2-30 星空の修道女
「あっ違うんです!そうじゃなくて、えっと、その、うぅ……」
盛大に失敗した美少年はあわあわと取り乱すと、恥ずかしさのあまり俯いて涙目になってしまう。
・あーあ、泣かした
・可哀そうに…
・ちょっとレイちゃーん?
「ぎゃう~」
その様子にコメント欄からは責めるコメントと、じゃしんからはそれに加えて責めるような眼を向けられ、レイは余計に困惑する。
「えっこれ私のせい?えっと、まず名前から教えてもらえるかな?」
「僕はぺけ丸って言います!えっと!その、配信見てます!」
目線を合わせて問いかけたレイに対して、顔を赤くして一歩引きながらも自己紹介と思いの丈を伝えるぺけ丸。
「あ、ファンってこと?それはありがとね」
そう言いながら握手を求めて手を差し伸べると、先ほどと比べ物にならない位取り乱し、茹蛸のように顔を真っ赤にしながらおずおずとその手を掴んだ。
「それでさっきは何て言ったの?」
「それは……僕の作った服を着て欲しいんです!」
今度は噛むことなくしっかりと言葉を伝えられたが、レイはその意味を理解できず首を傾げる。
「服を着る?」
「おそらくコンテストで、という意味」
そこに今まで黙っていたウサが口をはさむ。
「というと?」
「防具を見せるためにモデルを用意する必要がある。私達の場合はアイ」
「……ここでもその名を聞くのか。でもなんとなく分かった。それであってる?」
憎き敵の名前を耳にして一瞬眉を顰めたレイだったが、ぺけ丸へと振り替えると、確認をとる。それに対して彼はぶんぶんと何度も頷いて答えた。
「事情は分かった。でも私彼女たちのパトロンなんだよなぁ……」
内容を理解しながらもレイは弱ったように頭をかく。
当然友人のウサ達のパトロンであるレイは、彼女たちに勝ってほしいと願っている。そのため、彼女達の敵であるぺけ丸に力を貸すのは不義理なのではないかと感じていた。
「別に構わない」
「ウサ?」
そんな悩んだ様子のレイにウサが声をかける。
「彼は私達のライバル。本気じゃない彼に勝ったって嬉しくない」
・カッコいい
・漢や…
・いや女の子だけど?
その言葉に視聴者から称賛の声が上がる。ウサの後ろにいる他メンバー達も不敵な笑みで頷いており、ウサと同じ気持ちであることを悟ったレイはぺけ丸に向き直った。
「……本当はそういうの恥ずかしいから嫌なんだけど。いいよ、協力してあげる」
「本当ですか!?」
自身の気持ちと彼の熱意を天秤にかけ、諦めたように話すレイに対して目を輝かせるぺけ丸。
「その代わり変な衣装だと承知しないよ?」
「全身全霊をかけた自信作です!」
そんなやり取りをしながらもレイはぺけ丸と共に控室へと進んでいく。
こうして急遽、レイは舞台に上がることになったのだった。
◇◆◇◆◇◆
『さぁ始まりましたキーロクリエイティブフェスタ職人コンテスト!司会はこの私、ムーシーがお届けいたします!』
ステージの上でマイクを握った七三分けのNPCが声を上げると、その下に存在するプレイヤーたちは一気に湧いて歓声を上げる。
『初日は防具部門のコンテスト!まずは概要の説明から!』
観客の反応にムーシーは満足するように頷くとコンテストについて説明を始める。
『コンテストの形式は至って簡単!これより作成者の名前と共に、モデルの方が奥より歩いて参ります!それを見て、1番印象に残った人物に最後投票して下さい!見た目で選ぶもよし、懇意にしている製作者を選ぶも良し、性能はこちらのモニターの方に表示しますので、そちらで選んでいただくも良し!とにかく皆様の1番を決めて貰います!』
ムーシ―がモニターを指さしながら説明をし、それが終わると一段階声のトーンを上げる。
『前置きは程々にしまして、早速参りましょう!トップバッターの方どうぞ!』
そうしてコンテストの開始を告げるように大音量のBGMが鳴り響くと、それぞれのプレイヤーの名前が呼ばれ、そのモデル役がステージへと上がっていく。
「緊張してきますね……」
「まぁ、そうだね」
参加者のモデル役が入れ代わり立ち代わり移動する様子を、控室のモニターで確認しながら待機しているぺけ丸は今にも倒れそうなくらい青い顔をしている。
「だ、大丈夫でしょうか」
「大丈夫だって。さっき見せてもらったやつ最高に良かったよ」
「あれ?ここで何してるんですか?」
それを励ましていたレイだったが、不意に聞きたくもない声をかけられ一瞬だけ渋い顔をした。ただ、すぐに澄ました顔に戻ると何でもないように声のした方を向く。
「なんだ、アイさんか。この子のモデルやることになったんだよね」
「ぺけ丸さんの?ふーん、作品はイーブンってわけですか」
