表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2話 笑えないドッキリ

—2—


 約1ヶ月前。

 仕事の昼休憩中、たまにはパスタでも食べようかと職場から少し離れた人気のパスタ専門店まで車を走らせたオレは、最悪な光景を目にして店の外で固まった。


 混み具合を確認するためにガラス越しから店内を覗くと、そこにはひなと知らない男が二人で楽しそうに話をしていたのだ。


 ただ話をしていただけなら男友達だと思えたかもしれないが、ひなが男に自分のパスタを食べさせた瞬間、オレの頭に引っ掛かりが生まれた。


 ひなはオレに隠れて他の男と連絡を取り、関係を深めているのではないか、と。


 動画配信サイトに二人のチャンネルを持っているため、撮影の都合上お互いのスケジュールは把握している。

 ひなはオレが仕事をしている間に裏であの男と密会しているのではないか。


 一度そう思ってしまったら真実を確かめずにはいられない。


 オレは、撮影の合間やひながトイレに行ったタイミングを利用し、ひなのスマホをこっそり確認することにした。

 人のスマホを勝手に見るのは気が引けたが、事態が事態なだけにオレの手は止まらなかった。


 結果、ひなは男と連絡を取っていた。

 こっそり会う約束までしていた。

 オレが思っていた以上に関係は深まっているみたいだった。


 オレが汗水垂らして仕事をしている間にひなは。

 初めのうちは、ひなに対しての怒りが強かったが、次第にその怒りはひなにちょっかいをかけてきた男に向いた。


 直接会ってどういう目的でひなに近づいたのか。いつから連絡を取っていたのか。

 聞きたいことは山ほどある。


 オレはひなのスマホからひなのフリをして男にメッセージを送り、会う約束を取り付けた。

 もちろんひなにバレないようにオレと男とのやり取りは全て消去した。


 その約束の日こそひなが疑っていた昨日なのだ。


 家に帰ってくるなり「昨日のあれ、覚えてる?」なんて聞かれた時には心臓が飛び出るかと思った。


 ひなには事前に飲み会に行くと話していたから上手く誤魔化すことができたけど。

 やっぱり予防線を張っておいて正解だったな。


 だが、いつまでも隠すことはできない。


 オレはひなに隠し事はしない。

 だから今全部正直に話す。


「ねぇ、ひな、1ヶ月前のあれ覚えてる?」


「1ヶ月前?」


 とぼけても無駄だ。

 それとも思い当たる節が多すぎてどのことを言っているのかわからないのか?


「ひな、忘れたとは言わせないよ」


 静まる室内。

 聞こえてくるのはつけっぱなしにしていたテレビの音だけだ。


『次のニュースです。宮城県名取市の道路で歩行者が車から降りてきた男に突然刃物で切りつけられるという事件が発生しました。現場近くの防犯カメラには犯人の車と思われる黒い車が走り去っていく様子が映っていました』


「アユムくん、この車って……」


 全てを理解したのかひなの声が震えている。

 オレはテーブルに置いてあったカメラを手に取って電源を入れた。

 レンズをひなに向ける。


「テッテレー!!!」


「えっ?」


「というわけで、彼女の浮気相手を包丁で切りつけたら彼女はどんな反応をするのか? というドッキリでした!!」


 ひなの顔がわかりやすく歪む。

 今にも泣き出しそうだ。


「それって、ドッキリでもなんでもないじゃん」


「ひながいけないんだよ。オレに内緒で他の男作ってたんだから」


 オレは台所から包丁を持ってくると先端をひなに向けた。


「カップルチャンネルで登録者20万人もいるんだからその自覚を持たないと。どこで誰が見てるかわからないだろ? そうじゃなくても人としてやって良いことと悪いことがあるよな」


 あれ?

 自分で言っていて矛盾していることに気がついた。

 それでももう走り始めてしまったら誰にも止めることはできない。


「今まで信じてたのに騙されたオレの心の痛みを受けてみろ!」


「待って! 待ってアユムくん!!」


 ひなが椅子に敷いていたクッションを盾にして包丁から身を守る。

 クッションが裂け、綿が飛び出して地面に落ちる。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 荒くなった呼吸を整えながらカメラのレンズを自分に向ける。


「今回の動画はこれで終わります。ご視聴ありがとうございました」


 雑に動画を締めると、カメラの電源を切ってソファーに投げつけた。


「幸せになるドッキリかー」


 オレの独り言が静まった室内に吸い込まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