
「も、もうやめろぉ!恥ずかしくて顔から火が出そう!もう着替えてくる!」
と、シャーっとカーテンを閉めてしまった
(…何か不味いことでも言ったかな?)
「お買い上げありがとうございました!」
結局、井本さんは僕が選んだ服を買った
「結局買ってくれたんですね」
「…で、でも流石にこれ着て外出歩くのはちょっと恥ずかしいから、家で着ることにする」
「えーそんな、勿体無い…」
「っつっても、アタシん家でデートする時とか…見せる機会はあるから」
「井本さん…」
「だからさ、次のデートはアタシん家でしよ?またアタシの秘蔵映画コレクション見せてやる」
「はい!すごく楽しみです!」
第二章
季節は本格的な夏になり、大学も期末試験期間となり僕は必死に試験勉強をしている
その間、できるだけ勉強に集中したかったので試験期間中はなるべく井本さんに会ったり連絡することを控えた
井本さんの方も僕に遠慮しているのか期間中あまり連絡してこなかった。
…そして、三日間にも及ぶ期末試験も今日漸く終わり来週からいよいよ待ちに待った夏休みだ
学校が終わるや否や僕は久しぶりに井本さんに連絡を取った。
「もしもし?井本さん?お久しぶりです」
『おぉ哲平!もう試験終わったの?』
「はい、ついさっき…今学校出てきたところです」
『そかそか、アタシんとこは昨日終わったとこだよ!』
「そうですか、お疲れ様です」
『おう!ところで哲平今日この後暇?』
「え?この後ですか?特に予定はありませんけど…」
『だったらさ、今からウチに来ない?試験お疲れ様ってことで一緒に飲もうよ!』
「いいですね、じゃあ僕これからコンビニでお酒買ってそっち向かいますね」
『うん、じゃあアタシはおつまみでも作って待ってるね!』
「ええ、それじゃあまた後で…」
電話を切り、コンビニでお酒を調達して急いで井本さんの家へ向かう
“ピンポーン!”
「はーい!」
ドアを開けて僕を出迎える井本さん
早速僕が選んであげた服を着ており、まだ料理の途中だったのかエプロン姿のままだ
「いらっしゃい!待ってたよ!」
「お邪魔します、イイ匂い…何作ってるんですか?」
「色々だよ、ジャーマンポテトとか豚キムチとか枝豆茹でたやつとか…お酒に合いそうなのとりあえず作ってみた」
「わぁ、美味しそうだ…」
仮とは言え彼女の初の手料理、胸が高鳴る…
「じゃあ早速乾杯しよう!」
「そうですね」
「じゃあ試験お疲れ様!カンパーイ!」
乾杯して井本さんのお手製のおつまみを食べる
「…んっ、すごく美味しい!」
「え、ホント?」
「うん、すごく美味しいです!すごく好きな味です!…うん、枝豆もイイ塩加減で美味しい」
「えへへ~、嬉ちい~!哲平いっちゅもあーしのこといっぱい褒めてくれるから嬉ちいなぁ」
「僕で良ければ、いくらでも褒めてあげますよ」
「ホントぉ?えへへ~、もっと褒めて褒めてぇ~!よしよしちて~!」
と、僕の膝の上にゴロンと横になる井本さん
「…ちょ、よしよしは流石に」
「いいじゃん!よしよしちてよぉ!」
「わ、分かりました…よ、よーしよし」
と、観念して井本さんの髪を撫でる…すごくサラサラしてて手触りがいい
「えへへ~嬉ちい嬉ちい~」
恍惚の笑みを浮かべて僕に甘える井本さん、どうやら井本さんは酔うと甘え上戸になるらしい。
それから、お酒とおつまみを堪能しながら井本さんの映画コレクションを鑑賞する
と、気が付けばすっかり深夜を回っていた。
「あっ、もうこんな時間か…」
「ん~?あれ、ホントら…」
「もう帰らないと、ってもう終電もないしタクシーだと深夜料金で高いし…」
「なら泊まってけば~?あーしは全然いいよぉ?」
「いや、そんな悪いですよ…第一、着換えもありませんし…」
「いいよいいよ、それぐらいあーしの貸すって!ちょっと大きめのジャージならあるからそれ着れば?」
「あ、ありがとうございます…」
「後、パンツもあーしのでよければ履く?」
「それは流石にダメ!コンビニで買ってきます!」
と、急いでコンビニでパンツを買い井本さんのジャージを借りて今夜は一晩泊まることに
「ん、ぴったりじゃん…」
「そ、そうですか…」
井本さんに借りたジャージというのが赤色のヒョウ柄のいかついジャージ…恐らく井本さんが“現役時代”に着ていたものだろうか…?
