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2-35 楽しまなきゃ損でしょ!


「完売しました!【虹色マカロン】完売でーす!」


 キーロクリエイティブフェスタ最終日、最後のひとつとなったマカロンを手渡すと、赤髪のホストが未だ列を作っているプレイヤーに向けて笑顔で宣言する。


「うぇ、マジかぁ」


「もう一個欲しかったのになぁ……」


「俺なんか手に入れれてすらないんだぞ?」


 外にいたプレイヤー達は名残惜しそうな、残念がった表情をしたものの最後には笑顔で拍手をして健闘を称えていた。


「たくさんの応援ありがとうございました!今日の投票もよろしくね!ほら、ミツミちゃんも」


「は、はい!みなさん本当にありがとうございましたっ!」


 レイがその拍手に応えつつミツミを前に出すと、相変わらず緊張した表情を浮かべながら大きくお辞儀をして感謝を述べる。


「おつかれー!」


「最高だったよー!」


「絶対投票するからなー!」


 その場にいたほぼすべてのプレイヤーから称賛の言葉を浴びて恐縮しながらも、ミツミはようやくホッと一息つけたようだった。


「んで、どんな感じ?勝てそう」


「正直分からん」


 店先でミツミがプレイヤーと談話している中、レイは店内にいたリボッタに話しかける。


「分かんないってどうなのさ?」


「しょうがねぇだろ。分かんねぇもんは分かんねぇんだから。ただ……」


 半眼で見つめるレイに対して、何を言ってるんだといった呆れた表情をしたリボッタだったが、ウィンドウを操作するとレイにその画面を見せる。


「一、十、百…大体、3000万Gか、これって高いの?」


「おう、ダントツだな。正直8割売れれば全然戦えたからこんだけ伸びれば十分優勝が見える。大した子だよ、彼女は」


 レイの質問にニヤリと笑って答えたリボッタは、店先でたくさんの人に囲まれて慌てているミツミの方を見る。


「でしょ?私についてきて正解だった?」


「それはまだだな。投票はどうしようもない部分もあるし、お前の人気勝負みたいな所もある」


「大丈夫だろ、昨日ライバルにとてつもない()かけてきたしな」


 悪戯小僧のようなにやにやとした顔で語りかけるレイを、肩をすくめながら適当にあしらうリボッタ。そこにスーツ姿に戻ったキリュウが笑いながら話に加わる。


「いやあれは不可抗力でしょ!キリュウもやってたじゃん!」


「お前が心当たりあるとか言ったからな」


・言ってた

・しかもめっちゃキメ顔で

・相手次第かな(キリッ)


「……ま、まぁあれは相手にも非があったしどっちも悪いで決着したじゃん。それよりあの事件なんだったんだろうね~」


 視聴者とキリュウの揶揄うような発言にうっと言葉を詰まらせるレイ。そのまま分が悪いと感じたのか、露骨に話題を切り替えて話を逸らす。


「それもそうだけどよ、お前はアレ(・・)を早く何とかしろ」


「アレ?」


 ため息を吐いたキリュウが指を指した方向を見ると、そこには部屋の隅で床にのの字を書くじゃしんの姿があった。


「あっ、完全に忘れてた」


・レイちゃん本気…?

