2-31 ねぇねぇ?今どんな気持ち?
「うわぁぁぁぁんんん!!!」
「ちょっと大袈裟だって」
初日のコンテストが終わり、観客も疎らになったステージの近くで大声で泣くぺけ丸にレイは困ったように笑いかける。
「だって!まさか最優秀賞をもらえるなんでぇ!レイさん本当にありがどうございまずぅ!」
そんなぺけ丸の腕の中には豪華な金色のトロフィーがあり、それを後生大事そうに握りしめていた。
「君の作った作品が良かったんだって。私の貢献なんて米粒くらいだよ」
・そんなことないよ
・レイちゃんマジで綺麗だった
・惚れ直したわ
「そうかな?じゃあ二人とも頑張ったって事で!」
視聴者のコメントに照れたようにははにかむと、これ以上問答が続かないように綺麗にまとめる。そこにクランメンバーと話していたウサが近寄ってきた。
「おめでとう。完敗だった」
「あ、ありがとうございます!」
「あなたがレイの魅力を1番引き出してた。誇っていい」
ウサとぺけ丸はお互いの健闘を称えながら握手をすると、いかにレイに似合っていたか、いかにレイが素晴らしいかについての議論を始める。
・レイちゃん愛されてるね
・ヒューヒュー!
・魔性の女じゃん
「恥ずかしいからその辺にしてほしいなぁ!」
視聴者からの揶揄うようなコメントに顔を赤く染めながらも、レイは思い出したようにぺけ丸に話しかける。
「あ、忘れないうちに装備返すね」
「ん?返すの?」
「いや、そりゃ返すでしょ?」
レイにとっては当たり前の事だったが、ウサにとってはそうでもなかったようで二人して首を傾げた。
「私はプレゼントする約束だった。元々、彼女専用にあの装備を作ったから。多分彼も同じだと思う」
「はい!元からそのつもりです!ただ……」
ウサが話しかけると、勿論と言わんばかりに首を縦に振るぺけ丸だったが、心残りがあるのか言葉を詰まらせる。
「見た目はそのままでもう少しだけ強く出来るんです。でも、素材が足りてなくて……」
落ち込んだように俯くぺけ丸を見ながらレイはアイテム欄より性能を確認する。
ARMOR:【星空の修道女】
神に愛され、その身を誓った少女のみが纏うことを許される修道服。その姿は満天の星空にも負けない程鮮やかで、舞踏会に臨む淑女のようであった。
上昇値:MP+50 耐久+50 信仰+100
要求値:信仰→200
効果①:MP自動回復(1/30sec)
・これで?
・俺の装備より強いけど?
・流石トッププレイヤー…
確認した性能は今の段階ですらレイの装備(と言っても初期装備だから当たり前なのだが)を超えており、これ以上になるという言葉にレイと視聴者は驚きを隠せなかった。
「ちなみになんて素材なの?」
「【死者ノ白布】というアイテムです。ヘイラー墓地の【蠢く亡霊】から取れるんですが、中々レアなモンスターで市場にも出回らないんです」
念のため確認した所、残念ながらレイが持っているアイテムではなく、知っているモンスターでもなかったため、どうしようもないなとレイは思う。
「他にはグリムリーパーからドロップする防具に【裁断】スキルを使えば取れるんですが、そっちもかなりの難易度なんですよ……」
・ん?
・あれ?
・それって?
ただ、それで終わりではなかった。心当たりのあるモンスターの名前に視聴者が気付き、レイもアイテム欄を確認しながらぺけ丸に確認をとる。
「それって【輪廻欺ク死化粧】ってやつ?」
「それです。【裁断】スキルは持っているので後はそれさえあればなんとか出来るんですが…」
「それなら持ってるよ?」
「ええっ!」
「それも3つも」
「ええええっ!」
レイの若干ドヤ顔を含ませた言葉にぺけ丸は大げさに驚くと、すぐにレイに詰め寄る。
「譲って貰えませんか!?絶対に損はさせません!」
「こんなにあっても使わないし、良いよ」
「ありがとうございます!できれば2つ欲しいです!」
特に断る理由もないレイは【輪廻欺ク死化粧】を2つと【星空の修道女】をぺけ丸に渡す。
「二日ほどお時間を下さい!必ず完成させて見せます!」
「あっ、行っちゃった。何か元気な子だったね」
・でもこれで初期装備から卒業だね
・トッププレイヤーから作ってもらえるの羨ましいわ
・またレイちゃんが強くなってしまう…
「レイ、明日からは私も手伝う」
ぺけ丸について視聴者と所感を話し合っていると、半ば放置されていたウサがレイの裾を引っ張りながら声をかけてきた。
「え?アイの方手伝いに行かなくていいの?」
「服装以外手伝えることはないから」
「あー、なるほど。確かにあの子は一人でやるタイプだもんね」
一瞬疑問に思ったレイだったが、ウサからの返答を聞いて納得する。
そんなことを話していたからかレイはとある視線に気が付くと、ニヤリとあくどい笑みを浮かべながらスキップで件の人物へと近付いていく。
「あー!アイさんじゃないですかぁ!さっきはありがとうございましたぁ!」
「……いえ、こちらこそ」
誰かの真似をするように語尾を伸ばして猫撫で声で話しかけるレイそれに対しアイは苦々しそうな顔を一瞬したものの、流石アイドルというべきかすぐに笑顔で応対する。
「装備自体にそんな差がなかったからぁ、どっちが勝ってもおかしくなかったですもんねぇ!勝てて良かったですぅ!」
「あ、あはは……」
遠回しにモデルの差で勝ったんだぞと煽るレイに対し、何とか笑顔をキープしているアイだが、口の端はひくついており、乾いた笑い声をしていた。
「でも本番は明後日ですよっ!お互い、頑張りましょうねっ!」
「……そうですね!」
両腕を前に構えてぐっと握りこぶしを作りながら笑顔でガッツポーズを作るレイに、ついに我慢の限界に達したのか吐き捨てるように会話を切り上げると、アイは早足でその場を離れていく。
・どうしたん?
・あれってアイちゃんだよね?
・失礼だろ
・もしかして煽った?
「いや?そんなことないよ?ただ挨拶しただけ」
「ぎゃう~」
流石の態度に視聴者から非難めいたコメントがくるが、それにとぼけたように返すレイ。それを見たじゃしんはまるで大人げないなと言わんばかりに呆れた声を出した。
「……絶対許さないんだから」
途中、一度振り返ったアイドルによる怨嗟の声は楽しそうに笑うレイの耳に届くことはなく、祭りの喧騒の中へと溶け込んでいった。
[TOPIC]
ITEM【死者ノ白布】
死者が身に纏う白い布。そこには怨念と相違ない強い魂が宿っている。
効果①:素材アイテム