「うんうん、似合ってるよぉ~!それあーしが高校時代に着てた部屋着なんだけどとっといてよかったぁ」
「そ、そうですか…薄っすらそうじゃないかと思ってました」
「にへへ…ふぁ~、眠くなってきた」
「あ、じゃあ僕床で寝るんで…」
「え~、哲平もベッド使っていいよぉ…一緒に寝よ!」
「えっ!?さ、流石にそれは…」
「いいじゃん、仮とは言え付き合ってるんだし…それに床で寝るのはやめた方がいいよ~、朝絶対体痛いって…」
「わ、分かりました…じゃあお言葉に甘えて」
渋々井本さんのベッドへお邪魔させてもらう、心なしかベッドからイイ匂いがして隣で寝てる井本さんからもシャンプーのイイ匂いがしてとても寝れそうもなかった。
「……っ」
「…眠れない?」
「はい、四方八方からすごくイイ匂いがして目が冴えて寝るどころじゃないです」
「…そっか、でもそんな端っこで寝てたら落っこちちゃうよ?もっとこっちおいでよ、なんなら引っ付いてもいいから」
「いや、それは…」
「いいよ、てゆーかアタシは…今日だけは引っ付いて寝たいな、折角だし」
「井本さん…」
「ねぇ、今夜だけはさ…本物の彼女になってもいい?」
「えっ!?」
「ごめん、哲平からの返事待ってからって言ったんだけどさ…やっぱ、我慢できそうもないや」
「そ、それって…つまり?」
「うん、アタシ…哲平のことが好き」
「っ!?」
「びっくりしたよね、でもホントだよ?嘘でも冗談でもない…哲平のことがホントに大好き」
「い、一応…理由を聞いても?」
「哲平が初めてなんだよ、アタシのこと…普通の女の子として見てくれたの」
「えっ?」
「ほら、アタシって昔地元の誰もが恐れる最恐ヤンキーだって言ったじゃん?毎日毎日喧嘩三昧でさ、普通の女の子みたいにオシャレしたり大好きな甘いもの楽しだり恋をしたりなんてほとんどできなかった…でも哲平はさ、アタシのこといっつも可愛いとか綺麗とか素直にいっぱい褒めてくれてすっごく嬉しかった…そんでいつの間にか哲平のこと好きになってた…」
「井本さん…」
「でも、哲平はまだアタシのことホントに好きってわけじゃないよね?」
「…うん、ごめん」
「いいよ全然、でも今夜だけは、哲平の本物の彼女でいたい…哲平と、もう一度チューしたい」
「…井本さん、分かった、いいよ?」
「いいの?」
「うん、今夜だけは…特別」
「…ありがと」
そう言って僕は井本さんと二回目のキスをした
「ちゅ、ちゅるちゅる…ちゅばっ、じゅぷぷ、じゅるじゅるじゅる、じゅぶっ、ちゅ、れろれろ…」
濃厚なキスを交わし合い、二人抱き合って至近距離で見つめ合う
「…哲平、好き、すごく好き」
「井本さん…」
「あのね、今だから言っちゃうとね…アタシも、チューしたのあの時が初めてだったんだ」
「えっ?」
「まぁあの時は酔っぱらった勢いでついしちゃったけど、自分の意思でチューしたのは今日が初めてだよ」
「そう、だったんですね…」
「…すっごいドキドキしてる、チューしただけでこんなすごいんだからきっとその先はもっと…」
「ちょ、流石にそこまではまだ…」
「分かってる、流石にアタシもそこまではまだ恥ずかしいし…」
「…ですよねぇ」
「…うん、じゃあもう満足できたし、もう寝るね…おやすみ」
「お、おやすみなさい…」
…こうして、その晩は何とか眠りについた。
・・・・・
いよいよ夏休み到来、そして僕達のお試し交際期間が始まってから早くも一ヶ月がすぎていた。
残り後半分、まだ井本さんのことが本当に好きなのかはハッキリと分かっていない…けど最初の頃よりは確実に彼女に惹かれているのはたしかだ、このまま続けていけば…きっと
夏休みが始まってから二日後…井本さんから海に遊びに行かないかと誘われ、勿論僕はオーケーした
そして海デート当日、僕は井本さんから家まで迎えに行くから待ってるように言われたので家の前で待つこと数十分…
“ブォンブォン!キィー!”
