2-36 結果発表
『皆様、大変長らくお待たせいたしました!料理部門のコンテストの表彰を行います!』
中央ステージ上に立つ司会役のムーシーがマイクを握りながら声を張り上げる。それに対して待ってましたと言わんばかりに歓声が湧き上がった。
「すごい人の数ですね」
「ね。それでもスペースはまだありそうだけど」
ミツミの言葉に辺りを見渡したレイは頷きながら答える。中央広場には万を優に超える人数が存在しているようで、祭りが終わった影響かその中にはプレイヤーのみならずNPCの姿も見えた。
「緊張してきました……」
「ぎゃう!」
「もきゅ!もきゅ!」
ムーシーの開始の合図を聞いたミツミは不安そうに眉を寄せる。それを励ますようにじゃしんとラッキーがその肩にくっついた。
『初日に申し上げた通り、料理部門では投票ポイントに加え、三日間の売り上げもポイントとして計算致します!その計算方法は至ってシンプル!1万Gにつき1ポイント!』
「ってことは私達は大体3000票プラスからスタートってことか」
「参加してるアクティブプレイヤーが1万って話だから大幅に優位なのは確かだな」
ポイントの説明を聞いてレイが呟くと、腕を組みながら後方に立っていたリボッタが補足する。その表情は心なしかいつもより強張っていた。
「あれ?リボッタも緊張してんの?意外と小心者なんだね」
「いや、コイツは見た目からしても小悪党って感じだろ」
「……うるせぇ」
珍しい様子のリボッタににやにやと笑いながらレイとキリュウが揶揄う言葉を入れると、照れるように顔を背ける。
『さぁ皆様準備はよろしいでしょうか!それでは10位から発表を始めたいと思います!第10位――』
そうこうしていると本格的に順位発表が開始され始め、対象プレイヤーがステージに上がっていく。
「ぎゃうう……」
名前が呼ばれていくと先ほどまでからかっていたレイも少しずつ緊張し始める。そんな時、呻き声が聞こえたので隣を見てみると、ミツミに抱きかかえられたじゃしんが苦悶の表情を浮かべていた。
「ミツミちゃん、じゃしんが潰れちゃうから緩めてあげて」
「え?あっごめんね!」
「ぎゃう~」
じゃしんに気付いたミツミが慌てて手を緩めると、『助かった』と言わんばかりにぐで~とその場で脱力する。
「やっぱり緊張する?」
「は、はい……。でも。どこか楽しみでもあるんです。もしかしたらって」
「へぇ、そっか。そうだよね」
「そうっすよ!」
そう言ってどこか期待するようなミツミの瞳。そこには先ほどのような、不安に押し潰されそうになっている姿はない。
それを見たレイが安心したように同調すると、モヒカン姿に戻った【鬼流組】の面々がそれに同調する。
「俺達も頑張ったんすよ?絶対勝てますって!」
「そうだそうだ!」
「兄貴なんか着ぐるみまでしたんですよ!」
「おい、うるせぇぞ。……まぁそうだな、お前は頑張ったよ」
この3日間、苦楽を共にしたメンバー達がミツミに思い思いの言葉をかける。それからレイはウィンドウを操作するとコメント欄をミツミに見せた。
・そうだよー!
・絶対勝てる!
・めっちゃ頑張ったもんね!
「皆さん……」
「さっきも言ってたじゃん、全力を尽くしたってさ。だったら負けるわけないよね?」
レイはそう言うとミツミの肩に手を置く。その力強い子よ場にミツミは顔を輝かせ、元気良く頷く。
「はいっ!」
「そうそう!優勝コメントとか考えとこーよ!」
その笑顔に、レイも軽口を叩きつつ一緒になって笑う。
そんな中、一際大きな拍手が巻き起こる。どうやら発表も佳境に入ったようで、彼女達だけでなく、会場のボルテージも次第に高まっているようだった。
『以上、4位の『春眠帝』でした!続いて3位……といきたいところですが』
「え?」
「おっと」
「ぎゃう?」
「もきゅ?」
TOP3の発表の前に、ステージ上のムーシーがパチンと指を鳴らす。すると、ミツミの周辺が輝きだし、瞬きの間にステージ上へと転移される。
『今お呼びしたのは3位以上のプレイヤーの方々です!そして次に発表するのはグランプリ優勝者!』
どうやらレイ達はその移動に巻き込まれたようで、一際大きい歓声が鳴り響く中、辺りを見渡すとステージ上には他にアイとピエロの姿が見えた。
「あれか、手を置いてたからか。すぐ降り――」
レイがそう申し出ようとすると、その裾をミツミが離さない様に強く握っている。その事に気付いて困った様に笑うとムーシーに問いかける。
「あの、私もここにいていいですか?」
『別に構いませんよー!それではこれで正真正銘最後です!皆様盛り上がる準備は出来ていますかー!』
「あの」
思いの外あっさり認められたことにレイは拍子抜けする。そこに隣にいたアイが話しかけてきた。
「何?」
「あ、あなたじゃないです。そっちの子に」
「わ、私ですか?」
レイの普通の声に酷く怯えながらもミツミを指差すアイ。そのまま腰を深く折るとミツミに向かって謝罪をした。
「ごめんなさい。私が間違ってました」
「え?」
「どうして……」
「別に。私なりのケジメです。間違ってたのに認めないのなんてカッコ悪いじゃないですか」
顔を上げたアイは不貞腐れた子供の様に頬を膨らませていたが、その言葉には嘘は見られない。
「ふーん、ちょっと見直したよ」
・ねぇ、なんかあったの?
