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2日目朝、教室にて。

3話です。

 困った。とても困ってしまった。



 お風呂上がりでベッドに転がってスマホの画面を見ながら、飛び出た通知に何と返そうか考える。

 時刻は21時過ぎ。まだまだ遅い時間じゃない。



『春田彪太:今日は突然の話でごめん!明日からもまたよろしく!』

『春田彪太:おやすみ!」



 相手は件の彼。


 隣の席のクラスメイト。去年からたまたま同じクラスで、今はたまたま席が近い。

 彼は竹を割ったような性格で誰とでも親しく話すので、あまり男子が得意でない私も気軽に話すことが出来た。


 特別なことなど何もない、友達と言っていい仲かも知れなかった。


「よろしくって、どうすればいいの……?」


 まさか彼が私を好きだったなんて。想像もしなかったし、彼はそういうのに興味がないと思っていた。

 あまつさえ、惚れ薬を飲ませようとしてくるなんて。



 頭の中は夕方から大混乱中。


 晩御飯が何だったのかも思い出せない。


 部屋のクッションを総動員して抱き締めて、せめて体だけでも落ち着かせようとしていた。



 確かに彼の幼馴染の白鷺さんはとても、とても個性的な人だけど。

 彼も周囲と一緒に巻き込まれて、消して普通とは言えないタイプだけれど。


 騒動の中心にいるような彼が、まさか私なんかに告白してくるなんて。

 だって、見た目だけでも絶対白鷺さんの方が可愛い。前野ちゃんの方がノリも合ってる。



「でも告白だよね、あれ……」



 本人は頑として告白ではないと言っていた。でも、好きだと言って、惚れ薬を飲んでくれだなんて、告白してるようなもの。


 ていうか、なんで惚れ薬を自分で飲んだんだろう。



 さっぱり分からない。



 ウソや冗談ではないと思う。

 彼は元々そんなに器用な人でも、誰かを謀るような人でもない。

 それに、その、散々私の好きなところを言ってくれたのは、嬉しかった。私自身でも気付かないような癖や、細かいところまで見られていた。

 正直少し、かなり気持ち悪いけど、それよりも彼の気持ちが伝わった。



 パタパタとうるさいなと気が付けば、動いていたのは私の足。抑えられない動揺が舞い上がってる。



 どうするの?



 どうするなんてそんな、まず不思議なことに告白された訳ではない。



 どうすればいいの?



 帰り道から、この繰り返しだ。



 彼が好きだと言ってくれた言葉がリフレイン。


 ほんとはそんなに優しくなんてないし。嫌われたり人間関係面倒なだけだし。悪口とか言う度胸もないし。根暗だし。


 それを彼は良いように捉えていた。


 分かってない。

 分かって欲しいの?

 分からない。


 でも嬉しいけど、困る。



 ぐるぐるぐるぐる、ループする。

 胸元のクッション達が、無意識の動作で順々にその形を変えていく。



「無視は、ダメだよね……」


 スマホを睨む。なんて返そう。ていうか言うだけ言っておやすみ、って。

 まだメッセージの方が考えて話せそうなのに。おやすみって、今日はもう終わり?でもまたあんなに甘い言葉ばかりもらっても、絶対困る。話したいのかな。また好きって言ってもらって、嬉しくなりたいのかな。はっきりしないまま欲しい言葉だけ言ってもらいたいの?最低だ。



 なんて、なんで私ばっかりこんなに考え込んでるんだろ。

 普通告白した方が考えるものじゃないのかな?

 告白じゃないのか。ズルい、春田くん。


 彼のことは嫌いじゃない。友達として、好きな方だとは思う。

 ただ、彼に限らず恋人だなんて考えたこともない。


 だからすぐに拒絶することもできず、上部だけはいつも通りを取り繕って。


「あ〜〜〜ぁ……」


 悩みに悩んで、玉虫色。


『雲梯露葉:大丈夫だよ。あの後、薬のこととか大丈夫?また明日学校でね』

『雲梯露葉:(よくいる犬のキャラのおやすみスタンプ)』


 何が大丈夫なのか自分でも分からない。

 明日どんな顔をして会えばいいのかな。



 ていうか、惚れ薬って何!?