「なっ!?」
そこに現れたのはバイクに乗って颯爽と走ってきた井本さんだった。
「うぃーっす!お待たせ!」
「…うわっ、井本さんバイクの運転できるんですね」
「うん!つっても高校卒業してからずっと乗ってなかったからさ、昨日からバイクレンタルして練習してたんだよ…すっかり勘も戻ったからもうどこへでも行けるよ!」
「流石、すごいなぁ…」
「ほら、後ろ乗んなよ」
と、後部座席のシート指し示す井本さん
「あ、はい…でもこれ、どこに掴まれば?」
「ん?んなもんアタシにしがみつくしかないに決まってんじゃん」
「ええっ!?」
「いいから、早く乗んなよ」
「…は、はい」
いくらなんでも女の子の体にしがみつくなんてすごく抵抗があったけど、でもこれしかないわけだし…観念するしかないか…
「では、失礼します…」
と、井本さんの腰の辺りに腕を回してしがみつく…すごく細いけど女の子特有の柔らかみを感じてしかもやっぱりすごくイイ匂いがする…
「…そんなんじゃ走ってる途中で振り落とされるよ?もっとぎゅーっとしっかり掴まって」
「は、はい…」
「あ、一応言っとくけど…さりげなくおっぱい触るのとかナシだからね?」
「さ、触りませんよ絶対!」
「ウソウソ!哲平はそんなこと絶対にしないって信じてるもん、ちょっとからかっただけだよ」
「…っ」
「まぁ冗談は置いといて、早速海にレッツらゴー!」
海に向けてバイクを走らせる
「どう哲平?初めてバイクに乗った感想は?」
「すごく速いです!後、風がすごいです!」
「だろー!?この風を感じられるからバイクって楽しいんだよ!哲平も免許取ったら?一緒にツーリングデート行こうよぉ!」
「それは魅力的ですけど、流石に自分で運転するのは怖いですってー!」
「大丈夫大丈夫!アタシも最初ビビり散らかしてたけどその内慣れるってー!」
と、そうこうしているうちに海へと到着した。
「海ーっ!」
「今日天気良くて良かったですね」
「だね!最高の海デート日和じゃん!」
「ですね、折角海に来るんなら水着でも買っておけばよかったな…」
「アタシはちゃんと持ってるよ!」
「えっ?どこに?」
「ここっ!」
と、おもむろに服を脱ぎだす井本さん…その下はなんと水着だった。
「なっ!?」
「じゃーん!家から水着着て来ちゃった!」
何ともセクシーな黒のビキニ…井本さんの大きな胸が強調されて思わず目が釘付けになってしまった。
「どう?セクシー?ん?」
「す、すごいです…」
「あー、今興奮したでしょ?哲平のえっち!」
「み、見せてきたのはそっちじゃないですか…」
「そりゃそうだけどさ、見るか見ないかはそっち次第じゃん?」
「そ、そりゃ見ちゃいますよ…僕だって健康な男なんですから、そんな魅力的な胸を見せられたら見ちゃうに決まってるじゃないですか…」
「だよねぇ、哲平だけは特別に“中の方”も見ていいよ♡」
「うぇっ!?」
「うっそぴょん!そんな簡単には見せないよーだ!べー!」
「…っ」
またしてもしてやられた…自分のスケベ心が憎い
「とりあえずあっち行こうよ!海の家とかあるかもよ?」
「そ、そうですね…」
とりあえず海の家で早めの昼食を食べ、ビーチを散歩したり浅瀬の方で足だけ水につけてみたりした
その時に井本さんにふざけて水をかけられて軽くびしょびしょになってしまった。
僕もお返しに水をかけたけど無論井本さんは水着なのでノーダメージ…ちょっと悔しい
「あー、遊んだ遊んだ!」
「疲れましたね…」
「そろそろ夕方になるし帰ろうか…」
「そうですね…」
「じゃあアタシは着換えに…あっ!」
「??、どうかしました?」
「…哲平、アタシ重大なことやらかしちゃった」
「えっ?」
「実は、ブラもパンツも持ってくるの忘れちゃった…」
「え、ええっ!?一大事じゃないですか!まさかそんな小学生のプールの授業あるあるみたいなことを…」
「あーん、どうしよう?このままじゃアタシ、ノーブラノーパンで帰ることになっちゃう…」
「え、えっと…どうしよう」
と、僕がオロオロと狼狽えていると
「ねぇ、お願いがあるんだけど…」
「はい?」
「どこかでさ、その…下着、買ってきてくんない?」
「えぇ!?ぼ、僕がですか!?」
「だってしょうがないじゃん…」
「そ、そりゃそうですけど…流石に僕が女物の下着を買うのはちょっと…」
「もうつべこべ言わないで買ってきてよ!アタシを痴女にする気!?」
「わ、分かりましたよ…い、一応希望とか」
「んー、なんでもいいよ!哲平のセンスに任す、ちなみにサイズはF70ね」
「は、はい!じゃあ行ってきます」
と、ダッシュで下着を買いに行く
数分後、何とか下着を手に入れて戻ってきた。
「おかえりー、どうだった?ちゃんと買えた?」
「はい…あー恥ずかしかった」
