<楠木書記視点> 私立桜町第一高校その4
四番、椎名瑞夏です。
かなり文が支離滅裂ですが、どうかお付き合いください。
これでも、精一杯頑張りました!
「・・・」
見事なまでに蹴破られたドアを見つめる少女。
その整った眉が、一瞬だけ訝しげに顰められる。
しかし、心に浮かんだ疑問を深く追求することを諦めたのか、彼女は地面に伏したドアを何の躊躇いもなく足蹴にした。
めきり。
ガラスが異様な音を立てたが、それも気にしない。
何故ならば、彼女は現在猛烈に機嫌が悪いのである。
原因はー・・・。
(あんのくそ兄が・・・っ)
黒檀のような艶めいた黒髪を、緩く二つに束ねているのは真紅のリボン。
大きな瞳は、日本人には珍しく澄んだ茶色に染まっている。
華奢な身体を持つ彼女は、そう。
万人の認めるであろう、超のつく美少女だった。
そんな少女が纏っているのは、勿論ここ桜町第一高校の伝統あるセーラー服。
・・・ではない。
黒を基調に、ところどころ赤の装飾が施されたそれは、いわゆる改造制服というもので。
さらに改造された制服は、その特徴的な造りと華美な飾りのせいで、ちょっと危ない趣味をしたオヤジが泣いて喜びそうなゴスロリとなっていた。
おまけに。
彼女によく似合っている。
「失礼。書記の二年三組、楠木都古よ」
自己紹介をさらりとこなすと、少女こと都古は肩に掛かった髪を払いのけた。
その仕草と声につられて、一足先に部屋にいた生徒会の面々が顔を上げる。
そして、表情を曖昧に困惑させた。
まあ、理由は言うまでも無いが・・・。
「私は会長の釘宮蓮だよ。よろしく」
スラリとした体型の美少女が、そう言って薄く笑う。
これが、噂の一年会長か。
上から下まで満遍なく目を通すと、都古は心の中で頷いた。
なるほど、美人だ。
マニフェストが大半の生徒の心を掴んだと聞いたが、これは容姿で投票した男子生徒も少なくはないだろう。
納得する都古。
ちなみに彼女は不本意ながら、一部の男子生徒の支持を圧倒的に受けている。
「僕は副会長の真崎蒼空です。初めまして」
これもなかなか綺麗な顔じゃないの。
顔だけなら兄に負けないわね。
握手を求め伸びてきた手を払いのけながら、都古は憎い兄の顔を思い浮かべる。
無意識に、額に青筋が浮いた。
「俺は、書記の鈴木太郎。よろ・・・しく」
普通。
彼女の頭に鈴木は普通とインプットされた。
「ところで、楠木書記。その格好は一体?」
一通り紹介が終わったところで、蓮会長が咳払いをして、全員の疑問を口にした。
蓮はひらひらのレース付きスカートを指差す。
残る二人の視線も、都古の制服に向けられている。
「兄の嫌がらせ。・・・あ、ドア壊れてるわね」
単純明快に答えると、都古はあっさりと話題を摩り替えようとした。
「それは私が蹴破った。手が塞がっていたからね。それより、嫌がらせというのは・・・?」
無論、こんな面白そうな匂いのする話題を蓮がおめおめと見送るはずもなく、話は戻された。
「説明、すべき?」
「はい。かなり気になるところですからね」
あからさまに迷惑の表情をした都古だが、そんな逃げの通用する空間ではない。
それを知ってか知らぬか、都古はため息をつくと、潔く重い口を開いた。
~回想~
軽快な目覚ましのベル音に、都古はまぶたを持ち上げた。
典型的な低血圧である都古は、いらいらと髪を掻き毟りながらベッドから這い出る。
今日は先日の生徒会選挙で当選した、生徒会メンバーとの顔合わせの日だ。
面倒くさいが、サボるわけにはいかないだろう。
「ふわぁっ。着替えるかな」
盛大に欠伸をし、都古は昨晩椅子に引っ掛けたはずのセーラー服に手を伸ばした。
「・・・何、これ」
疑問符さえ付けず、都古は手に引っかかったモノを目の前に掲げた。
黒い生地に、赤のリボン。
レースにフリルは、これでもかという程ごってりと。
それはまさしく・・・ゴスロリ。
「なんで、ここにこんな服があるの?」
あたしにそんな趣味はないはず・・・と朝なのでイマイチ思考が上手く巡らない都古は考え込む。
その時、ひらりと服から紙切れが舞い落ちた。
『拝啓 愛しいマイスイートシスターへ
お早う。今日は生徒会の初顔合わせと聞いたよ。僕も経験したから分かるけど、第一印象はこの上なく大切だからね。都古の愛らしさを存分にメンバーの脳裏に焼き付けてやるんだ!そのための協力なら、僕は惜しまないよ。まず手始めに、君の制服を改造しておいた。お寝坊な都古のことだから、今朝も登校ぎりぎりに起きたんだろう?それじゃあ、もう制服を元に戻すのは間に合わないね。諦めてそのゴシックなロリロリ服を着ることだ!そして、兄さんに写真を送っておくれ!!!
ニューヨークの空に下にいるブラザーより』
しーん。
まさに、あたしの話が終わった部屋はこんな空気だった。
なんと返事をすべきなのだろうか。
そんな思いが、各々の頭によぎっているのが目に見える。
「あの馬鹿兄の言うとおり、戻す時間なんか到底無かったから、このまま来たってわけ。本当、はた迷惑な兄よね。ま、父様が学校に10億位寄付してるから、先生は誰もあたしのこと注意なんて出来ないしね」
吐き捨てるように、忌々しげに呟く。
「・・・・・・」
更に、空気が濁っていってる気がする。
あたしの天敵である実の兄、楠木秀一。
眉目秀麗。
頭脳明晰。
運動神経抜群。
おまけに明朗快活。
あいつは、彼を憎んでも憎みきれないほど憎んでるあたしから見ても、非の打ち所の無い完璧な奴だ。
そんな兄なので、勿論高校在籍時は生徒会に属していた。
それも、会長として。
本来ならそんな雑用係みたいな生徒会なんて、まっぴらごめんなあたしが、選挙に出た訳。
兄に負けたくないから。
きゅっと唇を噛み締めて、あたしは拳を握った。
もっと頑張らなくちゃ。
兄を抜かなきゃいけない。
そうしなきゃ・・・。
父様も母様も、あたしを見てなんかくれない。
もう一度、『都古ちゃん』。
そう呼んで欲しいのなら、あたしは・・・。
「え、え-と。そのピアスもお兄さんからの贈り物?」
空気に耐えかねたのか、鈴木太郎と名乗ったもう一人の書記が尋ねてきた。
無意識に、あたしは左耳に手をやる。
冷たくて、暖かい感触。
蘇るのは悲しい過去の記憶と、ほんのりと優しい思い出。
珍しく、あたしは自然に微笑えていたと思う。
「ううん、違う。大切な人からの、プレゼント」
壊れたドアの向こうから、新たな足音が響いてくる。
どうやら、最後のメンバーのお出ましのよう。
次の作者様は汐嵐さんです。
すさまじいキラーパス、すみません。
もう、本当にごめんなさい。
あと、Mrあいうさん、面倒おかけしました。