良く分からないことを言うアイに首を捻ったが、レイは次第にその真意を理解していく。
「……あぁ、これを前哨戦にするって意味?」
レイの問いかけに言葉で返ってくる事はなかったが、その不敵な笑みは何よりも雄弁に語っていた。
「アイ、無暗に喧嘩をうるのはやめて」
「ウサさん?うってないですよ~。挨拶してただけですってば」
バチバチと視線で火花を散らしていた二人だったが、ウサの諫めるような言葉を聞いてアイが先に視線を外した。そしてお互い頑張りましょうと心にもないことを言いながら離れていく。
「レイ、ごめん」
「いやウサは悪くないよ。ただ、こっちもやるからには本気だからね」
レイの言葉に一瞬止まったものの心なしか嬉しそうに返答するウサ。
「分かった。でもこっちも最高傑作を用意した」
『続いてはクラン【Gothic Rabbit】よりモデルはアイ!』
「みんな~!げんき~?」
丁度その時、モニターにはステージに上がるアイの姿があった。
【Gothic Rabbit】の名に恥じないゴシックドレスをその身に纏っているが、普段のウサたちが着ているような真っ黒ではなくむしろ正反対の白色をしており、アクセントとして薄いピンク色のレースが見える、非常にアイドルらしい衣装になっている。
「アイちゃーん!!!」
「結婚してくれー!」
「世界一可愛いよー!」
「あはは、ありがと~!」
野太い声援にアイは手を振りながら答える。
それ以外にも女性プレイヤーたちからも黄色い声援が上がっており、全体を通して今日一番の歓声が上がっているとレイは感じた。
「アイはあんな性格だけど自分の見せ方を理解している。だから、普通では取り込み辛い女性層も取り込める」
モニターからその光景を見ながら強みを解説したウサは、瞳の奥に強い意志をもってレイに語り掛ける。
「うちは、強いよ?」
「……なるほどね。こりゃ強敵だ。でも負けるとは思わないかな」
その言葉に肯定で返しつつもレイも負けじとその目を見返す。
「あ、レイさん!次みたいですよ!お、大トリらしいです!」
「いいじゃん1番目立つね。じゃ、行ってくる」
「うん」
「よろしくお願いします!」
少し早くなった鼓動をごまかすように、敢えて虚勢を張りながらも、ぺけ丸から渡された防具を装備して控室を出る。
「最後はレイさんですか、一体どんな衣装――」
その道すがらにすれ違ったアイは衣装を身に纏ったレイと目が合い、惚けたように固まる。それに何も返すことなくレイはステージへと進んでいった。
『それでは最後の参加者となります!製作者はぺけ丸でモデルはレイ!』
名前が呼ばれたことで、レイは覚悟を決めて背筋を伸ばしてステージに上がる。
――瞬間、静寂が訪れる。
ステージを歩くレイの姿は、ワンピース型のいわゆる修道服であった。
深い藍色に散りばめられた銀の繊維が照明によってきらきらと光るその様は、まるで満点の夜空を想像させるほど美しい。
ただ一般的に想像される物と異なるのは、袖が七分であったり足にスリットが入っていたりと、ある程度肌が露出しているため、淑女のドレスのようでありながらラフなイメージを感じさせた。
「綺麗……」
誰かが、呟く。それはその場にいる者の総意でもあった。
レイはその言葉を耳に入れながらも反応することなく堂々と歩くことに徹する。そのまま誰一人として言葉を発さないままステージを渡り終え控室へとレイは戻っていった。
数十秒後、ムーシーが自分以外いなくなったステージ上で思い出したかのように進行を進めだす。
『……はっ!余韻に浸ってしまいました……!これにて全参加者の発表が終わりました!つづいて投票に――』
「ふぅ、どうだった?」
「最高でした!」
控室に戻ったレイが緊張した心を整えるために息を吐きながらぺけ丸に問いかけると興奮気味にレイに詰め寄った。
「で?どうだった?」
「ッ……」
それを宥めながらも、先ほどからレイの方をチラチラ見ているアイに同じ質問をすると、悔しそうにその場から立ち去って行く。
そしてその時は訪れる。
『結果が出ました!選ばれたのは――』
前哨戦、制したのは。
[TOPIC]
PLAYER【ぺけ丸】
身長:153cm
体重:48kg
好きなもの:モノづくり、配信、レイ
色素の抜けた髪色に色白で華奢な体系をした中性的な少年。
生産職の中では名を馳せたプレイヤーであり、彼の作る武器や装備は質が良いと、トッププレイヤーの間でも評判であった。
最近見つけたレイの配信に心を奪われ、彼女に似合うであろう服を妄想しては一人で悶えるという日々を過ごしており、コンテストの優勝を目指すことを機に、その欲望を叶えるために動き出したようだ。