「んー、どれどれ?うわ、紫のブラとかめっちゃエロいじゃん!こんなのアタシに着せるつもりだったの~?エロっ」
「だ、だって…種類がありすぎてどれがいいのかイマイチよくわかんなかったですし…周囲の目線も気になったからあんまりじっくり選んでる暇もなくて、とりあえず直感で選んだやつを…」
「ふーん、まぁ元はと言えば下着忘れた私が悪いんだし、ここはおあいこってことで…」
「は、はぁ…」
「じゃ、アタシ着替えてくるね!」
ロッカーで着替えて戻ってくる井本さん
「お待たせ、じゃあ帰ろうか?」
「そ、そうですね…」
なんだか、自分が買った下着を今正に井本さんが着けているのだと思うととても変な感じだ。
「どしたの?あ、さてはアタシの下着姿想像して興奮してるとか?」
「し、してませんよ断じて!」
「嘘だぁ!バレバレなんだよ!哲平すごく分かりやすいから」
「…っ」
「なんならちょっとだけ見せてあげよっか?特別だよ?」
「も、もうその手には乗りませんよ…どうせまたからかっているんでしょう?」
「…もし、冗談じゃないって言ったら?」
「っ!?」
「プッ、やーい!ひっかかったぁ!またひっかかってやんの!プププ!」
「くぅ…」
「そんじゃまぁ、冗談はこれくらいにしてそろそろ帰りますかね?」
「あ、はい!」
・・・・・
夏休みもそろそろ終盤に差し掛かった頃、僕は井本さんに呼び出された。
呼び出された井本さんのアパートへ行ってみると…
「哲平!こっちこっち!」
「い、井本さん!?そのカッコ…」
井本さんは浴衣姿で僕のことを待っていた。
「どうしたんですかそれ?」
「へへ、大家さんが若い頃に着てた浴衣だって…今日の為に借りてきちゃった!」
「今日の為?」
「うん、これ一緒にやろうと思って…じゃんっ!」
と、ビニール袋から取り出したのは花火セットだった。
「わっ!花火!」
「そっ!この近くに花火してもいいよっていう公園あるからそこでしよ!」
「い、いいんですか?」
「うん!やっぱ夏の締め括りと言えば花火っしょ!」
ということで、公園へ移動し二人で花火を楽しむことに
「わぁ見て見て!すっごい綺麗!」
「わっ!ホントですね!ハハハ!」
「ねぇねぇ写真撮ろうよ!夏の思い出に!」
「あ、はい!じゃあ撮りますよ…」
スマホでツーショット写真を撮る
「上手く撮れたかな?」
「あ、バッチリじゃないですか!よく撮れてますよ」
「ウフフ、早速ロック画面にしちゃお♪」
…それからしばらく二人で花火をひとしきり満喫した。
「…もう終わっちゃった、もっと買ってくればよかった」
「でもこれでも十分楽しめましたよ、すごく楽しかったです…」
「うん!アタシも!また、来年もこうして二人で花火できるといいね!」
「来年、か…」
「…どう?あれからもう一ヶ月くらい経つけど、アタシのこと好きって思ってくれた?」
「…正直言うとまだ分かりません、けど井本さんと一緒に過ごすのとても楽しいですし井本さんのことすごく大切に思っています…でも、まだ自分の中でもハッキリとしなくて」
「哲平…」
「ごめんなさい、いつまでも悩んでばかりの優柔不断で…不安にさせてますよね?きっと…」
「ううん、アタシは哲平のこと信じてるから平気だよ?残り一ヶ月ちょい…絶対に好きって言わせてみせるんだから!まだ諦めるつもりないからね!」
「…井本さん」
【夏休み明け】
「おはよう楢崎!」
「杉崎君、おはよう…随分日に焼けたね」
「おう!夏休みは友達大勢誘ってキャンプとかバーベキューとかで盛り上がって思い切りエンジョイしたからさ!お前も来ればよかったのに、めっちゃ楽しかったぜ?」
「僕は、あんまり大勢でワイワイ騒いだりするの苦手っていうか…」
「あーそっか、そういうタイプだったもんな…ところでさ、例のヤンキー…じゃなかった、井本さんだっけ?彼女とはなんか進展あった?」
「………」
「…どったの?急に難しい顔して…なんかあった?」
「…あのさ、ちょっと相談したいことがあるんだけど?いい?」
「おうよ!何でも相談に乗ってやるぜ!特に恋愛関係の悩みなら任せな!一番得意だから!」
「心強いな…」
…大学の講義の後、僕は杉崎君に井本さんとのことについて相談した。
「…と、いうわけなんだ」
「なるほどね、好きって気持ちがどういうことか分からないときたか…」
「うん、僕今まで生きてきて恋愛なんてまともにしたことないから全然分かんなくて…どうしたらいいのか全然分かんないよ…」
「考えすぎなんじゃね?恋ってそんな頭でっかちになってあれこれ考えるもんと違うって思うけどな俺は」
「じゃあ聞くけどさ、恋ってなんなの?好きってどういう気持ちのことをいうの?教えてよ…」
