2-22 ガールズトーク
眠らない街とも揶揄される【キーロ】はその名の通り1日中華やかな色どりをしている。
街の中央から放射状に広がる道沿いには、所狭しと屋台や店舗が並んでおり、どんな時も騒がしく昼夜問わず多くの人で溢れかえっていた。
普段はほとんどの店がNPCによる運営となっているこの場所も、イベントの影響かプレイヤーが商売を行っている姿も多く見え、普段よりいっそう賑わいが増しているようだった。
「なんかお祭りやってるみたいでテンション上がるね!」
「そうですね!」
周囲の声にかき消されない様に大声で喋るレイと、彼女と同様に高いテンションで喋るミツミ。
・そうだね
・派手でいいよな!
・この雰囲気めっちゃ好き
「ぎゃう!」
「もきゅ!」
連れているじゃしんと虹リスのみならず、見ているだけの視聴者すらも普段より楽しそうな雰囲気をしていた。
「ミツミちゃんどこ行きたいの?全部回る感じ?」
「あ、いえ!屋台周りは兄達と回りましたので!残り三軒だけ付き合って下さい!」
「おっけー、じゃあ早速いこー!」
「お、おー!」
「おー」
「ぎゃうー!」
「もきゅー!」
レイの掛け声と共に全員右手を突き上げる。ただレイはその数に少しだけ違和感を感じた。
「ん?今なんか一人多かったような…?」
「置いてくなんてずるい」
「あ、ウサ!?」
声がした方を振り向くと、そこには若干口を尖らせているウサの姿。それを見たレイはその場から飛び退くように驚いたモーションをしてみせる。
「何でここに!?」
「休憩中。私も一緒に遊びたい」
相変わらずちょっとズレた返答をするウサを見て、レイは困ったように笑う。
「もしかして【Gothic Rabbit】のゴスウサさんですか?」
「え?ミツミちゃん知ってるの?」
そこへ思い掛けず口を開いたミツミに驚いた様子を見せるレイ。
「勿論です!むしろ知らないなんて遅れてますよ!」
「うぐっ!」
・あー…
・レイちゃん…
・知らない奴なんていないよなぁ!?
その何気ない一言に要らぬダメージを負うレイ。そんなレイを放っておいてウサとミツミは会話を続ける。
「嬉しい。あと、私の事はウサでいい」
「そんな恐れ多いですよ!」
「そんな事はない。それにイベントに参加するもの同士、仲良くするのも大事」
「そっか……。そうですね!ウサさん、頑張りましょう!」
落ち込んでいるレイを無視して二人はいつの間にか意気投合したようで、仲良く握手すると、ウサはレイに向けてドヤ顔を向ける。
「もう友達になった。これで問題ない」
そう言うとミツミと楽しそうに話しながらスタスタと歩き始める。
「……まぁ仲が良いのは良いことかな」
置いていかれたレイはボソリと呟くと、諦めたように前へと歩く2人について行った。
◇◆◇◆◇◆
「ようこそ!『奇面族の館』へ!まずはこちらをプレゼント!」
南通りに存在するテント型の建物。そこに足を踏み入れたレイ一行はピエロの姿をしたプレイヤーからあるものを渡される。
「何これ?」
「風船、ですかね?」
「それは【バルーンマシュマロ】!食べてみて!」
手に持ったそのアイテムはまさに真っ赤の風船の見た目をしており、少し抵抗を覚えつつも、レイ達は恐る恐る口にする。
「あ!本当にマシュマロです!」
「美味しい」
「中は空洞なんだ。不思議だね」
「当店では現実では見られない、ゲームならではの『びっくり面白料理』を提供しているんですよ!」
・へぇ~
・面白い
・賢いな
ピエロによる説明に感心したように視聴者がコメントし、レイも心の中で同意する。
そうこうしているうちにレイ達の順番となり、ピエロの先導の元、席へと案内された。
「結構繁盛してるんだね」
「そりゃそうですよ!トップレベルの人気店なんですよ!?」
「レイは興味がない事を知らなすぎる」
席に座りながら特に何も考えず呟いた一言に思わぬ猛反発をうけ、レイはうっと声を詰まらせる。
反論しようも残念ながら正論は向こうにあり、中々二の句を告げずにいると、その間に先ほどとは別のピエロが料理を運んできた。
