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二日目夜、自室にて。

8話です。

 お風呂を上がってからスマホを開くと、知らぬ間にグループに招待されていた。


『タカーシを絞め落とす会』


 招待を送って来たのは前野さん、既に雲梯さんと奥山さんも名を連ねている。


 絞め落とされるのか、高橋……。いつの間にか、また前野さんに余計なことでも言ったんだろうな。


『春田彪太がグループに参加しました』

『春田彪太:奥山さんはメッセ初めてだ!よろしく!』


 無難に一言添えておくと、前野さんからすぐに返信があった。


『Maeno:全員揃ったね!高橋をヌッ落とすぞー!』


 ヌッ落とすってなんだろう。


『春田彪太:高橋またなんかやったの?』

『Maeno:さっきメッセしたらめちゃくちゃ可愛いチワワに絡まれてる写メ送られて来てなんか腹立った』

『Maeno:うらやましい』


 それさっきのイッヌじゃん。僕も似たような写真あるんだが、送ったら怒られるだろうか。


『春田彪太:こんな可愛いチワワ?』

『春田彪太:(チワワに噛まれてる彪太の写真)』

『Maeno がグループ名を《三バカの男二人をヌッ落とす会》に変更しました』

『春田彪太:ごめんて』

『雲雀:春田、よろしく。』

『春田彪太:よろしく!奥山さんって犬派?猫派?』

『雲雀:ねこ。』

『Maeno:私も猫!』

『Maeno:ってそうじゃないやろがい!』

『Maeno:明日の話だよ、明日の話!』


 そういえばそうだった。行き先はおろか、集合時間さえ決まっていない。

 僕と高橋だけならいっそ何も決めずにどちらかが勝手に自宅に押し掛けて、というような流れになるが今回は二人もいる。

 サポートしなければならない奥山さんと、エスコートしなければならない雲梯さんがいるのだ。

 僕が誰よりしっかりしなければならないだろう。


『春田彪太:というわけで前野師匠、意中の女の子を連れてダブルデートならどこがいいでしょうか』

『Maeno:三バカってほんと恐れ知らずだよね』

『雲雀:春田意外。今でも驚いてる。』

『春田彪太:確かに黙ってたけど、でも魅力的だから仕方ない』

『雲雀:色々聞いてみたい……。』

『Maeno:私も詳しくは聞いてないんだよねー、てか知ったの今日じゃん』

『Maeno:お、つゆ来た』


 言われてみれば、既読が三人になった。グループの全メンバーが揃ったようだ。


『雲梯露葉:こんばんわ。あの、明日の話にしよ?』

『春田彪太:ごめん!脱線した!それで前野さん、アドバイスないかな?』

『雲雀:お願いします。』

『Maeno:ばりひーは高橋と遊びに行くの初めてだよね』

『雲雀:男子と遊びに行くの自体初めて。』

『Maeno:初心かよ可愛いな!』

『Maeno:無難に映画とか?』


 映画か。確かに最近見てない気がする。それに初デートだとおすすめって、僕でも聞いたことがある気がする。理由は知らないけど。


 しかし前野さんと高橋は以前皆で遊びに行ったことがある。

 前野さんの仲良しのグループに、僕や高橋も混ぜてもらってボーリングに行ったのだ。その時は吹奏楽部の女子も何人かいたが、僕や高橋をはじめ数人の男子も混ぜてもらった。雲梯さんもいたので随分張り切って高橋とデッドヒートしてしまった覚えがある。