「んー、まぁ要するにさ…その人のことを想うだけでこう、胸の奥が熱くなったり苦しくなったり…四六時中その人のことしか考えられなくなったりとか…もう誰にも渡したくないなって思ったり、色々あるんだよ…正解や不正解なんてない、要はお前がどうしたいか、どうなりたいか…最後に決められるのは自分自身しかいないんだよ…」
「自分自身だけ…」
「まぁ、俺自身エラソーなこと言って合コンで十連敗の記録更新中なんだけどねー」
「…フフ、そんな悲しいことそんなテンションで言うかね普通?」
「まぁね!俺の人生のモットーは『めげない・くじけない・諦めない』!だからこそ俺は、どんなにフラれようが関係ない!何度だって立ち直ってやる!人は俺を、『フェニックス・杉崎』とそう呼ぶ!」
「ア、アハハハ…」
「まぁ参考になったかは分かんないけどさ、とにかく頑張れよ!もしダメだった時は、お前の気が済むまで一緒に泣きながら酒でも飲んで忘れちまおうぜ!」
「…ありがとう杉崎君、君に相談して少し気分が楽になった」
「おうよ!また困ったら何でも相談しな!マイフレンド!」
「…ありがとう!」
残り一ヶ月を切り、いつにも増して井本さんは僕に積極的にアピールしてくるようになった。
毎日駅前に待ち伏せしては僕に手作りのお弁当を持ってきてくれたり、毎日の連絡のやりとりでも毎回毎回“好き”と連発してくる。
休日にデートをする時もやたらと手を繋ぎたがったり腕を組んできたりとスキンシップもやたらと多くなってきた。
彼女も僕のことを思って必死に頑張っているんだ…僕もいい加減に、自分の気持ちをハッキリさせないといけないな…そう決心したのだった。
そう決心するや否や、まずは自分自身から変わろうと思い体を鍛え始めた
井本さんはかつて最強と謳われたヤンキーだった、ならそんな彼女の隣にいても恥ずかしくないように少しでも強くなろうと必死に努力した、何よりも強くなればきっと自分に自信が持てるだろうとそう確信した。
そして来る日も来る日も体を鍛え続けて、いよいよ明日は約束の二ヶ月目…もう自分の中でも答えはハッキリと出ている、明日でいよいよ…全てが決まる
【翌日】
僕達は初めてデートした時に訪れたカフェで待ち合わせた
「今日は来てくれてありがとうございます」
「…うん、今日が約束の日だもんね」
「うん、それで…僕の方から井本さんに伝えたいことがあって」
「………」
「長いこと待たせてごめんなさい、漸く僕の中で覚悟が決まりました…井本さん、僕は」
「待って!」
「??」
僕が喋っているにも関わらず待ったをかける井本さん
「…ごめんね、ちょっと待って」
「えっ?」
「実はその、とても言いづらいんだけどさ…アタシ達、もう終わりにしない?」
「えっ…」
突然彼女から予想だにしていない言葉が聞こえて思考が追い付かなくなる
「…ホントにゴメン、アタシ達もう会わない方がいいよ」
「そ、そんな…なんで?」
「…理由は言えない、これ以上哲平には迷惑はかけられない…それだけは言わせて」
「そんな、待ってよ!いきなりそんなこと言われて納得なんて…」
「分かってる!でも、今はこうするしかないの!これ以上アタシと一緒にいたら…哲平にも迷惑が」
「どういうこと?一体何が…」
「そういうことだから、もう会うのはこれっきりにしよう…サヨナラ」
「ちょ、待っ…井本さん!」
僕に別れを告げると足早にその場を去っていった…
「井本さん、なんで…」
あまりに悲しみが深すぎて涙すら出てこず、現状を受け入れきれず只々呆然とするしかできなかった…。
第三章
突然井本さんから別れを告げられて早一週間、僕はあれからすっかり憔悴してしまい心に大きな穴がぽっかり開いてしまった。
気づけば井本さんとの今までのメッセージのやりとりを読み返していたり、二人で撮った思い出の写真をずっと眺めていたり、次第に悲しくなって一人泣いた…こんなに涙が枯れるほど泣いたことなんて生まれて初めてだ…井本さんのことを思えば思うほどに切なくなって胸が張り裂けそうになり、やっぱり僕はもうとっくの昔に井本さんのことを好きになっていたんだ
情けない、今更どんなに想ったところでもう井本さんには会えないのに…こんなことになるくらいなら好きになんてなりたくなかった…そう思うと余計に悲しくなってしまい次から次へと涙が溢れ出てきて止まらなくなってしまった。
そんな調子で僕は大学へも行かなくなり、一歩も外に出ることもなく…日がな一日呆然としているだけだった。
そんな時だった…そんな僕を心配して杉崎君が家に訪ねてきてくれた
「おーい、楢崎ー!生きてるかー?」
「…はい、どちらさま?」
「おわっ!?お前大丈夫!?目ぇクマすごっ!顔色悪っ!」
「…うん、ここ数日ロクに眠れなくて何食べても体が受け付けなくて食べても戻しちゃって、最近はもうほとんど何も食べてない…」
「大丈夫かよ…体、どっか悪いのか?なんなら病院に…」
