1話
6話の1話目です(下書きは終わっているので毎週上げる予定)
「おい、起きろ」
静かだが逆らうことを許さない声。
声をかけられた男が目を開ける。
青年と言う年代は過ぎたくたびれた男で、身に付けている衣類もボロボロだった。
ただし、汚い印象は受けない。
「誰だあんた?」
首横に剣が有るのに男は無造作起き上がる
その男の首に大剣を当てているのが声の主で、大柄の騎士だ。
大柄の騎士が構ているのは両手で使用する大剣。
鎧も高価な物だと一眼でわかる、そして戦いの跡が見える。
大柄の騎士の後ろには、少年を庇うように女性が剣を構えていた。
2人の鎧は、大柄の騎士の物よりさらに上質だ。
大柄の騎士の物は実践的な意匠だが、2人の装備には宝石の装飾が数多くされていた。
その向こうには、短い杖を構えた革の防具の男があたりを警戒していた。
「聞いているのはこっちだ」
先ほとの声と同じく、静かで感情が無い。
「見ていたとおりだ。寝ていた」と平然と返す。
「この森で火も焚かずに寝ていたと」
襲撃者が驚くのも無理はない、ここは魔の森だ魔物が徘徊している。そのせいで国境として使われいる。
なのにその森に1人で分け入り野営もせずに寝ていたのであれば、人では無いと思われてもしかたがない。
「この森で焚き火したら、人がいると魔物に教えるようなもんだ。匂いに誘われてあっという間さ」
ボロの男はめんどくさそうに言い訳を始める。
「奴等が嫌がる臭いの混ぜた水で、何重にか円を描いて結界代わりにするのがこの森での常識だ」
「あの程度では魔物の侵入は防げないと思うが」
軟鎧の男が向こうを警戒したままで言う、彼の結界には気づいていたようだ。
「だが嫌がりはする。中に獲物の気配がなければ無理に入ってこようとはしないさ」
ボロの男の説明は筋は通っているが、4人を納得できていない。
「俺は薬師だ、この森には慣れている。それとこれをそろそろどけてくれないか」と自分の喉に当てられている大剣を指差す。
女騎士と少年に何度かの会話があった後
「クルハ、剣を納めろ」
女騎士が言うと大剣は離れるが
「追手を振り切れないのは、コイツのせいかも知れないのだぞ」
騎士はまだ警戒を解いていない。
「何だよそれ、俺は関係ないぞ。原因はその子だろう」
3人の殺気が一気に高まった。
「やめろって言ってるだろう。お前がら何者かに追われてそいつらを振り切れないのは、その子を追っているからだ。鎧を着た少年の足跡なんて目立つからな、森の狩人なら追跡は簡単だ」
「何!」
「狩人だと!」
クルハと女騎士が声を上げる。
「だから、いくら囮を放っても私たちを真っ直ぐに追ってきていたのね」と女騎士が続ける
次の瞬間。
「フォール・アロー」攻撃の呪文。軽装の男の持つ短い杖から数本の光の筋が木々の中に飛んだ。
同時に5人の騎士が躍り出できた。それからは戦いとなる。
しかし戦いは一方的で、すぐに終わった。
クルハは一振りで1人を確実に仕留め、3回剣を振って3人を倒した。
女騎士も見た目と違い腕はたつ。少年を守りながら1人を切り刻んでいる。
その間、軟鎧の男は森の奥に魔法の矢を撃ち続けていた。伏兵が居たのだろう。
そしてボロの男も1人。
彼は素手で完全防備の騎士を1人地面にひき倒していた。その男の首はあり得ない方向を向いていた。
「俺は関係ないぞ、お偉いさんの争いに巻き込むな」と叫ぶ
「どうしてこちらのお方を'偉い人'だとご存知なのですか」
女騎士が剣を抜き少年の前に立つ。
「そんなの装備を見れば一目瞭然だろうが、お前達が身につけているような豪華な鎧は貴族でもかなり高位の者しか身に着ける事は許されないものだ」
言われて女騎士は自分と少年の鎧を見た。言われている事が理解できないようだ。
「なら、お前は俺たちをどう見る」クルハは気を緩めていない。
「みなさんは西に向かっていた、東のゼルスト王国から西のエテレーザル王国へ。危険な魔の森を通って。ゼルスト王国で政変か何かがあったのか、その子は多分王太子で叔父のエテレーザル王を頼に向かって。。。」
ガン!
