2-25 頑固爺の雑用係
【レイちゃんねる】
【第8回 コンテスト勝ちに行きます】
「やっほ~、みんな昨日ぶり」
・やっほ~
・わこつ
・タイトルどういうこと?
・生産職じゃなくね?
方針が決まり解散してから一日経った今日、レイは再び配信を開始していた。
「あぁごめん、パトロンとしてある子を勝たせたくてね。というより負けたくない相手がいるっていう方が正しいか……」
含みのある言葉に視聴者から疑問の声が上がるがレイは何でもないと誤魔化して話を続ける。
「まぁとにかく、今日はそのためにクエストを回していくつもり」
・クエスト?
・どんなクエストなん?
「【霊界カボチャ】が欲しくてね。それを購入できるようになるためのクエストをやってくよ」
・何それ?
・霊界カボチャとは
・あー噂の
・セル爺か…
レイの説明だけで理解した視聴者は一定数いたものの、それでもそれ以外の視聴者のためにレイは説明を続ける。
「【霊界カボチャ】っていうのは〈知性〉にバフをかけてくれるアイテムらしくて……あぁついでにマカロンの説明もしておこうかな」
丁度いいと言わんばかりにレイは、アイに関する話をぼかした状態で事の経緯を説明し、そのついでにコンテストでミツミが作る料理の説明と宣伝を行う。
・面白そう
・いいなそれ
・俺もパトロンになろ
・パトロンの解除ってできるのかな?
概ね好感触なコメントが多く見られたことに、レイは満足げに頷く。
「うんうんよろしくね。さて予習もちゃんとしてきたし、時間も惜しいから早速行こうか」
「ぎゃう!」
そう言ってレイは歩き始める。その横にはじゃしんが凛々しい顔で飛んでいた。
◇◆◇◆◇◆
「ごめんくださーい!」
レイがやって来たのは東通りに存在するとある民家。
この街で唯一NPCの住宅街のある東通りは、中央部分の喧騒と比べて閑静な雰囲気であり、レイはその中でも比較的大きい家の戸を数回叩く。
・あれ?
・全然出てこないじゃん
・聞こえてないのか?
「ぎゃう?」
レイの大声に全く反応を示さず、開く様子のない扉に視聴者とじゃしんは首を傾げる。ただレイは最初から知っていたのか平然と答える。
「これ5分くらい呼び続けないといけないらしいから……すいませーん!」
そう説明してからも声をかけ続け、彼女の言う通り五分が経過したタイミングでようやく中から反応があった。
「うるさいのぉ!いったい何の用じゃ!」
ガラガラと引き戸が開くと中から甚平を羽織った小柄な男性が少し怒った様子で現れる。
「初めまして。セルさんで間違いないですか?」
「そうじゃが……お主は何者じゃ?」
怪しい者を見るような目つきでレイのことを睨むセル爺にレイは慌てた様子で名乗る。
「あ、怪しいものではなくて!私は探索者のレイって言います」
「ふむ……で、何の用じゃ?」
「実は【霊界カボチャ】を売ってほしくて――」
「あ、なんじゃって?」
「【霊界カボチャ】を!売って!欲しいんです!」
「うるさいのぉ!そんな大きい声出さなくても聞こえとるわい!」
・えぇ…
・老害すぎる…
・ぶん殴りそう
あまりにも理不尽なやり取りに視聴者から困惑するコメントと、レイが暴れだすんじゃないかとはらはらするコメントが流れる。
「いや、これ怒ったら当分出来なくなるうえに最初からやり直しなんだよ。だから我慢するしかないんだけど……」
ただ当の本人のレイはあらかじめ仕様を知っていた影響もあってか意外と冷静だった。……まぁ当然内心ではイライラしてはいたのだが。
「まぁ言いたい事は分かった。じゃが丹精込めて育てておるわしの子供達を何処の馬の骨とも知れないやつに渡すのもなぁ」
ちらちらとレイを見ながら悩む様子を見せていたセル爺は、まるで妙案を思いついたようにぽんと手のひらに握りこぶしを乗せる。
「そうじゃ、儂から幾つか依頼を出す。それをすべてクリアしたら売ってやってもよいぞい」
[スタンダードクエスト]
【頑固爺の雑用係】
・セルのお願いをすべて完了する
・報酬 【霊界カボチャ】の購入権
予定通りクエストが発生したため、第一関門を突破したことにレイはほっと安堵の息を漏らす。
「はい、よろしくお願いします!」
「じゃあまずは……【ミスリルの鍬】が欲しいのぉ。今使っているのが壊れそうなんじゃ」
・ミスリルの鍬?
・まーたなかなか手に入らないものを…
・ミスリルってそこそこレアだよな?
1つ目のお願いがそこそこの難題であることにコメント欄は渋い声を上げたが、一方でレイは笑顔のままウィンドウを操作する。
「どうぞ!」
「ほう、持っておったか……うむ、確かに【ミスリルの鍬】じゃ」
感心したように鍬を眺めるセル爺の様子にレイは余裕の笑みを溢す。
・もってたんだ
・3分クッキングかよ
・これは有能
「そりゃそうでしょ、調べてきたんだから。ちなみに提供はリボッタです」
・知ってた
・でしょうねぇ
・残当
そんなやり取りをレイがしていると、一通り確認が終わったのかセル爺は鍬を中にしまってレイに声をかける。
「じゃあ次は掃除でもやってもらおうかの。付いてこい」
そう言ってセル爺が庭の方角へと歩きだしたため、レイもその後ろを付いていく。
そうして辿り着いた先にあったのは蔵のような場所だった。その後、セル爺は懐から鍵を取り出して錠前を開けて――レイは言葉を失う。
「……は?」
・うわぁ…
・ヤバすぎでしょ…
・ゴミ屋敷?
目の前に広がっていたのは乱雑に積まれたがらくたの山々だった。足の踏み場もないほどの多くの物が溢れた地面に加え、長年誰からも整備されていないせいか天井には蜘蛛の巣が張っている。
「婆さんがいなくなってから誰も掃除してくれんくてな。折角じゃからお主やってくれ」
それだけ言うとセル爺はお尻をかきながら先ほどの縁側へと歩いて戻る。
「これ……やるの……?」
・大変とは聞いていたけど…
・うちより汚い
・ヤバいなこれ
あまりにも凄まじい光景にコメント欄は騒然とし、レイはしばらく茫然とする。ただ、やらなければいけないことには変わりないため、ぶんぶんと首を振り直して両頬をバチンと叩くと気合を入れ直した。
「え~い、悩んでても仕方ない!体動かすよ!じゃしん!」
「ぎゃう~……」
やけくそ気味で叫んだレイは物が溢れて足の踏み場もない部屋に突撃していく。その後ろにはじゃしんが辟易した表情で浮かんでいた。
[TOPIC]
QUEST【頑固爺の雑用係】
発生条件:セル爺の屋敷の前で5分間呼び続ける
内容:セル爺の課すお願いを叶えていく
失敗条件:セル爺の機嫌を損ねる