「大丈夫、ホントに大丈夫だから…」
その瞬間、僕は限界を迎えて気を失って倒れてしまった
「ちょ、おい!楢崎!しっかりしろ!き、救急車!」
杉崎君の呼んだ救急車に運ばれて僕は病院へ救急搬送されていく
「…ストレスで胃が弱っているようですね、でもこの症状であれば二、三日入院して安静にしていればもう大丈夫でしょう」
「そうですか、ありがとうございます…」
こうして僕は入院することになった…
「…ごめんね、迷惑かけて」
「いいってそんな、ダチのピンチに駆けつけない奴があるかよ!」
「…ありがとう」
「まぁもう野暮なことは聞かないよ…しばらく安静にするんだな」
「…うん」
「じゃ、俺はこれでお暇させてもらうかな…」
…三日後、晴れて退院することができた
薬のおかげで少しだけ胃の調子も元に戻り、少しだけど眠れるようになり体の調子も幾分か戻ってきた。
そんな時、突然井本さんから電話があった
「も、もしもし?」
『もしもし…哲平、その…久しぶりだね』
「うん、どうかしたんですか?」
『うん、哲平のお友達…杉崎君、だっけ?彼から哲平のこと聞いて…ごめんね、アタシのせいだよね?』
「いえ、そんなこと…僕のメンタルがゴミカスレベルだったからこうなっただけで、井本さんは毛ほども悪くないです」
『それでも、やっぱり謝りたいの…今回のこともそうだけど、自分の都合ばっか勝手に押しつけて一方的に哲平のことフッて傷つけたことも…』
「井本さん…」
『ねぇ、これから会えない?』
「ええ、構いませんよ?これから僕も家に到着するところなんで…」
『そっか、なら今からそっち行くね!待ってて』
そう言って電話が切れる
…家に到着して井本さんを待つこと数分、インターホンがなって出迎える
「哲平、久しぶり…」
「い、井本さん…」
久しぶりに見た井本さんの顔を見て僕は思わず驚愕した
何故なら井本さんは右頬にガーゼを貼り付けており、体もそこら中痣などができていた。
「その怪我、どうしたんですか?」
「これから説明する、上がってもいい?」
「ええ、どうぞ?」
井本さんを部屋に招き入れる、そこで彼女から事情を聞く
…実は少し前から、井本さんは何者かにつけ狙われるようになったという
その井本さんをつけ狙っていたのはかつて井本さんと同じく横浜を拠点として活動していた暴走族チーム『横浜狂犬連合』という奴ららしい。
狂犬連合はかつて、横浜最恐のヤンキーと謳われていた井本さんに勝負を挑み、完膚なきまでに叩きのめされ一度壊滅させられたとの事。
あれから三年が経って、新たな総長を筆頭にチームは再結成され井本さんに復讐せんとしてあちこち探し回っていたらしい。
そのことを知った井本さんは僕がトラブルに巻き込まれることを恐れてわざと僕のことをつけ離したとの事。
「…もしかして、その怪我もその人達に?」
「うん、不意打ちくらって思わず油断したけど安心して…全員返り討ちにしたから」
「そ、そうですか…」
「それよりも、哲平に余計な被害がいかないようにこうしたつもりだったのに…まさかアタシのせいで、ごめん…ホンっトにごめんなさい!!う、うえぇぇぇん!!」
と、号泣しながら僕に謝り倒す井本さん
「い、井本さん!な、泣かないで!僕のことならもう大丈夫ですから!ねっ?」
「哲平ぃ…」
涙でぐしゃぐしゃになりながら僕のことを抱き締める井本さん
「い、井本さん…」
「ごめんね、しばらくこのままでいさせて?」
「は、はい…」
言われるがままに彼女の気分が落ち着くまで胸を貸し続ける。
「…ありがと、ちょっと落ち着いた」
「それは良かった…」
「…やっぱり、このまま哲平とお別れするなんて嫌だよ」
「井本さん…」
「安心して、明日…全部決着つけてくるから!」
「決着って、まさか…」
「大丈夫、危ないことはしない…ここは大人として穏便に話し合いをしにいくだけだから…哲平は何も心配しないで…」
「井本さん…」
「ホントに大丈夫だから!全部アタシに任せて…」
「………」
・・・・・
【翌日】
(…井本さん、大丈夫かな?とてつもなく嫌な予感しかしない…)
と、一人井本さんの心配をしていた時だった。
“ヴーン、ヴーン…”
「電話…杉崎君からだ、もしもし?」
『あ、もしもし!?楢崎か?』
「うん、どうしたの?」
『どうしたもこうしたも、ちょっとヤバい状況みたいだぞ…実はさ、俺のダチが特攻服姿でバイクかっ飛ばしてどこかに行こうとしている井本さんを偶然見かけたって言うからさぁ、お前なんか知らない?』
「特攻服って…まさか!?」
『おい、楢崎?』
「知らせてくれてありがとう!その後、井本さんがどこに向かったか分かる?」
『ああ任せろ!今ダチに後追ってもらう!』
(…井本さん、お願いだから早まった真似はしないで!)