「こちら一番人気のメニュー【虹の雫】になります」
「ん?何もないけど……」
レイの言う通り、運ばれてきたのは空のガラスであり、虹の要素などどこにもなかった。ただその指摘にピエロは笑みを崩さずに答える
「いえいえ、虹は雨が降らないと現れないんですよ?こんな風に!」
そう言いながらピエロがタクトを振ると、ボフンと音をたてながら煙が上がる。その煙が晴れるとグラスの中は七色の液体で満たされていた。
「わぁ……!すごい……!」
「そうでしょうそうでしょう!」
思わず感嘆の声が漏れたミツミにピエロは満足げに大仰に頷くと、フロア中に聴こえるように声を張り上げる。
「コンテスト当日には、中央の広場でもーっと面白い催し物をする予定だよ!気になった方、応援してくださる方は是非是非パトロンに!よろしくお願いします!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「応援してるぞー!」
「絶対勝てよ!」
「俺もパトロンになりたい!」
期待感を煽るような、かなり含みを持たせた宣伝をするピエロ達の言葉に店内にいたプレイヤー達が沸き立つ。
それを聞いたレイも同様にワクワクしつつも、少し疑問になったことを視聴者に問いかけた。
「ねぇ、パトロンってコンテスト参加者側にもメリットがあるの?パトロンになった人が報酬もらえるってのは分かってるんだけど」
・そりゃあるよ
・金額とかアイテムの寄付とか
・当日のプレイヤー投票もあるから
・パトロンが多い=顧客が多いだからな
・勝負はもう始まってるのだよ
「そっか、準備期間っていっても作品にだけ集中すればいいわけじゃないんだ。深いなぁ」
生産職には生産職の戦いがあるのだと改めて理解したレイは、大変そうだとどこか他人事のように考える。
「私たちも頑張ってる」
「あーはいはい、偉いね」
話の流れに便乗するように頑張ってるアピールをしてむふーと胸を張るウサに対して、レイはおざなりにその頭を撫でた。
「荒い……。そういえばレイはパトロン決めた?」
「まだだよ」
「じゃあ防具部門のパトロンは【Gothic Rabbit】で」
「まぁ別に良いけど」
ウサの提案に特に断る理由もないレイは承諾する。
「よし、これでまた撮影会ができる……」
「今なんて言った?」
「何も言ってない。あ、ミツミのパトロンにもなるべき」
口笛を吹きながら何かを誤魔化すような態度のウサにレイは目を細めたが、その提案自体は魅力的だったため、しばし考えた後、レイは頷きながら返事をする。
「それ良いね。そうしようかな」
「え、そんな!勿体無いですよ!」
それに対して難色を示したのは他でもないミツミだった。
「え、どうして?1位目指してないの?」
「そんなことないですけど……。でも他にもっとすごい人が……」
「ミツミちゃんがやる気満々なのは見てきたからね。なんなら私たちも手伝うし。というかそもそも――」
そこで息を吐くとミツミの方にウィンクしながらレイは続ける。
「――私、勝機の無い賭けはするつもりないよ?」
・これは姉御
・惚れるわぁ…
・カッケェ…
「ちょっと、茶化さないでよ」
あまりにもカッコつけたその様子に視聴者から少しバカにするようなコメントが流れたものの、どうやらミツミには響いたようだった。
「レイさん!私頑張ります!絶対期待に応えて見せます!」
「レイ、私も」
レイの言葉にやる気満々と言った様子で拳を握るミツミとそれに対抗するようにレイの裾を引っ張るウサ。
なんだか妹が二人できたような、なんとも言えない気持ちを覚えたレイは、とりあえず二人の頭を撫でてお茶を濁すのだった。
[TOPIC]
WORD【パトロン】
コンテストにおける生産職以外のプレイヤーの役割で、各部門ごとに一人支援するプレイヤーを選択する。
素材やお金の提供などあらゆる面で支援することが出来、逆にパトロンになる事で、安く購入できるなどの特典があったり、支援していたプレイヤーが優勝した際に報酬を受け取ることが出来る。