最後まで言わせてもらえなかった、大剣がボロの男のいた場所に降り下ろされている。
「あれをかわすか」とクルハ、本気で殺す気でいた。
「危ないだろ」
「そこまで知られてわな」また剣を構える。
「やめよクルハ。今その者が言ったのは敵なら全部知っている事だ」と少年が止めた。
「しかし、ここに王子が居たと敵に知られる訳には」
「敵は私を追っているのだ、だからこそ襲われている。民を無用に傷付けるな」
王子の静止に、クルハはため息と共に剣を引いた。
「俺はゼルスト王国の国民じゃないんだけどね、流民なんで」とボロの男は一礼を王子に返す。
「どの国にも属していないらな、私達が君に力を借りるのもアリかな」
魔法使いはいい声の持ち主だった。
「何を言い出すんだ、ウテヤロワ」女騎士が彼の提案を即座に拒絶する。
ウテヤロワは膝をつき進言する。
「ノスワース様。この者は追手が殿下の足跡を追跡していると見破り、我らの正体と目的を言い当てました。我らにない目を持っております。我らは圧倒的に不利な状況、現状を打開できる可能性があるのであれば賭けてみても良いかと」
ノスワースは目をつむり下を向いた。
「いくらだす?」とボロの男はおどけた。
「これだから、下賤の物は!」とノスワースは声を荒げる。
クルハも彼女と同じように思ったようだ。
「古ベヤ金貨8枚」ウテヤロワは違うらしく、平然と答えた。
「王子の命にしちゃ安くないか」よせばいいのに、ボロの男が続けた。
ノスワースの剣を持つ手に力が入る、もう一言で振り抜かれるだろう。
「今の手持ちがそれだけなのだ。足りない分は全て終わったので後に支払う。それではダメか」
ウテヤロワは交渉に慣れている。
今までの行動で彼は身分が他の3人に比べ数段低いのは分かる。だからこそ色々な人々と交流が有ったのだう、彼にボロの男を見下した態度はない。
「私が無事玉座に戻れたあかつきには、褒美として望むものを何でも与えよう」
そう続けた王子の言葉に、ボロの男がため息をしながら首を振る。
「王ってのは神か、何でも望んだらそれをくれると。勘違いするな今は何者でも無いガキが」
何が原因かボロの男がキレた。
「無礼者が」ノスワースが一飛びで距離を縮め鋭い突きを繰り出す。
ギリギリでかわされ綺麗な顔を鷲掴みされた、そして地面に頭から叩きつけられる。
「ぐぅ!」
そこへクルハの大きな横殴りの一振り。先ほどの鋭さはない男を後ろに下げただけだ。
「確かに私は何者でもない。今は」王子は下を向き拳を力強く握った。
「そうじゃねえよ。他人の望みを簡単に叶えられるなんて思うな。夢見る事さえ許されない渇望というものもあるんだぞ」
ボロを纏った見た目に似合わず、固い意志と熱を持った言葉だ。
王子もその熱に押され黙る、そしてウテヤロワを見た。彼を信頼しているからの行動だ。
そのウテヤロワは苦笑いしていた。
「確かにそのような願いを人は誰もが持っているものなんでしょうね。命、いえ自分の存在全てを賭けて叶えたい望み」
ゆっくりと歩きボロの男の前に立ったウテヤロワは頭を下げた。
「そして今、その己全てを賭けても叶えたい私の願いはハフロス殿下の命です。ご助力願えませんか」
「いいよ、手を貸す」