<会長視点> あまりに過激な鬼ごっこ
どうも、Mr.あいうです。
何かやたらわかりにくい設定ですが、簡単に言うと生徒会メンバーが何の罪もない生徒達を追いかける話です。
というわけで、欲望渦巻く鬼ごっこ編。スタートです。
絶叫が、名もない山に響いた。
腹部を赤く染めた少年がちに倒れ付すのと、その腹から彼女が手を引き抜くのはほぼ同時。
だが、それも地に倒れ付す少年少女がまた一人増えただけの事。
両手を真っ赤に染めた彼女は先ほど狩り終えた獲物に対して何の感慨も見せず、貪欲に次の獲物を探し始めた。
その姿、まるで鬼神。
「みぃぃ~つけたぁ~~………」
やがて、その双眸が次の獲物を映し出す。
殺し屋の笑顔を浮かべた彼女は獣の如く地面を蹴り上げ、一瞬で間合いを詰める。
その哀れな獲物は、自分の最後の瞬間までその忍び寄る影に気づく事が出来なかった。
そして、気づいたときには自分の腹は赤く染まり、もう戦える状況ではなくなっていた。
そんな状況の中彼は、自分を狩った狩人に最後の言葉を残す。
「なあ、なんでだよ会長さん………、生徒の為の生徒会じゃ、なかったのかよ…………………」
しかし、会長と呼ばれたその狩人はただ単調に、その惨劇の理由を語る。
それは、彼にとって到底納得できる理由ではなかったのだが。
「ん?暑かったからだよ♪」
そういうと、また次の獲物を探し始める。
その両手から、赤い液体を滴らせながら………………
うだるような暑さにもようやく慣れてきたかいややっぱ暑いわという7月の中ごろ。
今日も太陽は飽きずに健全な現代っ子である桜町第一高校の生徒達の不快指数を上げまくる。
しかし、マンモス校である桜町第一高校全校生徒総勢1027名が一つの所へ集まっていて、しかもその全員が真っ白な服を着ているとというのは、それだけで絵になった。
ここは桜町第一高校がちょくちょく遠足などでお世話になっているさほど遠くない小さな山の広場。
正確には山と言うほどの高さもなく、決められた名前さえないような小さな丘のようなものだったが、その山は高校生の微妙なネーミングセンスによって『NHK山』と呼ばれていた。
ようは、高校生になってまで遠足も山もかったるい。ということなのだが。
しかし、今日の彼らは何処か希望に満ち溢れた顔をしていた。
そして、彼らが注目しているのは、一人の少女。
高校一年生ながらすでに全校生徒全員が顔と名前と性格を知っているという超有名人。
桜町第一高校生徒会会長、釘宮 蓮その人だった。
「クラス対抗、学年対抗、部活対抗鬼ごっこだよ!」
と、教頭先生のいつもの天気から始まり教訓に終わるワンパターン挨拶と、学校名物校長先生の今日の名言(ちなみに今日は『人生の意味を考える高校生とか寒いわ!知った気になるな若造が!』だった)の後に時間をもらった私は意気揚々とそう告げる。
と、同時にあちこちから歓声が上がる。
うん、うちの生徒会の会議もこうあって欲しいものだ。
しばしの憂鬱に浸ってから再び演説を開始する。
「ルールとチーム分けは昨日の全校集会で話した通りだよ!簡単に言えばくじで引いてもらった半数の人が鬼、それ以外が逃げる人ね!鬼は両手を黒いペンキで塗って、そのペンキが配った白い服についてしまったらアウト!捕まえた鬼と捕まった人はここに来て手続きね。範囲はこの山全体だよ。んで、約束どおり最終的に鬼じゃなかった人間が所属している部活の部費と、クラスや学年の為の文化祭の予算はアップするので、来るべき文化祭の準備とか自分の快適な学園生活のために頑張ってね♪」
ウオォォォ~と、歓声がさらにヒートアップする。
うん、これこそ演説の醍醐味。生徒会のメンバーにも見習って欲しいものだ。
そして、最後に小さく付け加える。
「で、私達生徒会メンバーと先生は『ジョーカー』として参加するよ♪赤いペンキの私達に捕まったら即脱落、当然予算の権利も剥奪!でもまあおまけみたいな先生も参加した~いと言う事で出来たルールみたいなものだから気にしないで。というわけで頑張って私達からも逃げてね~、それでは皆さん。リアル鬼ごっこ始まりました~!」
その何処かで聞いたような掛け声と共に逃げる人達が一斉に四方へ散る。
鬼の行動開始は五分後。私達ジョーカーの行動開始はそのさらに五分後だ。
やがて、鬼のくじを引いた不幸な少年少女達が、黒い速乾性ゼロのまるで乾かないペンキを手にベタリとつけると普段の授業を聞く三倍の真剣さで飛び出していく。
残ったのが先生達と私達生徒会メンバーだけになったところで私達ジョーカーの作戦会議の始まりだ。
「さて、俺達生徒会にとってはこの『ジョーカーシステム』こそが最大の目的だ、説明してみろ、ポチ」
いつもより数倍真面目な二宮先生が鈴木君、いやコードネームポチに質問する。
もうポチに散々突っ込んだ後の鈴木君は何も言わずにおとなしく質問に答える。
「はい、これは予算アップの行事などではなく、このジョーカーシステムを使い生徒からなるべく不平不満が出ないように予算を削る学校の経営をかけた一大プロジェクトなのであります」
「そうだ!釘宮がそうやって教頭を説得したからこそこの行事があると言っていい。そして、このプログラムにおける我々の報酬とはなんだ!ツンデレ、ツンデレ!ツンデレェ!………天然」
ツンデレこと楠木さんは最後まで無視。
先生も諦めて天然こと涼太に話を振った。
「え?おれっすか?………えーと、生徒会室の扉が直りそして待望のエアコンがつきます。そして先生方には特別ボーナス」
「そうだ!正直俺は特別ボーナスが欲しい!その為には君達の力が必要なんだ!見ろ!」
そうして、先生は指で他の先生方を指した。
理科の新田智久先生が前髪を気にしており、国語の相沢綾香先生はなんかお茶を他の先生方に勧めてる。
そのほかの先生は、スクワットをして筋肉を鍛えていたり、タバコを吸っていたり、立ったまま寝ていたり色々だ。
「見たか!そしてどう思ったハンサム!」
ハンサムこと真崎君はいつものスマイルで答える。
「体育の番先生以外は頼りにならなさそうですね」
「そうだろう!だからこそ、君達には全力で事に当たってもらいたいのだ、トランシーバーは持ったか、よし。メガネ、号令!」
なんか先生のキャラまで変わってしまっている。
仕方がないからメガネこと私は号令をかけた。
「うん、じゃあ生徒会。全力で駈けずりまわろ~!」
その掛け声と同時に鬼が行ってしまってから五分が過ぎた。
赤いペンキで両手を濡らし、各人それぞれの場所に散って行った。
そして、冒頭。
「アハハハハハハ!」
高らかに笑いながら生徒達の白服を次々赤く染めていく彼女。
犠牲者、およそ50人。
開始10分、そのワンサイドゲームは、まだ始まったばかりだった………………
次は十六夜 神月さん。のはずでしたが残念な事に私情で途中退席と言う事になってしまいました。
と言うわけで次は代役を快く引き受けてくれた汐嵐さん。
よろしくお願いします。