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2-28 万全な準備を


「助かったわい。礼を言わせてもらうぞ」


 ハカアラシ戦を終えて、無事に家に帰ってきたセル爺は開口一番に感謝の言葉を述べると、レイに向かって頭を下げた。


「いや、頭を上げてください!」


「いやいや、お主がいなかったらどうなっていたことか。お主は儂の恩人じゃ」


 クエスト当初とは打って変わって、謙虚な態度をとるセル爺にレイは困惑する。


「それと酷い態度をとって本当に申し訳なかった。妻の残した宝物故、守らねばならんと躍起になりすぎてたかもしれん」


・そうだったのか

・確かにそう言ってたな

・セル爺…


 深く頭を下げながら謝罪の言葉を口にする様子に、視聴者からは同情の声が上がる。当然そのコメントと同じ気持ちであり、困ったように笑いながらセル爺に声をかけた。


「頭を上げてくださいってば。そりゃまぁちょっとはムカつきましたけど、もう気にしてませんよ」


「ぎゃう、ぎゃう」


 励ますようにレイとじゃしんが声をかけるも、頭を上げたセル爺の表情はどこか申し訳なさそうな顔をしている。どうしたものかと悩んでいたが、妙案を思いついたのかニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「あ、そうだ。じゃあ代わりに一つお願いが」


「何じゃ?」


 その様子に少し警戒したセル爺に対してレイはじゃしんを指さしながらこう続けた。

 

「またこの子と遊んであげてくれませんか?どうやら将棋が気に入ったみたいで」


「ぎゃう!」


 その言葉に合わせてじゃしんは右手の中指と人差し指を合わせて駒を置く動作をする。


 拍子抜けしたように一瞬きょとんとしたセル爺は、状況を理解するとすぐに満面の笑みを浮かべた。


「ほっほ。いつでも歓迎するぞい」


 そうして2人と1匹が笑いあっていると、レイの耳にどこからともなく機械音のアナウンスが聞こえてきた。


[クエスト【頑固爺の雑用係】をクリア致しました]


「よしこれで任務達成っと……。って違う!【霊界カボチャ】を大量に売ってください!今すぐに!」


「う、うむ……」

 

 満足感に浸ろうとしていたレイは本当の目的を思い出して慌ててセル爺に詰め寄る。急変した態度に若干引きつつも、快く【霊界カボチャ】をレイに販売した。


 そうして大量の【霊界カボチャ】を仕入れることに成功したレイはセル爺に別れを告げ、ミツミの店へと向かった。


「そういえばラッキー、さっきは助かったよ」


「ぎゃう!」


「もきゅ?」


 その道中、レイは浮いているじゃしんの頭に陣取るラッキーに向けて話しかける。


「でもさ、どうしてあそこいたの?」


「もきゅ!もきゅ!」


「ぎゃう~」


「う~ん、分からん」


 不安定の足場の上で、器用にボディーランゲージを行うラッキーだったが、当然何が言いたいのかは分からず理解することを早々に諦めたレイ。一方でじゃしんは感心したように拍手をしていた。


「結局、さっきのハカアラシは何だったんだろうね」


・やっぱユニークだよな?

・なんかのイベント臭いけど

・またワールドとか?

・そもそもラッキーの能力は?


