2-42 死を孕む病の群れ⑥
そして周囲を包んだ黒い光は【邪ナル教典】へと収束する。
次第に明らかになる全貌へと、レイが改めて目を向ければ、レイの手元にある本は真っ黒の表紙に金色のベルトが施されており、なにやら意志を示すようにガタガタと揺れている。
「開けるの怖いな……」
それを不気味に思いながらも、レイがそのベルトを外す。すると、小口の部分がギザギザに割れ、パカっと口を開くように勢いよく広がった。
「ん~!よく寝たァ!あ、ご主人様おはようございやァす!」
「え、あぁおはよう……?」
突如喋りだした本による陽気な第一声に、レイは二重の意味で困惑する。
「こんな可愛らしい方がご主人とは今回はついてますなァ!あ、じゃしん様もいらっしゃる!お久しぶりですねェ!」
「ぎゃう~」
そんなレイの様子に構わず、レイの手から離れた本は、表表紙を上にして一人でに浮き出ると、喧しく言葉を続ける。
そして器用にお辞儀して見せると、それを受けたじゃしんはその存在を知っているのか、『よっ』と気軽に挨拶するように手を上げていた。
「あっちの賢そうなお方は?……あ、敵?すいやせん、じゃさっきの無しで。おうこらァ!何見とんじゃワレィ!」
「な、何なんだソイツは?」
視線――と言っても目はないため向きをそっちに向けただけだが、本はニエンテに向かって噛みつき始めると、標的になった本人もどうしていいか分からず困惑していた。
「あっしの名前はイビル・イブル!こちらにおわすじゃしん様の素晴らしさを後世に残すために!そしてお前等みたいな邪魔者を排除するためにご主人様に力を与えるナイスガイでさァ!」
「ねぇ、危ないからあんまり暴れないでくれる?」
「おっと、すいやせェん!」
バタバタと周囲を飛び回るイブルに対して、レイはどこか冷めた目で見つめる。
二人の暢気なやり取りを見て少し冷静さを取り戻したのか、ニエンテは一呼吸を置くと眼鏡の位置を直して鋭い視線を向けた。
「少し驚きはしたが……。どうやらたかが知れているようだ」
「「%#&D$(Tgュ!!!」」
ニエンテの声と共に【ハカアラシ】が行動を再開する。
それによって結局状況が好転してないことを思い出したレイは、【ハカアラシ】から距離を取りつつイブルへと問いかけた。
「それで、イブルだっけ!?君は何ができるの!?」
「あー、今は何もできないですねェ」
「はぁ!?」
どうしようもなく役立たずな回答にレイが大声を出すと、イブルは否定するようにカパカパと口を開いた。
「違います違います!条件があるんでさァ!」
「条件?」
慌てたように説明するイブルの言葉にレイは眉根を寄せる。
「はい! あっしが使う【邪法】は生贄に捧げたアイテムによって使える力が変わるんです! ですので、まずは何かアイテムをいただけないと!」
「アイテムを生贄?」
内容を聞いても深くは理解できなかったが、表面上だけの情報を読み取ると強力そうな効果に胸を躍らせたレイ。
「それってどうやるの?」
「あっしに食べさせてくれるだけでオッケーッス!ただアイテムは無くなっちまいますがね」
「えっ、じゃあ……」
ただ続けられた『無くなる』という単語にレイは二の足を踏んでしまう。取り敢えずいつでも入手できるようなアイテムを選択して試すことに決めた。
「じゃあ取り敢えず【ハイポーション】を――」
「あ、因みに今は一回しか出来ません。強力な効果にしたいのであればそれ相応の強いアイテムを食べさせてくだせェ」
「はぁ?なんて贅沢なって危なぁ!?」
しかしそれもイブルによって釘を刺されため改めて他のアイテムを探そうとするも、肉薄してくる【ハカアラシ】によって満足に行うことが出来ない。
「ちょっと見てる余裕ないから勝手に1番強い奴選んで!」
「いいんですか!?じゃあこれにしまさァ!」
「あ、それは!」
苦肉の策としてイブルに声をかけ自由に選択させることにする――が、それが失敗だった。
「いただきやァす!」
よりにもよってイブルが選択したのは【召喚の石板】だった。セブンから貰った思い入れの深いアイテムが突如として目の前に現れると、バリバリとイブルの口でかみ砕かれながら吸い込まれていく。
「うーん、ごちそうさまでしたァ!」
「ああぁ……」
非常に満足そうな声音で話すイブルと対照的に悲痛な声を上げるレイ。ただ今回はそれだけでは終わらず、レイの耳にアナウンスが聞こえてきた。
[SKILL【邪法:簡易召喚】を取得しました]
「……ん?これってもしかして召喚板なくても召喚できるってこと?」
「そういうことでさァ!」
「マジで!?めっちゃ有能じゃん!」
そのアナウンスを聞いたレイは顔を上げて問いかける。それに対してイブルは自信満々に答え、その返答に落ち込んでいたレイのテンションが元に戻った。
「しかも必要な素材は1つだけ!時間制限があるっスけどそれが終わればアイテムも返ってくるんすわ!どうです、強そうでしょう!」
「めっちゃ強そう!でも制限時間ってどれくらい?」
「3分っス」
「短かっ」
残念ながらいい事ばかりではなかったようでちゃんとした制限もあるようだった。イブルは注意事項についてさらに続けた。
「あ、それと【邪法】はじゃしん様のMPを使って使用するのでご注意を」
「なるほど。因みに【簡易召喚】はどれくらい?」
「1000ですね。足りない分はHPから拝借させて頂きやす」
「ぎゃう!?」
「まぁそれは問題ないか」
「ぎゃう!?!?」
レイとイブルのやり取りにじゃしんが驚愕の表情を向けていたような気もするが、彼女にとっては些細な問題のため無視して話を進めた。
「うし、じゃあやってみよう!」
「了解でさァ。ではこちらから使用するアイテムをどうぞ!」
イブルがそう言うとレイの視界の前にリストが表示される。【ハカアラシ】が迫りくる中、それを猛スピードでスクロールしていくと、とあるアイテムでレイの目が止まった。
「……これってさ、返ってくるんだよね?」
「もちろんでさァ!」
念のためレイが確認をとるとイブルからは肯定の返事が返ってくる。それを聞いてレイは使用するアイテムを決めた。
「うん、じゃあこれしかないね!これでいこう!」
「了解でさァ! 【邪法:簡易召喚】発動、触媒は【卯の紋章】!」
「何だとッ!?」
イブルの宣言した言葉にニエンテは驚愕の表情を浮かべる。そしてレイと【ハカアラシ】の間に黒色の魔法陣が地面に浮き上がると、雷と共に何かが召喚される。
「ア?ココハドコダ?」
召喚された人型の何かは飛び込んできた【ハカアラシ】をそれぞれ片手で止めながらも困惑した声を出す。その姿を見たレイは嬉しそうに声をかけた。
「予想通り!よく来たねレド!」
「ソノ声ハ……レイカ?」
声をかけられたレドはくるりと振り返るとレイを視界に収める。召喚されたのはかつてともに肩を並べた赤い兎だった。
[TOPIC]
WEAPON【邪ナル教典】
その教えは『尊キ御方』の心そのものであり、そのページは『尊キ御方』を讃えるためにある。
要求値:<信仰> 200over
変化値:<信仰>+100
効果①:邪法を使用可能(スロット:1)
【邪法】α:SKILL【邪法:簡易召喚】




