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3-10 イカサマ?やられる方が悪い


「おい!こんなのイカサマだろ!」


「ふざけんなよ!」


 余りにも理不尽な結果に、三人組の男達が立ち上がり怒鳴り声を上げる。


 怒り新党といった様子で睨みつける6つの瞳に対し、レイの返答はあまりにもシンプルだった。


「うん、イカサマだよ。それが?」


「なっ!?」


 まったく悪びれる様子もなくそう答えたレイに、男達は思わず言葉を失う。


「だって何でもアリなんでしょ?じゃあイカサマくらいするよね。気付いたなら、最初から指摘すればよかっただけでしょ?違う?」


「ッ!調子乗んなよテメェ!」


 手元の牌をいじりながら馬鹿にするような口調でそう宣うレイに堪忍袋の緒が切れた三人組の一人が掴みかかろうと手を伸ばす。……だが、その手がレイに届くことはなかった。


「おい、俺の賭場で暴れんじゃねぇよ負け犬」


「ぐぁ!?」


 振りかぶったその手を掴んだダークレは、そのまま勢いよく後方へと投げ飛ばす。


 いとも簡単に宙に浮いたその体は雀卓を幾つか飛び越え、男の一人を壁へと激突させた。


「お、おい大丈夫か!」


「ダークレさんなんで――」


「すまなかったな」


「いいよ、気にしてないから」


 困惑した様子で見上げる視線を無視したダークレが謝罪を口にすれば、レイは手をひらひらと動かしながら応える。


 その姿を見たダークレがニヒルに笑うと、どこか嬉しそうに言葉を続けた。


「にしても驚いたぜ。こんな所で同志に会うたぁな」


「私もびっくりだよ。『闇雀士』なんて大分昔のゲームだし」


・『闇雀士』?

・なにそれ?

・それって漫画の?


 何やら分かりあっている二人に対し、視聴者が疑問の声を口にすれば、レイはどこか懐かしむように詳細を説明する。


「『闇雀士 虎鉄~幻想を掴む者~』っていうVRゲームだよ。とある漫画が原作の、別名『イカサマ麻雀』」


『闇雀士 虎鉄~幻想を掴む者~』。


 VR黎明期に発売された本作を語るのならば、まずはその原作漫画にあたる『闇雀士 虎鉄』を説明する必要があるだろう。


 時は高度経済成長期、ヤクザやチンピラ、半グレなどの裏に潜む者達が覇権をかけて日夜争いを繰り広げていた。


 ただし、その方法は暴力ではなく、大人の遊戯(ギャンブル)


 中でも分かりやすさとゲーム性から麻雀が良く好まれ、その代理戦争にプロアマ問わず、多くの雀士が参加する。


 勝者には栄光を、敗者には死を。文字通り命を賭して生命の日を暗く、眩く燃やす彼等は、いつからか『闇雀士』と呼ばれるようになった。


 そんな群雄割拠の時代に『嘲笑の悪魔』と呼ばれる雀士の姿。


 彼こそが主人公、虎鉄。通称『負けを知らぬ男』は『闇雀士』の世界で何を得て、何を見るのか――。


 と、いうのが大まかなあらすじである。まだまだ語ることは多いが、基本的に裏社会の麻雀で、何でもアリなダーティな勝負が見どころの麻雀漫画、という認識で問題ないだろう。