・・・・・
【都内某所 廃倉庫】
「…よぉ、待たせたなクズども」
「これはこれは、まさか本当に来るなんてなぁ…ウチの舎弟から果たし状受け取った時は冗談かと思ったぜ…」
「御託はいい…さっさと来いよ、お前ら全員叩きのめして二度とこの街に立ち入りたくなくしてやる!」
「怖い怖い…けど、流石のハマの女帝と言えどこの人数相手に単騎でやろうなんて、命知らずにもほどがあるぜ」
「言ってろ、ちなみに最初にアンタらのチーム潰した時はもっといたかな?」
「フン、んなもん昔の話だろ?もうアンタが引退してから何年経ってると思ってんだ?のうのうと平和ボケして生きてきたアンタなんかに負けるわけねぇだろ!」
「…遺言はそれだけか?話は終いだ、アタシを本気で怒らせたこと後悔しろや!」
「そうかい…なら遠慮はいらねぇわな、おい!お前ら!やっちまえ!」
「おうっ!!」
一斉に井本さんに襲いかかる男達、井本さんはそんな男達などものともせず破竹の勢いで薙ぎ倒していく
そして、ものの数十分で全員制圧してしまった。
「マ、マジかよ…バケモンかよ」
「…ハァ、ハァ、後はテメェだけだよ、ハァ、ハァ」
「ハハハ、つってももう息も絶え絶えじゃねぇか…これなら俺一人でも!」
と、ポケットからバタフライナイフを取り出す総長
「なんだよ?手負いの女一人相手にそんなもん使わないと喧嘩できねぇの?ダッサ…」
「う、うるせぇ!流石のお前でも刃物相手じゃどうにもできないだろ!コイツでアンタのその無駄に綺麗なツラズタズタにしてやるよ!」
「やってみろよカスが!」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
「あぁん?」
「…えっ!?て、哲平!?」
僕は自転車をかっ飛ばして颯爽と廃倉庫へ登場した。
「井本さん!無事ですか!?」
「あ、ああ…アタシなら大丈夫だけど、てかなんでここが?」
「んなこと今はどうでもいいでしょう!?この有様、やっぱり喧嘩したんですね?」
「…ああ、ゴメン!やっぱりコイツら黙らせるにはもうこれしかなくて…」
「もう無茶なことはやめてくださいよ!それでもしも井本さんの身に何かあったらどうするつもりですか!?」
「そ、それは…」
「もっと自分を大切にしてくださいよ!そりゃ井本さんは昔は横浜最恐のヤンキーだったかもしれませんけど…けど今は、すっごく美人だけどすごく可愛いとこもあってすっごく素敵な女の子で、僕の…僕の“愛しい大切な人”なんです!!」
「っ!?」
「…待たせてすみません、僕やっと分かったんです…ホントはあの時伝えようと思ってましたけど、突然別れを告げられて言いそびれてしまいました」
「哲平ぇ…」
僕の告白を聞いて泣きそうな顔になる井本さん
「はいはい、お涙頂戴のラブコメはそのへんにしてくれませんかぁ?」
「!?」
「ったく、長々と見せつけてくれやがって…色ボケも大概にしろっての」
「なんだとテメェ…」
「井本さん下がって、ここは僕が…」
「哲平!?ちょ、マジで言ってんの!?」
「おいナメてんのかテメェ?お前みたいな如何にもなパンピーなんかにやれるのかよ?あぁ?」
「そ、そうだよやめて哲平!」
「見くびらないでくださいよ、こちとらこの一ヶ月…死ぬ思いで体を鍛え続けてきたんです、井本さんに相応しく隣にいても恥ずかしくないようになる為に!」
「フッ、そうかよ…ならかかってこいよドサンピンが!コイツの餌食にしてやる!」
「哲平、マジでヤバいって…あんなので刺されたら痛いどころの話じゃないよ」
「大丈夫、僕を信じて…井本さんは、僕が守るから!」
前に出て拳を構える
「へっ!カッコだけはいっちょ前だな!死んどけオラァ!」
