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二日目夕、帰り道にて。

7話です。

「あれ?ひゅーた達トイレ行ったんでなかったん?」


 曲がり角の裏でああだこうだと駄弁っていると、まず現れたのは高橋だった。

 少し見上げる位置から、のそりと背の高いツンツン頭が覗いた。


「やべ」


 ……結局、全然、様子を伺ってすらいなかった。思わず漏れた言葉に、高橋の後ろからひょっこりと顔を出した奥山さんが垂れ気味の目を見開く。そりゃそうだ、バックアップしてると思ったら、それどころか裏で呆けてるだけだったのだ。怪しい薬を押し付けられた上になんというアフターフォローのなさ。

 いや、申し訳ない。


「タカーシ、女子が二人もいるんだからトイレとか言わない方いいよ」


「いや前野が言い始めたんだろ!」


「あれ、そうだっけ?」


「前野ちゃん……」


 あれれ〜おっかしいぞ〜と名探偵よろしくおどける前野さん。あくまでシラを切り通すらしい。

 流石の雲梯さんもフォロー出来なそうである。そもそも僕も混ぜて連れションって、前提が破綻してる。


「それで高橋、どうだ?」


 しかし僕には前野さんみたいに煙に撒いて誤魔化すような芸当は出来ないので、馬鹿正直に話を進めるしかない。

 そして高橋も馬鹿なので、それ以上の意図なんか気にしない。


「ああ、白鷺のな!あれすげぇぞ!なんかこう、ブワーってなった!無性に走りてぇ!」


 手をわきわきさせながら、高橋がそんなことをのたまう。これは、どうなんだ?効果はあったのか?奥山さんの思惑通りに、きっかけは作れたんだろうか。


「それだけか?」


 例えば、なんて聞いていいのだろうか。分からん。ろくに経験値のない僕だけではとてもじゃないが力不足だ。

 情けなくも前野さんを見ると、彼女は小さな奥山さんの体に抱きつくように、こそこそと向こうの顛末を聞いていた。雲梯さんもそっち側なので、僕が高橋を何とかするしかないか。


「それだけってーか、あ、そうだ!奥山に遊び誘われてよ!びっくりしたわ!」


「え、マジ?」


「マジマジ!あんま話したことねーのに、意外も意外よ!」


 前野さんたちも丁度奥山さんからその辺りを聞いたのか、おまけの三人組は何となく目を見合わせた。正直、想定していたプランの斜め上30°くらいを通過してしまい、どうしたものか全く考えていなかった事態だ。


 当の奥山さんは恥ずかしそうに視線を逸らしている。

 マジか。


「ふ、二人はいつ遊びにいくことにしたの?」


 驚き固まる僕と前野さんを置いて、こんな時にフォローの手を差し伸べてくれるマイエンジェル。僕と前野さんの気遣い力を足して合わせても雲梯さんに負けて劣ることが立証されてしまった。気配り上手がカンストしている。


「そういやそこまで決めてねーな!明日でいいか?」


 明日は土曜日。確かに休みだし、今週末は特に僕らも遊ぶ予定もなかったから高橋はフリーだ。土曜ならば高橋のバイトもない。


「……うん、よろ」


 美術部の活動があるのかは分からないが、問題はないようだ。


「奥山さん、すごいね」


「……?」


「ばりひー、あんたすごいわ」


「……??」


 思わず前野さんと並んで頷いてしまう。惚れ薬なんて不確かな物を試す上に、その後まで自分の力で進めてしまうなんて。

 奥山さんのことは美術部のあまり喋らない内気な人だと思っていたけど、認識を改めよう。

 ちゃんと自分の意志を通す人だった、尊敬する。


「それで、奥山と遊びに行くのも面白そうだからいいんだけどよ!ひゅーたたちはどうすんだ?」


「え?」


「……?」


「は?」


「……たち?」


 順番に僕、奥山さん、前野さん、雲梯さんだ。高橋以外の誰もが目を点にしている。


「おう!話してみたら奥山も面白そうな奴だけどよ、やっぱワイワイやる方楽しいだろ!」


「……私は助かる、かも」


 奥山さんは、無言でヘルプの三文字を目に浮かべている。


「なら一緒しようか」


「わ、私も明日は大丈夫だけど……」


 確かに奥山さんが知ってか知らずか、高橋の遊びは激しい(・・・)。海に行くって言ってなぜか自転車で山を登ってたこともあった。いきなり二人きりになるより、歯車役がいた方がいいだろう。止める歯車になるか加速させるかは分からないけど。

 なんて言ったって高橋が暇ということは、同じグループの僕も暇である。予定は大抵合わせているので、バイトもない。

 雲梯さんも時間の都合はつくようだ。貴重な休日を人のために支えるなんて、僕の休みを分けてあげたい。


「あ、私部活だからパス」


「前野ちゃん!?」


 雲梯さんが驚きの声を上げるが、言われてみれば。


「あー、吹奏楽部って土日もあるんだっけ」


 いつぞやそんなことを溢していた気がする。


「いっちゃん大きいコンクールが夏だからね。日曜はないけど、追い込み時よ」


「日曜はバイトだから〜、じゃあ前野は今回不参加だな!仕方ない!」


「ごめんねぇ。陰ながら応援してるから」


 はて応援とは何のことやらと高橋が首を傾げる。奥山さんに向けた言葉であることは言うまでもない。しかしその言葉は僕にも効く。


「ありがとう前野さん!」


 図らずも、これはダブルデートというものではないだろうか。


 しっかりやんなよ、と前野さんの目が物語る。


 よく分かってなさそうな高橋と、緊張した様子の奥山さん。そして事情を分かっててもどうしてこうなったとあわあわしてる雲梯さんの四人で出掛けることになったようだ。よっしゃ。


