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 バルガディア王国、元魔族戦争前線基地、要塞都市ケルパラス。

 その都市から馬で数時間走らせた場所にある広大な森ーー「滅ばずの森」


「あぁー!久しぶりに体動かすとやっぱ気持ちいいわ!」


 そこで俺は久しぶりの仕事である、魔獣「バーサーク・レッドベアー」の亡骸を横に伸びをする。

 「バーサーク・レッドベアー」は全身血のような真っ赤な毛を持った、瞳が四つ腕が四本ある五メートル程の熊型魔獣。

 相棒であるナイフ型の魔剣「フェイクソード」を腰にしまって、報告の為に討伐証明である真紅の瞳を四つくり抜き、魔獣の中でも最も高価な魔核を取り出す。

 もちろん、この魔獣の毛皮や爪なども高音がつくが一人で都市まで帰るまで担いでいく訳にも行かず、持ってきている「隠蔽シート」を魔獣の亡骸に被せるて帰路に着く。

 行きはのんびり徒歩で、帰りは馬車よりも大きい鳥型魔獣「ポッポー」を使用する特鳩便でケルパラスに帰ってきた。

 ちなみに隠蔽シートは周囲の環境に溶け込むような“ステスル性能“が付与されている特殊アイテムで、後に「運搬」組合(ギルド)の人間が回収にきてくれる優れもの。

 この世界には組合と呼ばれる専門的な組織があり、かく言う俺ーーアッシュも要塞都市ケルパラスの冒険者組合に所属している人間だ。

 組合(ギルド)とは、魔王が率いる魔族が世界の脅威として活動していた頃、魔族に対抗するために人類のみならず、エルフ、ドワーフなど多種族の共同出資によって設立された組織。

 初めは一つだった組合も、後に「冒険者」「魔道研究」「運送」など多岐に渡り専門的なものに変更・新設され、それぞれ個別で運営しつつも情報共有などは行い魔族に対抗していた。

 しかし、組合を設立したからといって戦いに決着が着くほど魔王は優しくなく、魔族との戦争は長期化してしまう。

 それから10年。

 魔族との小競り合いなど日常になってしまったこの世界だったが、組合とは少し異なるが同じく世界救済を目標に掲げる「教会」が「勇者召喚」なるものを完成させた。結果、その召喚された勇者は見事魔王を討伐。

 世界は無事に平穏になったのだ。


「ただいま〜」

「アッシュさん、お仕事お疲れ様でした。流石の早さですね」

「別に大した仕事でもなかったけどね」

 

 冒険者組合に戻ると通常窓口ではなく職員用の出入り口に入って、大衆の目のつかない俺専用個室に入ると他の業務をこなしている担当美人受付嬢ジェリーさんに声をかけた。

 ジェリーさんは今やっていた仕事を一旦中断して、報告書の準備をする。その間に俺はカウンターの席に座ると、討伐証明の眼と魔核を取り出した。

 俺の担当であるジェリーさんは整った顔立ちに赤い縁のメガネ、腰まである髪に、抜群なプロポーション。基本的には、裏方での業務が殆どで滅多に受付場をすることはないが、彼女が受付に立った日は平時の1.5倍売り上げが上がるという噂を聞くくらい組合の人気者だ。正直、仕事さえしてくれれば外見など気にもしないが、美人が担当してくれて嫌なことなどありはしない。


