2-38 死を孕む病の群れ②
「おーいキリュウ!」
「おう、『渡り鳥』か」
中央ステージを離れたレイは取り敢えず知り合いのいる場所にと考え、【鬼流組】が担当している北西通りを訪れていた。
「あれ?なんか余裕そうだね」
「おう、うちは全員が火属性持ちだからな。役割としては適任だろうよ」
「ヒャッハー!」
「汚物は消毒だぜぇ!」
そう言いながらキリュウは前線で暴れているモヒカン達を親指で指す。まるで世紀末のようなハイテンションで銃器から火柱を上げる彼らに、レイは頼もしく感じつつも苦笑いをした。
「楽しんでるなぁ」
「それにウサ嬢も控えてるからな。ここが崩壊することはまずないだろうよ」
「ぶい」
「……あー、ウサ達もここだったんだ」
キリュウがウサの名前を出すといつものようにどこからかウサが現れる。すっかり慣れてしまったレイがあまり反応を見せないでいると、ウサはすねるように口を尖らせた。
「反応が薄い」
「はは、いつまでも同じ手にはかからないって」
「あ、いた!レイさーん!」
そんなウサと話をしているレイに対して背後からその名を呼ぶ声が聞こえる。振り返るとそこには中性的な美少年――ぺけ丸がいた。
「ぺけ丸じゃん。どうしたのここまで?」
「装備が完成したので届けに来ました!」
「えっもう?」
想定以上に早い仕事にレイが驚いていると、ぺけ丸は笑顔でウィンドウを操作し始める。
「はい!設計図自体は既に作ってあったので!こちらをどうぞ!」
逸る気持ちを隠せないぺけ丸がまるでしっぽを振る犬のように思えながらも、レイは渡されたアイテムを受け取ってその効果を確認する。
ARMOR【星空の修道女】
神に愛され、その身を誓った少女のみが纏うことを許されるドレス。その姿は満天の星にも負けない程鮮やかで、舞踏会に臨む淑女のようであった。
要求値:〈信仰〉300over
上昇値:〈MP〉+100,〈信仰〉+200,〈敏捷〉+50
効果①:与えたダメージに応じてMPとHPを回復(10%)
「いやつっよ」
その効果に思わず真顔で驚きの声が漏れるレイ。初期装備しか比較対象がないレイでも、その装備が途轍もない性能をしていると分かった。
「え?これ本当に貰っていいの?」
「勿論です!レイさんのために作ったので!その代わりと言っては何ですが……」
レイの確認に大きく何度も頷いたぺけ丸だったが、急にもじもじと体を揺らし始める。
「えっと、あんまり変なことはしないよ?」
「いえ!そのぉ……装備をつけた状態で一緒に写真を撮ってほしいな~なんて」
一度は訝し気な目を向けたレイだったが、ぺけ丸の邪心のなさすぎるお願いに一瞬呆気に取られると、すぐにお腹を押さえながら大笑いする。
「はははっ、オッケーオッケー!そんなことで良いならいつでも!あ、早速着てみてもいい?」
「やった!はい!どうぞ!」
ぺけ丸から許可を得たレイはウィンドウより装備を選択する。
それが終わるとレイの全身は以前のステージ上と同じドレスのような修道服姿となり、一度くるりと回って見せるとぺけ丸にウィンクをした。
「どう?似合ってる?」
「は、ははは、はいぃ!」
「ぎゃう!」
「なぁ遊んでるところ悪いんだがちょっといいか?」
レイのサービスによって顔を真っ赤にしたぺけ丸をじゃしんが肘でこのこの~と小突いていると、レイの背後からキリュウがぬっと顔を出す。
「どうやら東通りの戦線がボロボロらしい。至急応援求むとのことだ」
「東?担当って誰だっけ?」
「セブンが暴れてたから特にない。当の本人は疲れたから休憩だとよ」
「あー、なんか納得出来ちゃうのがすごいよね……」
キリュウの言葉にレイはあははと乾いた笑みを浮かべる。大好きで憧れの人物ではあるのだが、相変わらず自分勝手な人だなと改めて感じていた。
「んで、ここは俺達だけで何とかなりそうだから、ウサ嬢と『渡り鳥』はフォローに行ってくれ」
「ん、了解。ということで、悪いけど写真は今度でいいかな?」
「はい!いってらっしゃいませ!」
ぺけ丸にそう断りを入れながらも、ウサを引き連れてEエリアに向かう。その足取りは普段よりも幾分か軽かった。
◇◆◇◆◇◆
「ぎゃう!ぎゃう~!」
「じゃしんあんまり前でないで!邪魔だから!」
「しゃーくん、お願い」
東通りに辿り着いたレイとウサは近過ぎず遠過ぎない距離をキープしながらも各々の持てる力で【ハカアラシ】を処理していた。
「にしても多いね……いつまで続くんだろ」
「本当に」
かれこれ十数分は同じ作業を繰り返しており、その作業ともいうべく戦闘は未だに終わりが見えることはない。
いくら『きょうじん』と呼ばれるレイと表情が出ないウサと言えど、その表情にはうっすら疲労の色が浮かんでいた。
「北通り感染者多数!繰り返す!北通り感染者多数!手が空いてる奴はいないか!」
「そんなのいないっての!」
「ぎゃうっ!」
他エリアも押されつつあるという、聞きたくもない報告に悪態をつくと、突撃しようとするじゃしんの首根っこを押さえながら銃のトリガーを引くレイ。
「このままじゃじり貧だね……。誰かが何とかしないと」
「そういえば、じゃしんは【感染】しても平気? さっき噛まれていた」
「ぎゃう?」
ずっとじゃしんを気にした素振りを見せるレイの様子に、隣で見ていたウサが疑問を投げかける。
「ん? あぁそれは周りに移るかもしれないからなるべくね。【感染】はHPが0になることがトリガーらしいから、HPが減らないじゃしんは問題ないよ。現に、前になった時も平然としてた――」
じゃしんの様子をちらりと見てそう説明したレイだったが、自分の言葉に違和感を覚え、思わず口を噤む。
「レイ?」
「待って、前? 前は確かラッキーが……じゃあ今回は? 全く関係ない? いやいやそんな馬鹿な……」
心配そうに顔を覗き込むウサを手で制しながら、その違和感の原因を探るために思考の中へと没頭していく。
「そっか、そうだよ、前のワールドクエストの時もお助けキャラはいた。じゃあ今回もいておかしくないし、クエストが発生する段階で誰かが会ってる筈!」
そうして彼女しか知りえない情報を頭の中で整理していくと、やがてレイはとある推論へと辿り着いた。
「ウサ、ごめん!ちょっと行ってくる!」
「うん、気を付けて」
それだけ言って何も聞かずに送り出してくれるウサに少し嬉しくなりながらも、レイは最悪の状況を打開すべく中央広場に向けて走り出した。
[TOPIC]
WEAPON【実践型最終機密兵器・グレイテストバーナー】
太古の時代の戦争で投入された実践兵器。それを用いた部隊の後には何も残らず、焦げた匂いが充満した。
要求値:<技量>600over
変化値:-
効果①:火属性の継続ダメージ(〈技量〉×0.8dmg)




