3-8 はじめてのぎゃんぶる
なんと、初レビューをいただいてしまいました。
書いてくださった方、ありがとうございます!
「うわぁ」
「ぎゃう~!」
店内に入ったレイは思わず感嘆のため息を溢す。レイの腕の中に捕らえられているじゃしんはその大きな目を目一杯輝かせていた。
「めっちゃ輝いてるね」
・金一色って感じ
・なんか成金のイメージが強い
・まぁ名前にゴールデンがつくくらいだし
レイと視聴者の言葉通り、辺りの壁一面が金色の塗装が施されており、頭上高くに設置されたシャンデリアからの光が反射して、眩しいくらいに輝いていた。
足場に敷かれたレッドカーペットに沿って視線を追っていくと、カジノでよく見られるような緑色の天板をしたテーブルがあったり、レイの身長の倍くらいはありそうな巨大なルーレットの付いた台があったりと、そこまで乗り気ではなかったレイでさえ少しワクワクし始める光景が広がっている。
「ぎゃう!」
「あーダメダメ。私たちはこっち」
そんな中1番目立っているルーレット台に向かおうとレイの腕の中でもがくじゃしん。それを嗜めるように抱え直すと、それとは反対方向の道に向かって歩き始める。
・こっちは何があるの?
・あぁスロットか
・まぁカジノといえばこれよな
コメントでもあるようにレイが向かった先はスロットが並べてあるエリアだった。
その判断に視聴者から納得するような声が上がる。
「えーと、1番安いの……あぁこれかな」
チラチラと台にある設定を確認しながら一周ぐるりと回ると、最低レートである『1コイン1G』のスロットを見つけ、そこにじゃしんを座らせる。
「えーとコインってどう出すんだろ……あぁ、スロットにはないんだ」
入り口であった説明のようにコインの取り出し方を模索していると、我慢のできなくなったじゃしんがレバーをガチャガチャといじる。
すると軽快な音とともにレールが回り始め、レイの所持金から3Gが無くなっていた。
「3Gは3ラインだからかな?じゃしんボタン押していいよ」
「ぎゃう!」
いきなり動き出した機械を前に一瞬驚いたように身を引いたじゃしんだったが、レイの言葉とともに勢いよくボタンを3つ押す。
「はい、残念。まぁそんな簡単に当たらないからね。……そういえばこれって目押しとかあるの?視聴者の中に有識者いる?」
・ないよー
・完全運だった筈
・いや、確か最後は自力で7揃えなきゃいけない筈
「了解、じゃあその時に説明しようかな。とりあえず好きに遊んでいいよ。そこのレバーを下にやってボタンを3つ押す。オーケー?」
「ぎゃう!」
レイの言葉にじゃしんは強く頷くとスロットマシーンを食い入る様に見つめる。今はまだ無垢な目をしているが、すぐに沼に浸かっていきそうだなとレイは何故かそう思った。
◇◆◇◆◇◆
「うん、7だよ。そうそう、この赤い奴。それが止まりそうな所で止めるの……おっ上手い!」
・お、当たった!
・大当たり~
・じゃしんおめ~
「ぎゃう~!」
スロットを開始して約20分後、ようやくの当たりにじゃしんの咆哮がこだまする。そうしてジャラジャラという音とともにレイのGも増えていった。
「使ったのは3000位か。これ戻ってくるかはちょっと微妙だけど……まぁギャンブルなんてそんなもんか」
・レイちゃん結構ドライだね
・リアリスト感ある
・え、デュエリスト!?
レイが自身の持ち金の増減を推測するものの、ウサから貰ったアルバイト代に比べたいした額ではない。そのため必要経費と割り切って視聴者の声に答える。
「まぁあんまり運要素の強いものって信じてないからさ。というよりそうじゃなかったら1番レートが低いのなんかやらないよ」
・それもそうか
・現実的だなぁ
・レイちゃん運悪いもんね
「そうそう、私って運悪いから――ってん?」
視聴者の言葉に、目の前ではしゃぐじゃしんの姿をみながら諦めたように笑うレイ。その時、視界の端にコソコソとどこかへ移動する3人組の男達が見えた。
「あれってどこ行ってると思う?」
・あれ?