「楽しみだね、雲梯さん」


「えっ……あ、そうだね」


 巻き込んで申し訳ない気持ちはあるけど、それでもやっぱり嬉しさが隠しきれない。


 つい、口元が緩むのが自分でも分かった。




 ※※※※※※※※※※※※米※※※※※




 放課後。

 まだまだ日の高い夕方を、僕と高橋は連れ立って帰り道を歩いている。


「昼、奥山さんに何て言われたんだ?」


「んにゃ?普通に遊びに行かないかって」


「どうだったよ」


「どうって、びっくりしたわ。あんま話さねぇ奴かと思ってた。全然そんなことねぇじゃんって」


「マジか。僕相手じゃそんなでもなかったのにな」


「奥山って結構グイグイ来るのな。全然知らなかったから、なんかおもしれー」


 世間では意中の女性に『おもしれー女』という表現をよく使うと聞いたことがある。これは脈ありか?


「でも奥山さんって高橋が好きそうなボンキュッボンではないだろ?その辺はどうよ?」


「あー、エロいかどうかで言えばタイプではないな」


 高橋は年上系が好きだ。少年誌のグラビアでは巨乳の方が食いつきがいい、男子内では周知の事実だ。


「奥山さん、ちっちゃいもんな」


「んなこと言ったら白鷺だってド小せぇだろ」


 ん?


「なんでそこで芽亜里?好きなの?」


 思わず口からスッと言葉が出ていた。気付く相手でもないからこれまでも何ら包み隠すような話し方はしていなかったが、出てきた名前が想定外だ。

 奥山さんのための情報収集以上に、何かが僕のアンテナに引っかかった。


「好きじゃねーよ!誰があんな女!」


 高橋にしては珍しく憤慨している様子。僕の次に芽亜里謹製の発明の余波を受けているのが高橋だ。なんなら今回の惚れ薬だって僕らしか飲んでいない。


「いやごもっとも」


 ひょっとするとツンデレの可能性も捨て切れないが……。それを踏まえても芽亜里に惹かれる理由なんて、外面くらいだろう。なんだ、安心した。


「アレを狙う人類がいるってのが信じられんが、面白さだけならとびきりだろ、白鷺は。ちっせぇけど。奥山もちょっと似た感じだなって」


「あー」


 言われてみれば僕らの想定を超えてデートまで取り付けていた奥山さんだ。案外押しは強いのかも知れない。

 そういう意味では、背も小さいし、普段喋らないから何を考えているかも分からない。芽亜里に通じる部分もあるの、か?


「いや似てないだろ」


 そうか?と高橋が首を傾げる。そうだろ。芽亜里ほど破天荒でもなければ『特別』でもない。


 芽亜里に似ている気がすると、高橋的にはそれ以上の思い入れはないように見えるが、結局この反応はどうなんだろう。芽亜里と同列ってことは脈なしなのかも知れないが、逆に言えばある種特別な芽亜里に並ぶとも考えられる。


「奥山さん、アリ?ナシ?遊びには行くくらいだろ」


 分からないなら、聞けばいい。


 高橋は少し考える素振りを見せると。


「……分からん!あ、猫いるぞ猫!塀の上だ!」


 すぐさま注意を別に逸らした。


 分からんて。こっちのセリフだわ。


 しかしブロック塀の上で寝そべるお猫様にニャーニャー言い始めた高橋だが、ふと振り返り僕に問う。


「そっちこそ、どしたんよ。なんか恋バナ多くね?」


「夏といえば恋バナだろ。おい向こうから犬来たぞイッヌ!撫でさせてもらおう!」


「マジだ!うっひょ可愛い!」


 すいませーんと散歩中の飼い主さんに歩み寄る高橋。変なところで鋭いな、気を付けなければ。明日ヘマでもすれば奥山さんに申し訳ない。

 改めて、気合を入れ直す。この後は前野さんたちに報告のメッセだ。結局高橋がどうなってるのかは分からないが、奥山さんに興味は湧いてるようには見える。感じたありのまま伝えるしかないだろう。



 そんな僕の内心を知らず、高橋は道行くチワワに声を掛けている。動物に好かれる男だ、なんなら声なんか掛けなくても相手の方から寄ってくる。

 飛び跳ねるチワワみたいに尻尾でも付いてれば、あんな分かりやすい男でももっと分かりやすいのかと考えてしまう。いやそれはキモいな。ない。

 尻尾や動物の耳なら雲梯さんに似合う。絶対可愛い。犬か猫か、はたまた兎か。悩ましいな。


 ちなみに僕はそんなに動物に好かれないし芽亜里も基本吠えられる。地面に寝そべる勢いでとても楽しそうに犬と戯れる高橋には嫉妬の一つも浮かぶというものだ。なんか悔しい。


「高橋、キモい」


「ひゅーたも来いよ!可愛いぜこのワンちゃん!」


 まぁ、紛れもなく高橋の良いところではあるんだ。

彪太レポート:チワワかわいい。飼い主のおっちゃんは良い人。

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