 彼の想いが薬の間違いなら良いのに、なんて最低なことを考えてしまう。


 それ以上一人で悩んでも仕方ないのに、何かがどこかに引っかかった。

 誰かに相談、なんてできる話題じゃないし。



 その後は春田くんから返信も既読もなかった。それはそれで気にされていないみたいで、モヤモヤする。まさかもう寝てるのかな。


 いつもよりほんの少しだけ入念にスキンケアをして、不貞寝した。



 あんまりすぐに寝れなかった。




 そのくせ、翌朝は変に目が冴えて早起きに。

 そわそわしたまま、ゆっくり支度をしても随分早い時間になってしまった。


 ※※※※※※※※※※※※米※※※※※



 今日はいつもよりも早く登校しまった。


 それというのも普段より1時間も早起きしてしまったから。

 昨夜これまでの雲梯さんの可愛いポイントを思い出し、珍しく頭を使って早寝していたのが原因だ。


 夕食をタカリに来た芽亜里に顛末を話し、雲梯さんにメッセを送り、のんびりしていたら気付けば意識がなかった。

 滅多にしない緊張をして気疲れしたんだろう。


 雲梯さんの返信に気付いたのは朝だったので、学校で話すタネにしようと思って返信はしない。



 だから逸る気持ちのまま、いつもより30分ほど早く席に着いてしまった。


 今日も蝉が元気だ。

 蒼天に雲はなく、夏日和。何もしなくても汗が垂れるような、気持ちのいい朝である。


 いつもは僕が来る頃には何人か、それこそ朝練終わりの前野さんとかいるのだが、まだ朝の教室には誰もいない。



 蝉の声が聞こえるだけで、静かだ。

 暑いはずの空気も人気がないと何となく涼しげ。


 そんな矛盾を孕んだ朝の教室は、どこか特別感がある。



 だから蝉の声に耳を澄ませる程度には手持ち無沙汰でもあったので、今日はその音に気付いた。



 チャラリと、廊下からキーホルダーが揺れる音がする。



 反射的に扉の向こうを見やると、目を見開いた雲梯さんがいた。


 いつもならまだまだ雲梯さんも登校しない時間だ。今日はラッキーデイかも知れない。


「雲梯さんおはよう。今日は早いね」


「お、おはようございます。えと、春田くんも早いね」


「なんか雲梯さんのこと考えてたら昨日早寝しちゃって。それで今日早起きだったんだ」


 沈黙。


 雲梯さんは中々教室に入って来なかった。


 警戒されている。当然だ。


 待ち構えているのは昨日惚れ薬を飲ませようとして来た男子である。しかも隣の席。


「あー、僕、教室出ようか?」


「え、どうして……?」


「昨日メッセしたけど僕的には今まで通り友達のままでいられたら嬉しい。でも、やっぱりやり辛いかなって」


 そう言うと、雲梯さんは恐る恐る教室に入って来てくれた。

 僕を不快にさせないように気を遣ってくれている。優しい。好き。


「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど、うん。今まで通りだよね」


 雲梯さんはそう強がってみせると鞄を置き、隣の席に座ってくれた。

 話の流れで、隣同士で目が合ったまま。大きく綺麗な目に僕が写っている。


 先に目を逸らしたのは、雲梯さんだった。そりゃそうだ。僕はずっと見ていられる自信があるが、失礼だった。


「ごめん、つい。今日はどうしたの?こんな時間に」


 雲梯さんは僕の様子を伺うと、やっぱり少しいつもよりは硬い面持ちで答えてくれる。


「なんか眠れなくって。朝ものんびりしてたのに、早く来ちゃった」


「一緒だ。夏って寝苦しいのもあるけど、朝も変な時間に起きちゃう時あるよね」


「そうかも。エアコンは付けてるんだけど、起きちゃうよね」


「昼の暑いのは平気なんだけど。雲梯さんは暑いの平気?」


「私は寒い方が得意かな……。暑いと色々大変だし」


「確かに、夏って日焼け止めとか大変そう。雲梯さんとか他の女子もだけど、皆偉いよね」


「塗らないで荒れちゃっても大変だから」


「それでもこんなに綺麗な状態に保っておけるの、すごいよ。芽亜里も前に日焼け止めの強いの作って、今度は日光受け付けなくなって栄養剤飲まなきゃ体調崩すような時もあったし。植物かって」


「あはは……それは、すごいね」


「芽亜里って、頭いいけどバカなんだよね、根本的に。だから今度の惚れ薬みたいなのも作ってくるし」


 普通に話せていたが、惚れ薬の単語を出すと雲梯さんはビクリと震えた。昨日の今日だ、いくら僕が元から雲梯さん大好きで薬の効果がろくになかったとは言え、怪しい物を目の前で飲まれた事実は変わらない。

 昨日もずっと心配してくれていた通り、まだ効果のほどは確認出来ていないし。


 あ、そうだ。


「惚れ薬と言えば、またややこしい話持ち出して悪いんだけど、これ」


 鞄から取り出した物を、机に置く。


「え……」


 雲梯さんも思わず絶句である。僕も昨日帰ってから芽亜里とギャースカ言い争って、存在を思い出した。


 机の上の茶色の小瓶の中で、ちゃぷりと液体が揺れる。



「予備あったの忘れてたんだよね。どうしたらいいと思う?」

彪太レポート:薬のせいか、ぐっすり寝れた。

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