3-2 メンテ明け後の初配信
【レイちゃんねる】
【第10回 謝罪会見】
「皆様、本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます」
・こん~
・わこつ
・わこ……って何事?w
・いやあれしかないでしょ
配信が始まるや否やレイとじゃしんは横に並び、カメラに向かって正座をしながら真剣な表情で佇んでいた。その様子に視聴者達は一瞬困惑するもすぐにその状況を把握する。
「今回、私の召喚獣、じゃしんによって皆様に多大な迷惑をおかけしたことをここにお詫び申し上げます」
・やっぱレイちゃんだったのか
・パシャパシャ!
・どういうつもりだー!
・こっちにも視線くださーい!
レイとじゃしんが頭を下げると視聴者からそれを揶揄うような非難コメントが出る。それを目にしたレイは恭しく返答した。
「おっしゃる通りです。誠に、誠に申し訳ございませんでした……うぅっ」
そう言ってレイは目元を手で押さえて泣く素振りを見せる。隣にいたじゃしんはそれに寄り添うように肩に手を置いた。
・いや棒読み過ぎるw
・本当に反省してるの?
・ネタにしてない?w
「え?そうだよ?」
しかしその余りに芝居がかった演技に視聴者から突っ込みが入った途端、レイはケロッとした表情で開き直る。
「そりゃ悪いとは思ってるけど。でもこんな仕様にした運営の方が責任大きいでしょ。そもそもこの子を押し付けてきたのも運営だし、私もある意味被害者なのでは?」
・それはそう
・結論、じゃしんと運営が悪い
・それも正解
「ぎゃう!?」
ほとんどの視聴者がそれに同調するようなコメントをしてレイが安堵する一方で、一部のコメントに驚愕とも絶望とも取れる表情をして膝から崩れ落ちるじゃしん。
「まぁじゃしんもある意味被害者なんじゃない?とりあえず、メンテにさせちゃったのは本当にごめんなさい。でももう仕様修正もきたんだからこの話はおしまいってことでよろしく」
・ほーい
・許した!
・許されるわけないだろ
・引退しろゴミ
ごく一部に荒らしとも取れるような批判コメントは残っているもののすぐにコメントが削除されていくため、これ以上拾う必要のないと感じたレイはそれを無視して違う話題を拾う。
・レイちゃんアプデの情報見たの?
「勿論見たよ。確かこのバナーにあったはず……これこれっと」
レイはウィンドウを操作して運営からの連絡を開くと、視聴者に見えるように展開する。
『今回のアップデートについて
皆さんこんにちは、Tale of Yours Onlineプロデューサー兼ディレクターの夏目です。
まずは今回の緊急メンテナンスについて説明させていただきます。
今回のワールドクエストにて発生した特殊状態異常【狂化感染】がNPCにまで影響を及ぼしてしまった件ですが、本来であればキーロに辿り着く前にデスポーンする、もしくはイベントキャラによって回復される予定でした。
しかし運営の意図とは異なり、そのどちらもトリガーになることなく【狂化感染】状態が街まで運ばれてしまいました。
今回の件について我々の認識不足であったことは疑いようがありません。プレイヤーの皆様に多大な迷惑をかけてしまったことを深くお詫び申し上げます』
・本来の意図とは異なるねぇ……
・ガバガバ過ぎるだろ
・てかそもそもなんでトリガーにならなかったんだ?
「多分じゃしんだったってのと、ラッキーがたくさん働きすぎたせいかな。MP切れかなんかじゃなかったけ、眠くなるのって」
視聴者から呆れたような突っ込みコメントが入り、レイはそれを補足するように説明を入れると、続きを読み始める。
『今後の展開を考えた結果、新規ユーザーにあまりに不利な状況になる可能性が高く、また既存ユーザーにとってもプラスになる要因がありませんのでロールバックという措置を取らせていただきました。
同時に再発防止のため【感染】状態については敵対MOB及びNPCにのみ感染し、NPCからNPCへの感染を行わないように調整いたしました』
・ん?
・えっと大丈夫かこれ?
・なんか漏れてそう……
「分かる、なんか怖い調整だよね。いっそ消せばいいのにって思うけどワールドクエスト関連だから無理なのかな」
説明に書いてある、いかにも応急処置的な対応にレイは首を捻る。そもそもの定義が曖昧過ぎて何か悪用できそうな気がしないでもないが、まぁ私には関係ないかとレイは気にしないことにした。
『また、バランス調整という面でクールタイムの実装を試験的に行います。現状一部の強力なユニークスキルが猛威を振るい、中堅、新規のユーザーとの差が縮まりにくいという問題が発生しており、様々なスキルにスポットライトを当てるという意味でも価値のある試みだと運営は考えています』
「これ、だよなぁ……」
・レイちゃんにとってはマイナスだよね
・セブンもキレてた
・実際、賛否両論だけど、確実に燃えていることは確か
「掲示板とか酷かったよね……まぁこれは後で確認するとして、最後まで読んじゃおうか」
自身に一番関係のありそうな事柄にレイは頭を悩ませる。これによって今後の状況がかなり変わるため、レイにとっては死活問題でもあったが、文量もあと少しのためとりあえず最後まで読むことを優先する。
『最後に、今回の補填として全プレイヤーに【SKILLチケット】を1枚配布いたします。
今後もToYの世界をお楽しみ頂けますよう、よろしくお願い致します
Tale of Yours Onlineプロデューサー兼ディレクター 夏目 賢司』
・報酬しょぼい
・よろしくって煽ってんのか?
・これは無能運営
・夏目賢司ね。覚えたわ
「まぁこんなもんでしょ。……さて」
不満を漏らすコメント欄を宥めつつもレイは一度ため息を零す。彼女がプロデューサーレターを見た時から一番気が気でなかったのが先ほどのクールタイムだった。
現状『ToY』を辞めるつもりは毛頭ないが、どう考えてもマイナスでしかない以上、できれば確認したくないとすら思っていたが見ないという訳にも行かず、覚悟を決めるとウィンドウを操作する。
「じゃあいくよ」
「ぎゃ、ぎゃう」
・ごくり
・おけ
・さて……
レイは緊張した面持ちでメニュー画面から自身のステータスを開く。一緒に見ているじゃしんも視聴者も同様に緊張しているようだった。
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NAME レイ
MAIN 【邪教徒Lv.3】
SUB 【召喚士Lv.3】
HP 50/50
MP 150/150(50+100)
腕力 10
耐久 10
敏捷 60(10+50)
知性 10
技量 10
信仰 600((150*2)+100+200)
SKILL 【邪ナル教典】【懐柔】【アポート】
SP【敬虔ナル信徒】【自己犠牲】【通過儀礼】【両利き】
BP 0pt
称号 【月光組織の一員】【聖獣の良き隣人】
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NAME じゃしん
TRIBE【神種Lv.3】
HP 666/666
MP 666/666
腕力 666
耐久 666
敏捷 666
知性 666
技量 666
信仰 666
SKILL【じゃしん結界】【じゃしん賛歌】【じゃしん捜査】
SP【別世界ノ住人】
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「増えたスキルは4つ……じゃあ見ていくよ」
一通り眺めたレイは覚悟を決めるように一度生唾を飲み込むと、真剣な表情でスキルを一つ一つ確認していった。
[TOPIC]
WORD【クールタイム】
攻撃や行動を行った後、次に同じ行動をとれるまでの待ち時間のこと。
例えば、とある必殺技で攻撃した後、次に同じ必殺技を使える様になるまでの時間をさす。
――オンラインゲーム用語集より抜粋