 そんな知る人ぞ知る名作を忠実に再現したのが『闇雀士 虎鉄~幻想を掴む者~』であり、いわゆるキャラゲーと呼ばれる部類の作品である。


 局の開始前に原作登場キャラを選択し、その選択したキャラに応じたイカサマスキルを用いて戦うオンライン対戦型のゲーム……ではあるが、事前評価はそこまで高くなかった。


 確かにスキルという差別点もあるが、当時は他にも本格的なVR麻雀ゲームが存在し、競技思考のプレイヤーの多くは既にそちらに根付いていた。


そのためほとんどのゲーマーから、原作ファンしかプレイしないだろう――そう、言われていた。


 だが発売してから一週間が経過した後、とあるユーザーが投稿したプレイ動画によって評価が一気に覆ることになる。


 その動画のタイトルは『金城戦再現プレイ』。


 その名の通り、主人公の虎鉄になりきり、金城というライバルとの名シーンを再現するといった内容。


 一見すると原作ファンのみがニヤリできる動画。だがそれは多くのゲーマーの度肝を抜くことになる。


 そのシーンは主人公の虎鉄が、金城の得意技である『ぶっこ抜き』と呼ばれるイカサマをやり返して勝つというもの。


だが、本ゲームにおける虎鉄のスキルは『ぶっこ抜き』ではなく『燕返し』であり、本来であれば再現できないシーンの筈であった。


ではどうしたか。


 答えは至ってシンプルに、スキルではなく人力でイカサマ(・・・・・・・)を行ったのである。


 『それはそうか』と誰もが納得する内容、ただそれは誰もが試していなかった、まさしく盲点であった。


 すぐさま有志による検証が行われ、結果スキルを使わなくともイカサマを行うことが出来ると判明、それによってどんな麻雀ゲームよりも自由の称号を手に入れる。


 そうして瞬く間に『闇雀士 虎鉄』の名は広まっていき、サービスが終了する約七年の間、多くの『闇雀士』に愛され、多くの役満(奇跡)を生み出した馬鹿ゲー(神ゲー)へと昇華したのだった――。


「ありゃ紛うことなきクソゲーだったな」


「分かる。スキルによるイカサマは指摘することでペナルティを与えられるのに、人力のは指摘しても失敗判定になるから本当の『やったもん勝ち』だったもんね」


 口ではボロクソに言う二人も、その表情は楽し気で、同窓会で学生時代の出来事を語り合うような、そんな雰囲気を纏っている。


・そんなゲームあったんだな

・どうしよう、ちょっと面白そうと思う自分がいる

・あれ結構昔の作品だよな?

・レイちゃんは何でそれを知ってるの?


「お母さんが『闇雀士 虎鉄』好きでね。家に漫画全巻あるし、ゲームもその流れでって感じかな」


「へぇ、良い趣味してるな」


 視聴者の言葉に答えれば、ダークレがふっと笑ってレイの対面へと座る。


「さて、俺とも一局遊んでくれるかい?」


「喜んで」


 お互いの顔を見つめ合い、不敵に笑い合った二人がジャラジャラと牌を混ぜ始めれば、残された二人もその勢いにも飲まれるように震える手で牌を混ぜる。


「『この先は地獄だぜ。悪魔が笑う、そんな場所さ』」


「あはっ。『丁度良かった。腹抱えて笑いたい気分だったんだ』」


・なんこれ?

・多分漫画のセリフだろ

・虎鉄VS竜宮寺だな


 ダークレが呟いたセリフに、レイが不敵に笑ってセリフを返す。


 そんな二人だけの異様な空間に、周囲のプレイヤー達もその手を止め卓の周りに集まり出した――まさにその時だった。


「……あ?」


「え?」


 ガチャリとドアを開けて中へと入ってきたのは、サングラスに黒服を着た筋骨隆々な男達。


 SPのような見た目をした彼らにレイは目を丸くし、ダークレが不審そうに目を細めると、先頭にいた黒人がレイの方を見て告げる。


「来い。代表がお呼びだ」


「え、わ、私?」


・ん?

・これは

・まさか、ね


 突然の呼び出しに、レイは困惑の色を強くする。


 ただその胸中には、一体の召喚獣の姿が嫌に濃く残っていた。


[TOPIC]

GAME【『闇雀士 虎鉄』~幻想を掴む者~】

知る人ぞ知る人気麻雀漫画『闇雀士 虎鉄』の舞台を再現したVRゲーム。

ゴーグルの他にグローブも付属しており、リアルな牌の感触を再現するという細かいこだわりを見せていた。

しかし低人数での制作のためか、内容はかなりお粗末な出来をしており、スキルを使うよりも目の前にある牌を堂々と取った方がリスクが少ないという、もはや麻雀の体すら成さないまごうことなき糞ゲーであった。

その後も仕様が修正されることはなく段々と過疎っていく中、残ったプレイヤー達が『露骨なイカサマは行わない』という紳士協定を掲げたことで、最低限楽しめる『イカサマ麻雀ゲーム』として落ち着いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーの馬鹿じゃしん、やらかしたなぁ?
[一言] なるほど、イカサマの積み込みより負けの積み込みの方が早かったと?
[一言] 更新お疲れ様です! なるほど、、そりゃ技術も上がるわけだ、、、 クソゲーで培ったリアルスキルを使う、、あれ? あ、、、じゃしんやらかしやがったなおめぇ!? 更新お待ちしています!
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