「そんなことありませんよ。バーサーク・レッドベアーのソロ討伐なんて、ここに所属している冒険者じゃ誰もできません」

「ジェリーさんにならお世辞でも言われると悪い気がしないね」

「あら、私の言葉を信じてくれないないなんて酷い」


 書類に目線を落としておいてからの綺麗な流れでの上目遣い。可愛い。

 だから俺も机に肘をついて前のめりジェリーさんの目を見る。


「男を褒めてやる気を上げる。受付嬢の必要スキルなんでしょ?」

「効果あるでしょ?」

「じゃあ、そんなジェリーさんにはこれをプレゼントだ」


 好き。妖艶に微笑む美女は素晴らしい。この微笑みからしか摂取できない栄養があると言ってもいい。

 だから、俺は彼女の前に指のように細い小瓶を取り出した。それは、ベアーと出会う前に採取していたピンク色の四つ葉「ハッピー・クローバー」だ。

 それを見て、彼女の書類を書く手が止まる。


「アッシュさん、これって……」

「ジェリーさん、前に欲しいって言ってたからついてに拾っておいた」

「ありがとう……アッシュさん!」


 美女が小瓶を大切そうに抱き抱える画。うん、かわいい。

 あ、ちなみにジェリーさんは既婚者だ。既に3歳になる娘さんも居る。

 先ほどあげたハッピー・クローバーも娘さんのために欲しがっていたのを以前聞いていた。まぁ、採るのにバーサーク・レッドベアーよりめんどくさいが、普段仲良くしてくれる同僚へのサービスも偶には必要だろう。

 普段こんなに気さくなのは、俺が彼女が既婚者だと知っているからな訳だし。

 やることも終わったし、嬉しそうにしているジェリーさんにこっちから声をかけるのも気がひけるので、こっそり席を立つ。


「あ、アッシュさん、バーサーク・レッドベアーの亡骸は運送組合で回収ですか?」


 が、普通に声をかけられた。


「へ⁉︎あ、うん。いつも通り運送組合。流石に、あの素材をテイクフリーはマズイからね」

「でしたら回収した素材の買取金額もいつも通りで?」

「それでお願い」

「承知しました」


 少しカッコつけて離席しようと思ったのに……

 個室を出た俺は、最近顔を見ていなかったおやっさん(組合長)に顔を出そうと組長室に向かってみることにした。


(最近来てなかったけど、廊下の装飾品減ったか?)


 別に豪華絢爛にする必要はないが、ここの冒険者組合は立地上、要人なども頻繁に来ていたというのもあり見栄は必要だった。

 個室から組長室までそんなに離れていないが、廊下に飾られていた貴金属系の装飾の数が減ったように見える。


「あぁ……どうすればいいんだ……」

(えぇ〜。おやっさんどうしたんだ)


 組長室に着いたからノックをしようと思った矢先、部屋の中から「う〜ん……う〜ん」とうめき声が聞こえるもんだから、何事かと思って扉を薄〜く開けて中を開けて覗いてみた。

 そしたら、「鬼のベニザメ」って呼ばれてる筋骨隆々つるっぱげに至る所に生々しい傷跡がある60歳を超えた強面が泣きそうな顔してるもんで入る感じじゃなくなったよね。

 とはいえ、戦争中は一度も見たことがなかった表情をしているおやっさんを放っておける訳もなく、俺も廊下で入るかどうしようか悩んでいると後ろから「あれ?アッシュさん、組合長室入らないんですか?」と仕事を終えたジェリーさんに後ろから声をかけられてしまった。


「ん?何だ、アッシュ来ていたのか。入っていいぞ」

「あ、あぁ。仕事が終わったから」


 ジェリーさんの声により俺の存在を知られてしまった為、多少気まずかったが部屋に入らざるを得なくなる。

 部屋に入ると、組合長は先ほどまでの情けない表情が嘘かのように普段の「鬼のベニザメ」と呼ばれる凄腕冒険者の表情に戻っていた。


「おぉ、昨日頼んだのにもう済ませるとは相変わらず仕事が早い」

「魔王が討伐されて暇だからね」


 ここの冒険者組合で頭を張るベニザメ。

 組合設立前は傭兵として魔族相手に一騎当千の活躍を見せるも、常に返り血で全身を赤く染め、人間なのに魔族の一種鬼族のような戦い方をしていた。そんな戦い方からついたあだ名が「鬼のベニザメ」。

 「組合」創設メンバーであり、後に最初の「組合」が「冒険者組合」に変更になった折組合長に就任。

 戦争で両親を失い、行き場のなかった俺を拾ってくれた命の恩人にして、俺にとっては二人目の「親父」だ。


「ところで、部屋入る前になんかうめき声聞こえたけど、何かあった?」

「あー、聞かれていたのか……」


 おやっさんの表情が曇る。


「実はな……このままだと職員をクビにせねばならなん」

「……は?」


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