ナイフを手に襲い掛かる総長、しかし僕はその手を避けてナイフを持った右腕を掴み思い切り膝蹴りを入れた。
「かはぁっ!」
ナイフを落とす総長、蹴られた肘を押さえてうずくまる
「うおぉぉぉぉ!!」
僕はその怯んだ隙に渾身の全力パンチを顔面にお見舞いする
「ぶへぇあっ!」
無様な断末魔を上げて軽く吹っ飛びそのまま伸びてしまった。
「…あ、あがが」
「…うひぃ、イッタ!人殴るのってこんなに痛かったんだ、イテテ…」
「哲平!」
と、後ろから抱きつく井本さん
「おわっ!?」
「やったじゃん!すごいよ!パンチ一発で倒しちゃうなんて!まぁコイツが特別雑魚だっただけかもしんないけど…それでもすごいよ!カッコイイ!惚れ直した!」
「…ハハハ、ありがとうございます…と、そんなことよりも井本さん、改めて聞いてください…」
「…う、うん」
「僕は、あなたのことが好きです…元最恐のヤンキーだって構いません!いつも綺麗で可愛くて、酔っ払うとすごい甘えてきて、時々僕のことをからかって楽しむようなちょっと困ったとこも全部ひっくるめて好きです!どうか、正式に僕の彼女になってください!」
「…哲平、うぅ…嬉しいよぉ~!わぁん!マジで生きてて良かった!哲平大好き!愛してる!もう絶対に離れない!ずっと一緒にいる!」
「…井本さん、ううん、一華さん…僕もずっと一緒にいたいです!」
…こうして、僕と一華さんは晴れて正式に付き合うことになった。
ちなみに狂犬連合の人達は、僕達に恐れをなしたのか二度と僕達の前に現れようとしなかった…。
【一華さんの部屋】
「…はぁ、幸せ♡こうなる日をずっと夢見てた」
「僕も嬉しいです…」
「ねぇ、チューしよ?もう恋人なんだから遠慮なんていらないよね?」
「ええ、勿論…」
と、一華さんとキスをした
付き合う前にも何回かしたけど、これが恋人としての初めてのキス…なんだか少し興奮した。
「んぱぁ、やっぱ何回してもドキドキするね…」
「はい…ドキドキが、止まりません」
「…じゃあ、今日は『チューの先』までしてみない?」
「い、いいんですか?」
「いいよ…アタシの初めて、哲平にあげる!その代わり、哲平の初めてもアタシに頂戴!」
「…全部捧げますよ、キスも…その先のことも全部!一華さんにだけ全て捧げます」
「じゃあ、シよ?」
…こうして、本当の意味で一華さんと身も心も結ばれて無事に大人の階段を上ることができたのだった。
「…どう、でしたか?ちゃんとできてましたか?」
「うん、最初はやっぱすっごく痛かったけど…気持ち良かったよ♡」
「よ、よかった…」
「…ねぇ、もう一回シたいなぁ」
「が、頑張ります…」
…こうして、この後朝になるまで互いを激しく求め合ったのだった。
終章
【七年後】
あれから僕達は大学を卒業後、数年の交際期間を経て晴れて結婚…順風満帆で幸せな日々を送っている
「ねぇ哲平、ちょっと嬉しいニュースがあるんだけど…聞いてくれる?」
「ん?」
「…赤ちゃん、できたみたい」
「えっ…ホ、ホントに?」
「うん、今妊娠三ヶ月だって…来年にはアタシ達、パパとママになるんだよ!」
「…そっか、そっかそっか…うぅ」
「もう泣かないでよ、しっかりしてよパパさん!」
「だって、嬉しいんだもん…こんなに嬉しいもんなんだ」
「フフフ、きっとイイ子に育つよ~?もし男の子だったら、哲平似の強くて優しい男の子かな?」
「もし女の子だったら、一華さん似の可愛い女の子になるだろうね」
「フフフ、どんな子が産まれてくるのかな?すっごく楽しみ!早く君に会いたいよぉ~!」
「僕も、早く会いたいな…パパもママも待ってるからね!元気に産まれてくるんだよ~!」
…こうして、紆余曲折ありながらもこれから僕達は幸せな家庭を築いていくのでした。
Fin.