・あっちは行ったことないな
・何があるんだろ?
どこか怪しげな3人組が向かう方向には特に有名なゲームがあるわけでもなく、かと言って出口に向かっているという訳ではなかった。それに好奇心が湧いたレイは画面に釘付けになっているじゃしんに声をかける。
「じゃしん、私ちょっと行ってきてもいい?」
「ぎゃう!」
「絶対スロットから動いちゃダメだよ?分かった?」
「ぎゃうぎゃう!」
・こっち見てないけど?
・すんげー生返事だな
・これ大丈夫?
「ん〜、まぁお金に余裕はあるし大丈夫でしょ。じゃ行ってくるね。絶対動かないでよ!」
本当に聞いているのか分からない生返事を前に視聴者から不安の声が上がったものの、このスロットをやっている以上よっぽど大丈夫だろうと判断したレイは先程の3人組の後を追う。
「えーと、確かこっちの方に……あ、いた」
レイが辺りを見渡すと先程の3人組をすぐに見つける。彼らは何やら受付のようなNPCに話しかけるとそのまま奥の扉へと消えていった。
「……怪しくない?」
・怪しい
・凄く……怪しいです……
・怪し過ぎて逆に怪しくない説
「よし、行ってみよう」
明らかに何かある雰囲気にレイは決心すると、先程3人組が話していたディーラー服を着た初老の男性に向けて真っ直ぐ足を進める。
「すいませーん、私もあそこに行きたいんですけど」
「おや、今宵は酔狂な方が多いですねぇ」
声をかけられた男性は一度驚いたような顔をした後、すぐさま笑顔になってレイに向き直る。
「して、お客様はこの先に何があるのかご存知で?」
「え?いや知らないです」
「おやおや」
レイの返答にますます愉快そうに笑みを深めた男性はコホンと咳払いをするとレイに対して説明を始めた。
「では僭越ながら私の方から。あそこにあるのは裏カジノ、とあるプレイヤーがオーナーに認められた証に作った秘密の場所となります。ここで認められている最低限の権利すら存在しない、言わば治外法権のようなもの。行くも行かぬもお客様の自由ですが、当然責任も降りかかってきますよ?」
「プレイヤー……」
説明を聞いたレイが引っかかった単語を口にすると、すかさず男性が口を挟む。
「あぁ、プレイヤーというのは【JackPots】というクランの方だとか。最近できたものなので知らないのも無理はないかと」
・あぁ、最近できたのか
・それよりも今JackPotsって?
・いや八傑じゃん
想定外の名前を聞き、コメント欄がざわつき始める。ただ、レイは動じた素振りを見せることなく男性にお礼を告げた。
「ありがとうございます、じゃあ行ってみますね」
「えぇ、ご健闘を」
最後まで笑顔を崩さなかった男性の横を通り過ぎるとレイは扉を開ける。その先には地下へと続く階段があった。
・え、いくの?
・危険じゃね?
・大丈夫?
「大丈夫でしょ。一応お客様だし、いきなり襲ってきたりしないって」
視聴者の心配の声に強気で返しながらレイは階段を下っていく。そうしてたどり着いた先には現代のビルにあるようなチープなドアがあった。
「じゃあ、いくよ」
改めて視聴者に声をかけたレイは一気にドアノブを回すと中に入る。
「え?」
・これって……
・みたことある風景だな
・雀荘じゃねーか!
ガチャリとドアを開けた先からタバコの匂いがしたと思うとジャラジャラと牌を混ぜる音が響く。
そこには先程の輝かしい世界から一転、まるで地の底のように暗くディープな光景が広がっていた。
[TOPIC]
WORD【スロット】
『ゴールデンマイン』名物の大人気ゲーム。
倍率が異なるスロットが複数台存在し、下から1G、10G、20G、100G、500Gが存在する。
因みに最大倍率を当てた者はおらず、もしかしたら出ないのでは…との噂も。