・嫌がらせしようとしてたよね?
・喧嘩?
「うん、まぁそんな所。もう解決したから気にしないでいいよ」
その姿勢に感心した様に呟いていたレイへと視聴者から疑問の声を上がる。それに対して誤魔化すように曖昧に答えていると、隣にいたアイが思い出した様にミツミに声をかけた。
「あぁ、それと。先に言っておきますよ。おめでとうございます」
「? どういう――」
『――発表します!グランプリは!総合6432ptを獲得した【七色マカロン】!プレイヤーはミツミ!』
ミツミがその意味を問う前に。
ミツミへとスポットライトが当たり、両サイドのモニターに呆然とした表情のミツミが映る。
そして一瞬遅れた後、鼓膜が破れると思うような歓声がステージ下から沸き上がった。
「ぎゃう!ぎゃう!」
「もきゅー!」
一足先に状況を理解したじゃしんとラッキーがミツミに飛びつく。そうして当の本人も次第に自覚してきたようで、感極まるように瞳を潤ませる。
「おめでとう。だから言ったでしょ、勝てるって」
「レイさん……!」
レイの祝福の言葉に涙を浮かべたミツミが振り返る。そこへマイクを持ったムーシーが声をかけた。
『それでは優勝者のミツミさん、コメントをどうぞ!』
「えっコメントですか?その……」
突然渡されたバトンに困惑しながらも思いの丈をぽつりぽつりと話し始めるミツミ。
「わ、私一人ではここに来れなかったと思います。ここにいるレイさんを始め、協力してくれた皆や購入してくれた方達、あとは、競い合った他の参加者の皆さん。その全員のおかげで、ここに……。えっと、上手く言えないんですけど、とっても楽しかったです!ありがとうございましたっ!」
しどろもどろで纏まらないながらも、十分に気持ちの籠った少女の言葉。それに対して、再び割れんばかりの拍手が巻き起こる。
こうして、微笑ましい少女の言葉や涙とともにキーロクリエイティブフェスタは幕を下ろす。――そう、その場にいる誰もが思っていた。
ドドドッ……
「ん?なんだ?」
「一体何が……!?」
「おい!門の方から何か来てないか!?」
「こっちからも来てるぞ!」
突如、地震のような揺れが起きる。
その振動と共に周囲から地響きの様な足音が聞こえ始め、異変に気が付いたプレイヤーが通路を指差しながら叫ぶ。
そこからは黒い生き物の大群が我先にと中央広場を目指して突き進んでおり、他の七つの通路からも同じ光景が窺えた。
「あれは……【ハカアラシ】?しかもあの時の……ッ!?」
レイが注視すれば、その姿が以前目撃した時と同じように、目を血走らせた状態だと分かる。それを認識した瞬間、余りにも想定外すぎるウィンドウが目の前に表示された。
[ワールドクエスト]
【死を孕む病の群れ】
・キーロの街の住人を救う
・報酬:???
※ワールドクエストが発生しました。これよりクエスト完了まで配信は出来なくなります。
祭りはまだ、終わらない。
[TOPIC]
PLAYER【アイ】
身長:155cm
体重:わたあめより軽い
好きなもの:アイドル、歌、ダンス
アイドルらしい、猫目の可愛らしい少女。
幼い頃、テレビで見たアイドルを好きになり、そこから可愛い服や仕草、ダンスや歌を鍛えてアイドルとなった努力家。
世の中の酸いも甘いもを経験したためか、強かでかなり擦れた性格をしている。ただ完全に腐りきっているわけではなく、内に秘めた理想の自分を目指し、ファンを大切にしたり、任された作業には真摯に取り組む。