・昨日の昼からだよね

・かわいそう…

・平常運転と言えば平常運転だけどな


「ちなみにお前らが意味のない報復を行ってる間、一回戻ってきてまた移動販売してたからな」


「うっ……」


 つい漏れ出た呟きに非難のコメントが上がり、リボッタからは言いつけ通り作業をしていたことを初めて聞かされたことで、ようやく完全にやらかしたことをレイは悟る。


「えっと……じゃしん~?」


「ぎゃう……」


 レイが罪悪感全開で恐る恐る声をかけると、じゃしんは一瞥してやさぐれた声で返事するだけで、すぐにのの字を書く作業に戻る。


・これは…

・相当怒ってますね

・拗ねた子供みたいだな


「あー!ごめんごめん!今回ばかりは完全に私が悪かったっ!」


 コメント通り完全に拗ねている様子のじゃしんにレイは平身低頭で平謝りをする。


「何でもいうこと聞くからさ!あ、そうだ!これから街に遊びに行こうよ!何でも買ってあげる!」


「ぎゃう……?」


 その言葉にじゃしんはこちらを振り向く事はなかったが、その耳と尻尾が我慢出来ずにピクピクと動いており、レイはこのチャンスを逃さないと言わんばかりに畳み掛ける。


「ほら、ミツミちゃんとラッキーも誘ってさ!リボッタ、いいよね?」


「あぁ、もう出来ることもねぇし問題ないぞ」


「よし、じゃあ早速行こう!ミツミちゃーん!」


 リボッタの許可を得たレイは大声でミツミを呼ぶ。そうして彼女はじゃしん達を引き連れ、最後の盛り上がりを見せる街へと駆け出していった。


 ◇◆◇◆◇◆


「それではこちらをご覧ください!」


 中央ステージのすぐ近く、現在最も人が集まっている中でクラン【奇面族】が何やら大掛かりな機械を持ち出して人を呼び込んでいた。


「こちらは【奇面族】お手製びっくりどっきり装置、その名も【シャボンdeワールド】!」


 大声で説明するピエロの男は懐からショートケーキを取り出す。


「こちらは何の変哲もないただのショートケーキ、で、す、が!この装置に入れるととってもとっても不思議なことが起きるんです!」


 そう言うと手に持っていたショートケーキを電子レンジのような扉の中にしまい、その横にあったボタンを押す。


 直後にガコンガコンと機械が振動すると、上空に繋がるパイプ状の筒から大量のシャボン玉が噴き出た。


「ぎゃう!?」


「もきゅー!?」


 その光景にマスコット達は目を見開いて驚いた表情を見せ、それを手に取るために辺りを走り回る。


「これだけではありません!抵抗があるかもしれませんがぜひ舐めてみてください!」


「な、舐める……」


 その説明を聞いたミツミが宙に浮くシャボン玉を手のひらに乗せて恐る恐る舐めると、目を輝かせながら興奮した様子でレイの袖を引く。


「レイさん!これ甘いですよ!」


「……本当だ、ショートケーキの味?」


 同じようにシャボン玉を舐めたレイも驚いた声を出す。そこにタイミング良くピエロから説明が入った。


「驚いていただけましたでしょうか?【シャボンdeワールド】は料理アイテムをシャボン玉状にして周囲に散布出来るのです!」


 身振り手振りを使いながらピエロは大袈裟に、かつ視覚的に楽しい動きで装置の説明をする。


「そのシャボン玉は元々持っていた味、効果全てを反映できます!残念ながら見た目と口当たりは再現できませんが、それでも攻略にも使用できる有能な装置だとは思いませんか!」


 演説が上手いのかピエロの言葉におぉ、と感心したように周囲からどよめきが聞こえる。


「これからも我々は強く、楽しく、驚くアイテムを作り続けることを約束します!我々の未来に期待していただける方は是非是非、投票をお願いしまーす!」


 最後にピエロの礼をすれば、それ合わせてパンっと紙吹雪が舞う。やがて周りからは割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。


「いやー面白かったね!」


「はいっ!」


「ぎゃう!」


「もきゅ!」


 【奇面族】の催しを見たレイ一行は人混みを外れて道の端に陣取る。


 周りは未だに喧騒が絶えないものの、ちらほらと片付けを始めるプレイヤーが見えて否が応でも祭りの終わりを感じさせた。


「美味しい物も一杯だったし、料理作る人はみんな凄いよ」


「そうですね!本当に凄い人達ばかりで……」


 レイの言葉に最初は笑顔を見せたミツミだったが、次第にその顔を曇らせていく。


「どうしたの?」


「もっと色々出来たことはあったなって……」


「あー、なるほど」


 不安がるミツミの気持ちにレイは共感しながらも、ただと言葉を続ける。


「ミツミちゃんも凄い人に入ってるんだけどなぁ。それに全力は出し切ったんならいいと思うけど。それともミツミちゃんはこの一週間、楽しくなかった?何か悔いが残ってる?」


 その問いかけにハッとしたミツミは暫し考え込んで――晴れやかな表情で顔をあげる。


「そう、ですね。楽しかったし悔いはないですっ」


「うん、なら良し!あとはドーンと構えて待つだけさ!」


「ぎゃう!」


「もきゅ!」


 不安な気持ちを掲げつつも顔を上げたミツミにレイは笑みを浮かべる。その姿を見てじゃしんとラッキーも嬉しそうな笑顔で鳴いていた。

[TOPIC]

CLAN【奇面族】

生産職のみで構成された奇々怪々な作品が特徴のクラン。クランリーダーは【じょーかー】。

クランメンバーは全員、ピエロのような恰好に加え、顔には半分笑顔半分泣き顔のお面をつけているという、少し変わった服装で統一されている。

その特色は彼らのクランハウスや作成するアイテムにも影響しており、使用者だけでなく、視覚的にも楽しめる物が多い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! 完売!良かったです! 、、、作者様は確保できましたか、、?(七色マカロン じゃしん、放置されてすねるの図。 仕方ないね、、、w うわぁ、、すげぇ、、、良く思いつくなこうい…
[一言] じゃしん、ドンマイ
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