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第一章 狂った神を鎮める者①

狂った神を鎮めるために旅立ったはずの令嬢とお付きの女騎士ですが、あまり仲は良くないようです・・・。

 なるほどねえ・・・。


 彼女は剣を構え、すり足で近寄る女騎士を意外な目で見つめていた。


 「・・・わたしも案外出来るほうだと思ったけど、あれほどじゃないわねぇ・・・」


 力量は見ていてもわかるほどだった。


 「ごぅわぁぁぁ」


 咆哮するまがまがしい影。


 それに対する光を纏っているかのような女騎士。


 咆哮に対しても怯えることなく、冷静に距離を詰める。乱れることのない呼吸と対象に向けられたまま動かない視線が、女騎士が平常心でいると傍らでわかる。


 近寄る姿に、たぶん反射的に振るわれた野太い腕を身を屈めてやり過ごし、するりとそのまま懐に入った。無防備な胴目掛け、剣をふるい、そのまま片側に抜け出す。


 怒りだろうか、何度も咆哮するまがまがしい影。抜け出した女騎士に後追いで腕を振るうが、そんな動きも読んでもいるかのように、そのまま足を止めることなく走り抜け、距離をとる。振り向くという動作もなく、体を斜めにしたまま、女騎士を追いかけて身体を回したまがまがしい影に対して動く女騎士。ちょうど彼女の反対側に立っている。


 女騎士は動きを妨げられることを嫌うのか、突くことをしていない。剣が突き刺さり、抜けなくなれば、引き寄せられて動けなくなる。かといって突き刺さった剣を手放せば、早々に相手を倒すことが難しくなる。だが、女騎士は先ほどから斬ることに主眼を置き戦っていた。その剣は確実に胴に傷を残している。傷は時間が経てば治癒で徐々に治ってしまうのだろうが、別の効果を生む。

 傷をつけられた側は確実にイラつき、怒り、冷静さを失う。そうすれば攻撃が単調になり、こちらの被害も、そして次の攻撃も読みやすくなる。


 「・・・そろそろ、姫様も攻撃をしていただけないでしょうか?」


 こちらに視線を送ることなく、女騎士が平静な声で言い、流れるような動きで近寄っていく。


 「・・・その、呼び方、やめろと言ったんだけど?」


 彼女がそう返したとき、まがまがしい影がその身に纏うまがまがしさを凝縮したかのように、一気に影の周りの濃淡を増す。


 「・・・わたしにとっては姫様は姫様で、それ以外に呼び方を知らないのですが」


 「・・・主よ、あなたの導きを賜りますよう、今ここに願いあげ奉る・・・」


 彼女が半目となり、口から聖言が流れ出る。


 「今、あなたの意思に反し心が汚染されしあなたの子に対し、安らぎを与え給え、浄化を!」


 「・・・至高の存在への祝詞を使えるのですか!」


 女騎士が驚愕し、構えを一瞬だけ崩す。


 「・・・うるさいわよ・・・」


 女騎士の言葉に、彼女はただ睨むだけだった。


 「・・・やはりあの噂は本当だったのですか・・・」


 女騎士は咆哮を上げ続けるまがまがしい影を見やり、そして影が薄くなり、光が増す光景をただただ腑抜けたように見つめていた。もうこうなれば自分の出番がないことを予想して・・・。






 「・・・大公息女、シュテファニエ・ベヒトルスハイムとの婚約を今ここに破棄する・・・?」


 手紙を読んだ女騎士は、理解できずに思わず二度見をしてしまった。


 「・・・・はっ?」


 「・・・そうだな、それが普通の反応だな・・・」


 何度も頭を傾げる目の前の女騎士を見ながら目の前の男がため息をつき、頬杖を外した。


 「・・・言われている意味が・・・?」


 「アダルブレヒト・マントイフェル第一王子はアホだという噂が世間に定着したようだ。至高神の恩寵はいらないらしい」


 「お、お、おおお恩寵ど、どころで、ででではななななく、し、し、ししし至高神の怒りをかかかかかかうのではありませんか!」


 しどろもどろになる女騎士に男は目を見張る。


 「め、珍しい姿だな。そんなにうろたえるとは。氷の女騎士といわれるそなたも、これには驚くのか・・・」


 「わ、我々にもお咎めがあるかもしれません」


 「・・・我々だけではなく、民にもそれはあるだろうな」


 男の目が天井に向けられる。


 「なんせ、王子の狂言と分かっていながら民が面白がって囃し立てたからな」


 女騎士もつられるように天井を見る。


 「お諫めしたのではないのですか?」


 「したさ。したが聞き入れなかった。あのくそ忌々しいトルデリーゼ・エーベルヴァインのような下半身女に引っかかる王子だ、相当いかれてるからわたしの言うことも聞かなかったよ」


 「・・・」


 「・・・」


 「・・・姫様、お怒りになるでしょうね」


 「裏切り者と罵られるだろうな、わたしたちを」


 「・・・」


 「・・・」


 「・・・」


 「・・・ひとつきいてもよいですか?」


 「・・・わたしにか?」


 「はい」


 「・・・なんだ?」


 「・・・わたしはあのトルデリーゼより姫様のほうが魅力的だと思いますが、」


 「・・・」


 「・・・なぜ、あんな女を王子は選んだのです?あなたも姫様より、トルデリーゼのほうが良いと思われるのですか?」

 

 「・・・性格も顔も身体つきも頭も家格も何もかも姫様のほうが良い。・・・良いはずだ。良いはずだが変なところであのトルデリーゼには魅力を感じてしまう・・・」


 「・・・一度死にますか?」


 険悪な目つきに男が両手を前にしてぶんぶん振った。


 「やめろ!わたしを殺気のこもった眼で見るな!」


 「・・・」


 「・・・あの女トルデリーゼには何かあると思う・・・。全く知られていないがあの女はどこぞの神から恩寵をうけたのかもしれん・・・」


 「・・・王子は恩寵は?」


 「・・・受けていたはずだが、キュッテル王国の土地神かもしれん」


 「・・・天界の神だったら、王子の恩寵が力負けしたかもしれないということですか」


 「さあな・・・土地神でも力のある者はいるぞ。多くの信仰を集めていれば対抗できるし」


 「・・・探れますか?」


 「・・・どうかな。よしんば探れたとしても王子が他の神の恩寵を受け入れれば、どうもならんさ」


 「・・・王子をもとの信仰に戻す道はないのですか?」


 「神のみぞ知るということだろうな。神々のことだ、戯れに姫様に主だった神殿を巡り、不埒な考えを持つに至った神を特定し、それをまっとうに戻せとか言い出しかねん」


 「・・・まさか」


 女騎士は笑おうとしたが、果たせず、そのまま口の端を釣り上げたのみで終わった。


 男の予測が外れてくれるといいと思いながら、なぜか神が頷いたような気がした・・・。


因みに神は創造神(世界を作ったから)至高神(最高位の神だから。五柱の神の使途と呼ばれる者が勝手に呼んでいる)と呼ばれています。五柱の神は神が自分のために作り出した従属神で、皆様が想像するような神としては五柱の神が力を合わせても創造神にはかないません。

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