 他にもカラオケなどの経験もあるが、逆に言えば、前野さんも高橋や僕とは大人数の遊びしか経験していない。


『春田彪太:映画はどうだろうな』

『春田彪太:僕も高橋と行ったことあるけど、あいつ、4DXとかのはしゃげるアクション映画しか見れないよ』

『春田彪太:静かに見れないタイプ』

『Maeno:イメージ通り過ぎる……。ムードの欠片もない奴だ』

『Maeno:カラオケとかは?前も行ったけど、二人とも歌上手いじゃん』

『雲梯露葉:歌うのは恥ずかしいかも……』

『雲雀:私も。あんまり激しくない方がいい』

『Maeno:恥ずかしがり屋ちゃん共め!でもそしたら、動物園とか水族館とか?ショッピングって柄でもないだろうし』

『雲雀:いいかも。』

『雲梯露葉:私も大丈夫だよ』

『春田彪太:その二つなら、水族館かな』

『春田彪太:動物園の高橋、すごいから。僕もだけど』


 去年の夏に他の男子グループと行ったことがあるが、あの時はすごかった。

 とにかく動き回るのだ。比喩でも何ともなく、動物でもなく、僕たちが。

 体験イベントやふれあいタイム、スタッフさんに時間を聞いて餌やり鑑賞まで全力で網羅すべく、ほとんど動き続けて興奮し続けていた。

 付き合った他のメンバーがバテて売店でアイスクリームを買っていても、アイスが溶けるまでに何度その場所を往復したことか。


 そんな強行軍にか弱い女子二人を連れて行けるか。否、動物園は戦場なのだ。我らながら、夏休みの小学生以下のお子様に負けず劣らずはしゃげていたと自負する。


『Maeno:なら無難に雰囲気いいのは水族館かね?』

『雲梯露葉:水族館楽しいよね』

『春田彪太:今から館内の情報丸暗記してくる』

『雲梯露葉:春田くん、普通に楽しも……?』

『Maeno:春田っち、周到すぎるのも引く』

『春田彪太:はい!奥山さんは大丈夫?』

『雲雀:大丈夫。魚図鑑とか探してみる。』

『Maeno:あんたもか』

『雲梯露葉:(苦笑いする犬のスタンプ)』



 そんな感じで場所はデートスポットは水族館に決まり。



 僕が高橋の趣味を吐かされたり、明日の時間の話なんかもしたりして、本日はお開きとなった。

 参加しない前野さんが仕切ってる状況は少しおかしい気もするが、前野さんがいなくなるとややこしい矢印だけが残ってしまう。

 気を遣わせて申し訳ないとは思うが、前野さんには感謝だ。今度どこかで、飲み物くらいご馳走しよう。



 皆のおかげで本題の芽亜里の惚れ薬も無事処理できたし、後は薬の効果を試すだけ。むしろ僕的には色んな意味でここからが本番だ。

 僕にはあまり効果がないように感じたが、高橋はどうなのだろう。

 芽亜里は横恋慕は出来ないと言っていた、高橋は無意識に気になる相手でもいるのだろうか。それらしき話を振った時に出たのは芽亜里の名前だったけど、ないだろう。高橋が芽亜里の横に立つのは、違う気がする。

 芽亜里の薬に限って何も効果がなかったって可能性もほとんどない、失敗しても副作用は付き物だ。

 奥山さんは高橋センサーに引っ掛からなかった?それとも、効果はあっても鈍い僕が気付けなかっただけ?……その可能性は大いに、ある。

 あんなに分かりやすい男なのに、高橋が分からない。


 野郎のことなんかに頭を悩ませても仕方ない。ドライヤーをかけるのも忘れたまま時間が経った髪も乾いていた。そのままベッドに身を投げる。


 ろくに使ってこなかった頭なんか使わず、感じるままに動こう。



 そういえば僕だって、雲梯さんへの感情は意外だと言われていたっけ。

 全く、色恋というのは難しい。

 色々考えて一歩を踏み出せずにいれば、いざ飛び込んでみれば暗中模索。

 これならば気持ち悪くも見守るだけの方が良かったかもしれないが、迷惑をかけている自覚はあってもやっぱり雲梯さんは可愛い。好きだ。

 そんな雲梯さんからは否定の言葉は聞いても、僕の勘違いじゃなければ明確な拒絶ではない気がする。或いはあんまり優しい人だから、そんな言葉を言えずにいるのかも知れない。

 僕のことを皆が意外に思ったように、僕だって雲梯さんの内心は欠片も分からないでいる。


 僕の半端な態度が原因なのかも知れないな。芽亜里の薬に奥山さんの事情に、何もかも便乗犯だ。

 自分の言葉で踏み込まず、省みれば僕らしくもなく逃げてばかりだ。


 明日、ケジメをつけよう。


『春田彪太:高橋、明日は10時に駅前な!』

『たかはし!:り!!』

『たかはし!:そういえばお前が好きそうなエロ動画見つけたぞ!』

『春田彪太:今度見る!リンク貼っといて!寝る!!』


 高橋にメッセを送り、英気を養うために床に就いた。

 目覚ましをかけたスマホの時刻は、22時である。




 ※※※※※※※※※※※※米※※※※※




『Maeno:それでつゆの方はどうなの?』


『三バカの男二人にやきもきする会』と名付けられたグループに参加すれば、半分案の定、前野ちゃんから切り込まれてしまう。

 そういえば春田くんからのメッセに悶々としていたのは昨夜のこと。

 今日の一日が濃密で、なんだか遠い昔のことのように思えてしまった。

 それでも昨日と同じように、クッションに身を埋めて疼く心を抑え込む。


『雲梯露葉:わかんない。春田くんのことあんまりそういう風に見たことないから……』


 本心だ。私にしては珍しく、思いつくままに指が動いていた。前野ちゃんには彼女自身のことを相談されたこともあるし、雲雀ちゃんに関しては進行形だ。

 私だけ隠し通すのは、フェアじゃない、気がする。

 それか本当は、自分でも分からない気持ちを誰かに整理してもらいたいのかも。


『雲雀:春田、意外。白鷺と結婚するのかと思ってた。』

『Maeno:気が早い早い!でも確かに、メアリーちゃん以外に靡いてるの驚き桃の木山椒の木だよね!』

『雲梯露葉:私もびっくりしてて、どうすればいいかな……?』


 彼は告白ではないと言っていた。意味がわからないけど、つまり公然と、その、アピールしてきている。彼から褒め言葉をもらう回数は増えた気がするし、人を揶揄う人じゃないのも分かる。それでも。


『雲梯露葉:春田くんも惚れ薬、飲んでるから』


 一時の気の迷い。本当に私なんかのことを好きになってくれたのかも知れないけど、彼が分からない。聞くのも、こわい。


『Maeno:つゆが今どう考えてるのかもあるけど、惚れ薬って効いてるのかな?』

『雲雀:効いてなくてもいい。』

『雲梯露葉:いいの?』

『雲雀:おかげでちょっと、勇気出た。』

『雲雀:2人もありがと。明日、頑張る。』

『Maeno:う〜〜!!うい奴め!!!!』

『雲梯露葉:がんばろうね、雲雀ちゃん!』


 すごいな、雲雀ちゃん。まっすぐで、羨ましい。捻くれて日和見してる私とは大違いだ。こういう子が、うまくいくといいな。

 それからは春田くん情報を基にした雲雀ちゃんの応援の話になって、途中からは通話になって、終わってみると気付けば日付も変わっていた。


 結局私の話はあくまで私が受け手ということもあって追求もせず、もやもやしたまま一安心。



 一人でベッドに寝ると、前野ちゃんの言葉を思い出す。


 私は今、春田くんのことをどう想っているんだろう?


 目を瞑って想像する彼の笑顔は、夜に浮かべるには少し、眩しかった。

彪太レポート:奥山さんのアイコンはアニメのキャラの落書き。絵が上手い。

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