 そんなに引きの様子を眺めつつも、レイは視聴者を交えて考察を開始する。


「多分だけど、状態異常回復とかだと思う。それで【感染】を回復したんだと思うけど――なんのイベントかはわかんないし、発生するまでのお楽しみかな」


 ただ、考えても答えが出ないと判断したレイは、そうそうに思考を切り上げて、少しペースを上げながらミツミの店へ向かう。


 数分ほど小走りで移動し、目的地の店にたどり着くと、そこには入り口の前で心配そうにあたりを見渡しているミツミの姿があった。


「おーい、ミツミちゃーん!」


「もきゅー!」


「レイさん?――あ、ラッキー!どこ行ってたの!心配したんだよ!」


 声をかけたレイと目が合った後、隣にいたラッキーを見たミツミは一瞬だけ安心した顔を見せ、直ぐに怒ったような口ぶりでラッキーへと迫る。


 それを見たレイはラッキーが勝手に出てきたことを把握して、すかさずフォローに入った。


「ごめん、責めないで上げて。ラッキーにすごい助けられたからさ」


「え?どういうことですか?」


 そのまま怒ろうとしていたミツミを止めると、レイは先ほどあった出来事をかいつまんで説明する。


「そんなことが……。ラッキー、偉かったね」


「もきゅ!」


 説明を聞き、感心した様子で褒めるミツミに、ラッキーは胸を張って答える。それを見たレイは微笑みつつも、〈アイテムポーチ〉からアイテムを取り出した。


「よし、それじゃあこれが頼まれてた【霊界カボチャ】。これで足りる?」


「うわ、こんなに!大丈夫です!ありがとうございます!」


 店内に積まれた大量のカボチャに驚きつつも嬉しそうに笑顔になったミツミにレイも自然と笑顔になる。


「それで、【虹色マカロン】の作成は順調なの?」


「はい!リボッタさんがすぐに素材を集めてくれたおかげでほとんど完成してます!試作品ですけど食べてみますか?」


 そう言ってミツミは色鮮やかな6色のマカロンを差し出し、レイはそれを口に運ぶ。


「うん、おいしい!あと3日間――ゲーム内では9日かな?ラストスパート頑張ってね」


「はい!」


 その返事に問題はなさそうだと判断したレイは一度大きく伸びをするとこれからの予定を伝える。


「じゃあ私はこれくらいでログアウトしようかな。多分当日までログインしないと思うけど大丈夫?」


「私は大丈夫ですけど……何かあるんですか?」


 心配する声にレイは天を仰ぐように見上げると、ひどく切ない顔で呟いた。


「宿題が、ね……。これから3日間デスマーチするんだ……」


「あ~……」


・あ、ふ~ん…

・レイちゃん学生か

・それはしょうがない


 誰しもが経験したであろう地獄に、視聴者とミツミは納得したように声を上げる。


「ってなわけで、悪いけど配信も当分お休みするよ」


・おけおけ

・がんばって~

・じゃあ次は3日後か


 特に不満の声が上がらないことに少しほっとしたレイは改めてミツミに向き直って激励をとばす。


「じゃあミツミちゃん、応援してるからね。本番当日もよろしく」


「はい!」


 ミツミが自信満々で頷いたのを見てレイも満足げに頷くと、笑顔で握手をしてその店を後にする。


 クランハウスに戻る道中、当分このゲームに参加出来ないことに名残惜しさを覚えながらも、手放しで臨むために現実世界で頑張ろうと決意するレイ。


 一方でミツミを含むコンテストの主役たちは、時間とその身を削って最後の追い込みをかけていく。


 決戦の日は、近い。

[TOPIC]

QUEST【頑固爺の雑用係】

発生条件:【キーロ】の東通りにある屋敷の前で、5分間呼び続ける

達成条件:セル爺の課題をクリア※

※おつかい、掃除、洗濯、畑仕事などの家事を実施した後、最後に墓参りに同行する。

失敗条件:セル爺の機嫌を損ねる

報 酬 :【霊界カボチャ】の購入権

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― 新着の感想 ―
[一言] 課題か…やれば出来るけどそうすると確実に キツすぎてヤヴァイ状態になるので ちょっとしかやらない人です。
[一言] な~に宿題なんてやった事無くても大学卒業位できますよ?(出さなきゃ単位取れなかったりする場合と卒論は除く)
[一言] うちの学校、宿題やってこなくても先生怒んないけど、容赦なく点引いてくんだよね 学期末に通知表見て何度後悔したことか
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