<会長視点> 私立桜町第一高校
どうも、一番打者のMr.あいうです。
先頭なんて大役を任されてしまったわけですが、なるべく面白く!且つ次の作者様に負担の無いような終わり方をしよう!と責任感に震え上がりながらの作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
5月。
まるで五月晴れという言葉を体現しているかのような空の下。
私立桜町第一高校の生徒たちは一日のカリキュラムを終え、生き生きとした表情で各々自分の居場所へ散っていく。
桜町で一番目に作られた高校だから桜町第一。
そんな小学生並みのネーミングセンスを持つ校長の独断により名ずけられたこの高校は、今日も今日とて平和に平穏。
少なくとも、そこにいる人々の常識からいえば、の話だったが・・・
ある者は運動場で自身の部活に精を出し、
ある者は気の知れた友達とともに家路に着き、
ある者はタイムマシン開発といったばかげているとも取れる研究に時間を費やし、
ある者はひたすらに己の筋肉を磨き、
ある者はただボーっとしていて、
ある者はただ好奇心から人間を観察していた。
そんな中、その人々の中でも最も生き生きとした人物が、嬉々とした表情で生徒会室のドアを蹴破った。
本来、横開きのはずのドアを、である。
木材が軋み歪んで圧し折れるときの破壊音とともに現れたのは眼鏡の美少女。
ゆったりと伸びた黒髪を後ろで一くくりにまとめたその美少女は、女装が似合う男子といったほうが納得できるような凹凸を主張しないボディラインをしており、セーラー服さえ着ていなかったら女子が放っておかないような整った顔立ちをしている。
身長170センチほどの体はマネキンのように華奢で、その足は先の破壊力抜群の蹴りを放ったとは到底考えられない脚線美は相当鍛えているようだ。
両手いっぱいに書類を抱えたその少女は、片足を上げたまま、
扉に対して特に何の感慨も見せずにこう言い放つ。
「よし!生徒会としての最初の仕事は、この学校のドア全部を頑丈な自動ドアにすることだね!」
億単位の学校の予算がただ両手がふさがった人の為に使われようとしていた。
しかし、その顔は全く冗談を言っているような風には見えず、ただ純粋に学校をよくしようという信念のみがうかがえる。
これが、彼女の一番の良いところであり、同時に悪いところでもあるのだが。
その少女は一番奥にある最も日当たりのよい机の上にドサリと両手いっぱいの書類を置いて、
「私立桜町第一高校一年二組。釘宮 蓮!生徒会長としてこれから一年頑張るぞ~!」
誰もいない空間に所信表明をした彼女は、五月の日光を体いっぱいに浴びながら、幸せそうに伸びをする。
この少女が、この学校史上最も先生方に迷惑がられている桜町第一高校生徒会の生徒会長 釘宮 蓮。
一年生ながら先生方に全く配慮していないマニフェストを生徒に勝手に提示し、圧倒的支持を得て当選し、しかもそれを真面目に遂行しようとしている超問題児だ。
しかしそんなことよりさらに問題なのが、この釘宮 蓮が『最後の義賊』と呼ばれ、世間を騒がす大泥棒 釘宮 斜平の娘で、しかもその影響を多分に受けているということだった。
それさえ知っていればこの高校も少しは対策を取れたかもしれないが、
後にこの生徒会が『平穏崩し』の異名を持って職員室を戦々恐々とさせたのは、少し後の話。
「さて!目下の仕事は部費の割り振りだね」
といいながら山と積まれた書類を前に私は自分に呟く。
正直言ってこんな面倒な仕事は会計兼幼馴染の涼太に任せて、さっさと私は体育祭を年2回、図書室に漫画を置く、などといった先生が苦笑するようなマニフェストの実現に動きたいのだが、まだメンバーの誰も来ていないこの生徒会室に一番乗りしたのには理由がある。
「スタント部、スタント部・・・・・・っとあった」
目的の部活の書類を見つけると、私は急いで書類作成に励んだ。
スタント部とはその名の通りスタントに全力を注いでいる部活なのだが、そんな危険いっぱいの部活、部費が多く入るはずもなく、スタントはいつも地味なものばかりだというのだ。
そこで、私が秘密裏にそこの部長と交渉し、部費を大量に流す代わりに火薬を少し分けて欲しいと頼んだのだった。
いわば職権乱用だが、火薬の魅力には勝てなかった。
(閃光玉に手榴弾に自家製花火、ウフフフフフフ・・・・・・)
元来派手なものが大好きな私は、爆発というものに目が無かった。
それに加えて父親の釘宮 斜平に爆弾作りを教えてもらっていたために、爆弾作りは幼いころからちょっとした私の趣味だった。
しかし父親が全国的に指名手配されてからは火薬があまり手に入らなったうえ、ちょくちょく警察の人がうちに来るようになったために最近ではあまりやらなくなっていたのだが、この学校で作るならばれる事も無いだろう。
それに・・・
「キレイな花火を見たら、皆も少しは幸せになってくれるだろうしね♪」
と、そんな歪な価値観で他者の幸せを願う生徒会長が幸せそうにニヤついている生徒会室の前に、一人の男子生徒がたたずんでいた。
その男子生徒の足元にはついさっきまでその教室の扉であったであろう木片。
それを黙って見つめる彼こそが、桜町第一高校生徒会副会長真崎 蒼空
彼はその残骸を踏み越えて、ただ無言で生徒会室に入っていく。
そんな彼の心境は、その張り付いた微笑からは窺い知ることは出来なかった・・・
次の作者様は十六夜神月さん。
よろしくお願いします。