2-17 心機一転、これからの事
[これより1時間の間、デスペナルティを付与いたします]
どこからかデスしたことを伝えるアナウンスが聞こえ、レイはベッドから起き上がる。
しばしぼーっとしていたレイは現状を確認するように数回手を握ったり開いた後、悔しそうに天を仰いだ。
「あー!やられた!悔しい!」
「ぎゃう!?」
それを体で表現するように布団をばたばたと両手で叩く。ただその顔は嬉しそうに笑っていた。
「完全に油断してた! あんな親切する人の訳ないのに!」
「ぎゃ、ぎゃう~?」
笑顔で奇声を上げるレイの様子に恐る恐るといった表情で近づいてくるじゃしん。
「あ、驚かせちゃった?ごめんごめん。何でもないよ」
「ぎゃう~……」
じゃしんはレイの言葉にほっと胸をなでおろしたものの、すぐにもじもじとバツが悪そうな顔をした後に勢いよく頭を下げた。
「ん?どうしたの?」
「ぎゃう!ぎゃう!」
「いや、分かんないけど……もしかして前の事謝ってる?」
「ぎゃう」
こくりと頷いたじゃしんにレイは苦笑する。
「じゃしんのせいじゃないのに律儀だね。大丈夫、もう気にしてないから」
「ぎゃう?」
晴れやかな顔をして頭を撫でるレイの様子にじゃしんは拍子抜けしたように疑問符を浮かべた。
「丁度良いし配信しよう。そこで何があったか説明するよ」
レイはそう言うってウィンドウを開き、慣れた手つきで配信を開始する。
【レイちゃんねる】
【第7回 決意表明】
「あ~、マイクテスマイクテス。さっきぶりだね」
・わこ
・今日はもうないと思ってた
・レイちゃん大丈夫なの?
・さっきセブンの配信にいたよね?
「やっぱ見てた人もいるか~。うん、ちょっとお話ししたいことがあってね」
ちらほらと集まってきた視聴者からのコメントを読み上げつつ、改めて先ほどまでの経緯の説明を始める。
「知らない人もいると思うから説明するけど、実はさっきまであのセブンさんと話してました」
・マ?
・うわっ見たかった~!
・レイちゃん借りてきた猫みたいになってたね
・でも途中から配信止まったんよな
何処か照れたように頬をかくレイに、ざわつきだす視聴者達。見ていた者と見ていなかった者で大きく反応が異なっているが、レイはそれを宥めると説明を続ける。
「だね。だからそこから説明するけど……じゃん!」
すこしだけ溜めを作ったレイは、セブンから譲ってもらった【召喚の石板】を取り出す。
・召喚の石板じゃん
・え?レベル20になったの?
・いやそれは召喚士の話だからレイちゃんは関係ない
・まさか今掲示板で話題になっている奴?
「ごめんそれは分からないけど、実はセブンさんとオークション会場に行ってたんだよね」
・オークション……?
・今月まだじゃね?
・セブン……襲撃事件……あっ(察し)
・は?それマジで言ってる?
先ほどと同じようにはにかむレイに対して、今度は視聴者は皆一様に何とも言えない雰囲気でコメントを残す。
「まぁ全部セブンさんがやったんだけどね。私は付いていっただけでおこぼれ貰った感じ」
あははと笑うレイの言葉によって、視聴者達は主犯が別人と分かり少しだけほっとする。
・はぇ~、そんなこと出来るんだね
・確か奥に馬鹿硬い金庫なかった?
・ある。前に侵入した奴は絶対壊せないって言ってたな
「詳しいことは伏せるけどセブンさん余裕で突破してたよ?いやぁ、あれはかっこよかったなぁ」
先ほど起きた出来事を思い返しながらもだらしなくにやけてしまうレイに、視聴者から呆れにも似た突っ込みが入る。
・レイちゃんセブンのこと好きすぎん?
・わかる、めっちゃ楽しそうだよね
・でもそれで譲ってくれるとか良い人なんだな
・俺は正直まだ疑ってるぞ
知っている人はセブンという人間を理解しているため、余りにも信用がないそのコメントにレイから苦笑が漏れた。
「当然、その後キルされて10万G取られてるんだけどね」
・ほら~
・前言撤回、ヤバい奴だったわ
・やっぱりな
・それでこそセブンだなw
「まぁセブンさんらしいよ。でもそれがセブンさんなりの優しさだと思うんだよね」
・なるほど
・そうかぁ?
・またデスマラソン始まる?
・実家(瘴気の下水道)に帰るぞ!
「ぎゃう……?」
納得と何かに期待するコメントが流れる中、その不穏な単語に反応したじゃしんは不安そうな目をしながらレイの様子を窺う。
「あはは、そんな顔しなくてもいいよ。やり直すなんて考えてないから」
それを見たレイはその不安を消し飛ばすかのように豪快に笑い声を上げると、じゃしんの頭を強めにガシガシと強めに撫でた。
「それよりも私が話を聞いて思ったのが、このゲームのこと全然知らないなってことだね。そりゃ始めて一ヵ月もたってないんだから当たり前なんだけど」
自嘲するようにフフッと笑うレイの目には強い光が宿っており、前回のように落ち込んだ様子は全く見えない。
「確かに運営にはちょーっとムカつく気持ちもあるけどさ、まだまだひよっこの私がこんな簡単に分かった気になって匙を投げるのもなんか違うかなって」
よいしょと一声だすとレイは傍にいたじゃしんを抱きかかえて膝の上に乗せる。
「せっかく可愛くて珍しい相棒もできたのにさ、こんなしょーもないことでやめちゃうなんてもったいないでしょ」
「ぎゃう……!」
レイの信頼を寄せた言葉にじゃしんは感服したかのようにウルウルと涙目になる。そんな様子に笑みを零しつつも、レイは決意の籠った瞳で力強く言葉を紡いだ。
「だからこれは決意表明。私は今のこの状態のまま、『ToY』の世界で1番の存在になるよ。どんなことが起きても絶対に諦めないし、私は私のやりたいようにやるってことを、ここに宣言します!」
・いいね。それでこそ『きょうじん』
・今までもこれからもずっと応援してるよ!
・好き勝手やっちゃえ!
声高に放ったその宣言に対して、不可能だというコメントもちらほら見えはするが、その多くが応援コメントであり、レイは自然と笑顔が溢れる。
「そんなわけでこれからもお付き合いください!もちろん、じゃしんもよろしくね」
「ぎゃう!」
自信満々な底抜けに明るい笑顔を向けたレイにじゃしんは大きく吠えると、しがみつくようにその胸に飛び込んでいった。
[TOPIC]
WORD【キーロオークション会場襲撃事件】
八月某日、『魔王』セブンによってキーロのオークション会場が襲撃された事件。
オークション会場がセブンによって襲われたのはこれで四回目であり、被害総額はゲーム内換算で億にも届くと噂されている。




